【セラピスト必見】リハビリの中止基準3パターンを分かりやすく解説
公開日:2023.11.02
文:平岡 泰志(作業療法士)
リハビリは、機能回復や日常生活動作能力の再獲得、QOL向上に不可欠な医療行為です。ただし、リハビリは患者さんに負担をかける場合もあるため、適切な中止基準を理解し、リスクマネジメントが必要です。今回は、リハビリの中止基準や、中止目安になるシチュエーションについて詳しく解説します。
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リハビリの中止基準3パターン
リハビリ中止の判断をするタイミングは以下の3パターンがあり、それぞれに基準がやや異なります。
2. 途中でリハビリを中止する場合
3. リハビリをいったん中止し、回復を待って再開する場合
参考:公益社団法人日本リハビリテーション医学会|リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン
次項より、それぞれのポイントを詳しく解説します。
1.リハビリを行わない方がよい場合
リハビリ開始時にバイタル測定や様子観察を行った際に、以下のような所見がみられる場合はリハビリを行わないようにしましょう。
② 安静時の収縮期血圧が70mmHg以下または200mmHg以上
③ 安静時の拡張期血圧が120mmHg以上
④ 労作性狭心症の方
⑤ 心房細動のある方で、明らかな徐脈または頻脈がある場合
⑥ 心筋梗塞発症後で、血液循環不良が疑われる場合
⑦ 顕著な不整脈がある場合
⑧ 安静時に胸痛がある場合
⑨ リハビリ実施前に動悸や息切れ、胸痛がある場合
⑩ 座位でめまいや冷や汗、嘔気などがある場合
⑪ 安静時の体温が38℃以上ある場合
⑫ 安静時の血中酸素飽和度が90%以下の場合
2.途中でリハビリを中止する場合
途中で以下のような所見がみられた場合はリハビリを中止し、医師や看護師への報告が必要です。
② 脈拍が140/分を超えた場合
③ 運動時の収縮期血圧が40mmHg以上、または拡張期血圧が20mmHg以上上昇した場合
④ 頻回な呼吸(30回/分以上)や息切れが出現した場合
⑤ 運動により不整脈が増加した場合
⑥ 徐脈が出現した場合
⑦ 意識状態が悪化した場合
3.リハビリをいったん中止し、回復を待って再開する場合
リハビリの途中に以下の所見がみられた場合は、いったんリハビリを中止し、回復を待って再開するようにしましょう。
② 脈拍が120/分を超えた場合
③ 1分間に10回以上の期外収縮が出現した場合
④ 軽い動悸や息切れが出現した場合
追加で理解しておきたいリハビリを中止する目安
上記の中止基準のほかに、リハビリ中止の目安となる症状や状況を紹介します。代表的な例として以下の3つがあります。
・点滴や蓄尿バッグのトラブルがあった場合
・倦怠感の訴えがある場合
それぞれ解説します。
喀痰量が多い場合
慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息がある患者さんは、痰の量が多い傾向にあります。
喀痰量が多い場合には、リハビリの中止を検討する必要があります。喀痰量が多い状況を放置すると、窒息や呼吸困難、肺炎の原因になるため、とても危険です。
痰の量が多いと感じたらリハビリを中止し、安静もしくは看護師に報告し痰吸引を行ってもらう必要があります。
点滴のトラブルがあった場合
脱水予防や抗生剤の投与、栄養補給など、治療時のあらゆる場面で用いられる点滴ですが、リハビリ時には注意が必要です。点滴をつけた場所を動かさなかったとしても、リハビリによって体を動かすと、点滴がきちんと落ちなかったり、針を刺している場所に痛みが生じたりする場合があるからです。
また、血液の逆流や輸液の漏れにつながるためケースもあるため、点滴のトラブルがあった場合はリハビリをいったん中止し、医師や看護師に指示を仰ぐようにしましょう。
尿道カテーテルのトラブルがあった場合
手術後などで尿道カテーテルを留置している患者さんは多く、リハビリを担当する機会も少なくありません。その際、注意したいのが、尿道カテーテルの取り扱いです。尿道カテーテルが不自然に抜けてしまうと、尿道を傷つけて尿路感染症や排尿障害につながる可能性があるからです。
尿道カテーテルが抜けてしまった場合には速やかにリハビリを中止し、医師や看護師に報告しましょう。
運動器不安定症のリハビリ中止基準
運動器不安定症とは、足腰が弱くなって転倒しやすくなったり、関節に痛みがあってフラつきやすくなったりする状態を指します。ほかの疾患とくらべても、転倒や痛みが出現しやすいハイリスクな疾患であるため、転倒や疼痛の悪化には注意が必要です。
上記の「リハビリの中止基準3パターン」に準じて、中止を検討しましょう。
リハビリの中止基準を把握して、適切なリスク管理をしよう
セラピストが実施するリハビリは、機能回復や日常生活動作能力の再獲得、QOL向上に欠かせない医療行為です。しかし、離床を促したり心身への負担をかけたりするため、リスクもあります。適切なリハビリを提供できるよう、リハビリの中止基準を念頭に置き、リスクマネジメントを行いましょう。ポイントをおさえて、明日からのリハビリに生かしましょう。
■参考
リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン(案)|公益社団法人日本リハビリテーション医学会
喀痰吸引|文部科学省
家族が自宅でできる医療的ケアの方法|全国在宅療養支援医協会
インシデント報告された尿道カテーテル留置に伴う尿道損傷と院内教育による改善効果|医療の質・安全学会誌Vol.16 No.3
手術室における蓄尿バッグの適正管理に対する介入の効果検討|環境感染誌Vol.30 no.3,2015

平岡 泰志
作業療法士/医療介護分野専門ライター
地方の二次救急指定病院にて5年間勤務。その後、多職種と共にデイサービスの立ち上げに携わり、現在は主任として現場を統括。「高齢者の尊厳を守る」を念頭に、利用者と家族の生活をサポート。プライベートでは4人の子どものパパ。仕事と子育ての両立をするべく、日々奮闘中。
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