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利用者さんのご自宅におじゃまするための接遇術

公開日:2023.08.24

利用者さんのご自宅におじゃまするための接遇術

文:牛玖恵梨子(作業療法士)

接遇は「もてなすこと」です。訪問リハビリや訪問看護ステーションからのセラピストによる訪問では、利用者さんのご自宅に「おじゃま」し、そのうえで接遇を行います。つまり「もてなす」わけです。
訪問リハビリでは赤の他人が自宅へ押しかけ、あたり前のように毎週出入りします。普通ではありえない日常といえます。人によっては、どんな理由であれ、他人が自宅内に入られることに抵抗やストレスを感じる方もいるでしょう。
そこで今回は、利用者さんやご家族に快く訪問を受け入れてもらうためにできる、セラピストの接遇術について考えていきます。
接遇・処遇やマナー講習といった名目でマニュアル化されていたり独自の研修を行っていたりする事業所も多くありますので、本記事では、筆者が訪問看護ステーションで働いていたときに接遇で困ったことや実際に行っていた接遇術をご紹介したいと思います。

病院・老健との違い

病院や老健などの施設で働いていた経験のあるセラピストであれば、訪問の世界に足を踏み入れた段階で、身につけるべき接遇がまったく異なることに気づくでしょう。
私も訪問看護ステーションへ転職する前は病院や特養で働いてましたが、基本的に先輩セラピストや看護師さんたちの接遇を真似していれば、患者さんや利用者さんから怒られたり、嫌われたりすることはありませんでした。

むしろ、接遇よりもリハビリの内容が重視されており、多少の失礼な言動は許されていたように思います。また、新卒だったためか、見た目も言動も若く、社会経験が少なかった点も許されていた一因だったのかもしれません。

一方、訪問では、社会人としてのマナーが身についていることが大前提でした。電話の対応から訪問時の言動まで、病院や施設では必要のなかった接遇が求められます。
接遇では「所作」も大切です。所作は身のこなしやしぐさを意味します。利用者さんとご家族は、リハビリの内容もさることながら、セラピストの一挙手一投足をよく見ています。つまり、セラピストの腕前よりも先に、「どんな人間がわが家に出入りしているか」が大切なのです。

利用者さんの家に出入りするときの接遇

皆さんは、利用者さんのご自宅に出入りするときに気を付けていることはありますか? 私は意識していくつか配慮をしていました。

例えば、訪問時にはユニフォームが汚れていないか毎回確認し、汚れてもいいように替えのユニフォームを携帯していました。下衣(ズボン)については自由だったこともあり、しわになりにくくほこりが付きにくいものを選び、動きやすさを優先して軽登山用のものを着用していました。
靴についてはサンダルで訪問しているセラピストもいましたが、私はつま先とかかとが隠れる靴で訪問していました。

こうした服装はすべて自分なりの接遇術の1つという観点で選んでいました。「ご自宅におじゃまするときの服装」として考え、失礼にならない、不快感を与えない、見ていて心地のよい服装を常に意識していたのです。

服装以外では、ご近所の方をはじめ、マンションであれば、管理人さんや受付の方への挨拶も丁寧に行っていました。身分がわかる名札と名刺をすぐに取り出せるようにポケットにしまい、身なりと呼吸を整えてから訪問していました。
また、訪問に慣れてくると顔見知りになり、挨拶が適当で馴れ馴れしくなりがちです。そんなときこそ意識して、目を見て笑顔で挨拶ができると利用者さんにも喜ばれます。

なお、服装については、近所の目を気にして「ユニフォームで訪問してほしくない」という利用者さんもいました。そのため、替えのシャツや上着を常に準備し、利用者さんのご自宅から離れた場所で着替えてから移動することもありました。

さらに、時間調整のためご自宅の近くで待機することがよくありました。こうしたスキマ時間にほかの職種の担当者や管理者などへ電話をすることがあるかと思いますが、利用者さんの見えていないところでの対応も大切です。

NG例をご紹介します。以前、訪問先のマンションの駐輪所で待機をしていたときに、ほかの訪問事業所の方が訪問を終えて電話をしながら歩いてきたことがありました。その電話の内容が、今まさに訪問していた利用者さんの話のようで、駐輪所内に話が筒抜けになっていたのです。
普段から利用者さんを思いやる行動がとれているかどうか、ちょっとした配慮ができるかどうかも接遇には欠かせません。

自宅内での接遇

ここからは、利用者さんのお宅におじゃまするきの接遇術を紹介します。

①靴をそろえる

利用者さんのご自宅内での接遇として、意外と見過ごされがちなこととして、「靴をそろえる」ことがあります。
セラピストはあくまでもおじゃましている身なので、自分の靴が生活している方々のじゃまになってはいけません。できるセラピストは、自分の靴をそろえる際に利用者さんやご家族の靴を一番履きやすい場所に置き、使用していない靴はつまずく原因になるためできるだけ端にそろえます。

ちなみに私は、靴をそろえるときに利用者さんの靴底もチェックして、すり減っていないか、破れていないかを確認していました。また、屋外歩行をリハビリプログラムに組んでいる場合には、一緒に杖や歩行器の準備と整備もしていました。「靴をそろえる」は接遇だけでなく、リハビリのスムーズな進行や転倒予防にも役立つのです。

②バッグの置き場所、上着の脱ぎ方

皆さんは、バッグを置く場所や上着の脱ぎ方で悩んだ経験はありませんか?
私は訪問の世界に入って最初に悩みました。指導してくれていた先輩セラピストや看護師さんたちが、それぞれ自分の考えで置き場所や脱ぎ方を決めていたからです。

その後、自分なりに考え、上着は玄関を入る前に脱ぎ、外気に触れている面を内側に入れ込んでたたみ、バッグと一緒に玄関付近のじゃまにならない場所にまとめておくことで統一するようにしました。
外から持ち込むものなので、ご自宅を汚さないように、感染源となるものをできるだけ中に入れないようにする工夫です。

また、玄関の呼び鈴を押した時点でリハビリは始まっています。玄関に入ってから上着を脱ぐとその分、余計な時間をとってしまい、利用者さんの大切なリハビリ時間を削ってしまいます。玄関を入る前に上着を脱いでいたのは、そのためでもありました。

③お茶を勧められたときの断り方

訪問中に困る接遇の1つに、「お茶やお菓子を勧められたときの上手な断り方」があると思います。
私が一番困ったのは、「前に来ていた人(前任者)はお茶を飲んでたよ」と言われてしまうことでした。「私だけ断ってしまうと利用者さんに嫌われてしまうのでは……」と考えてしまったのです。だからこそ、上手な断り方を身につけようと考え、断る理由をいくつか用意して実践していました。

私の断り方としては、「次の訪問がすぐなので、時間がないので失礼します」「会社から禁止と言われているので」「役所の担当者から禁止と言われていて、ここで飲んでしまったことが役所の耳に入ったら、私は訪問できなくなるかもしれません」など、外的な要因にしていました。
ただし、ウソは言わないようにしながら、「お気持ちはとてもうれしいです」と感謝の気持ちを伝えたうえで、「たとえお茶やお菓子だけだとしても、利用者さんから金品をもらってはいけない決まりがあるので」「これは私だけでなく、私の会社のスタッフも、ほかの会社の訪問事業者も全員ダメと決まっています」としっかり伝えていました。

なお、私は理由があって何度かお菓子や飲み物を事業所へ持ち帰ったことがあります。それは、認知症の利用者さんの認知機能訓練中に、冷蔵庫内の食物の消費期限が明らかに過ぎていることに気づいたときです。

「これあげるよ」と言われたら断らずに事業所へ持ち帰り、管理者と担当ケアマネジャー、ご家族へ連絡をして、最終的にはご家族へお返しするか、処分していました。
ご本人を否定することなく、だれも嫌な思いをすることなく対応するのも、接遇術の1つだと考えています。

④その他

訪問の場合、利用者さんのベッドや敷布団をお借りして、関節可動域訓練やストレッチなどを行うこともあるため、私は必要に応じて替えの靴下やスリッパ、予防衣・エプロンを持参していました。
とくに雨の日は、自転車で訪問していると靴下が濡れやすいため、その日の訪問人数分の靴下を携帯して毎回履き替えていました。

接遇の根底に相手をおもんぱかる気持ちを

訪問によるリハビリを行うセラピストの接遇術について、私の経験を中心にご紹介しました。これ以外にも、1人の利用者さんのご自宅へ複数人で訪問する場合もあり、自分の思う接遇がなかなか実践できない、という方もいると思います。
そんなときは、ほかのスタッフの接遇術と照らし合わせて、複数人で訪問するからこそできる新たな接遇術を編み出してほしいと思います。

残念ながら、未熟な接遇により利用者さんが不快感を募らせてしまい、訪問を断られるケースもあることでしょう。そもそも、自分ではよいと思っていた接遇が逆に相手を不快にさせていた……、という押しつけ型の接遇もあるかもしれません。
自分の接遇が利用者さんやご家族にとって心地よいものか、相手の立場に立って考えられた接遇になっているか、定期的に振り返る機会を設けることで、今よりもすごい接遇術が身につけられるかもしれません。

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