書道を作業療法として取り入れることの意義
公開日:2015.06.11 更新日:2015.06.22
書道は東洋独自の芸術であり、日本人にとってなじみ深い文化のひとつ。年齢を問わず、経験者が多いため、作業療法でもよく扱われています。では、実際に書道をリハビリとして取り入れることで、具体的にどのような効果がもたらされるのでしょうか。
書道は日本人にとって身近な芸術活動
日本では学校教育の一環として、授業も行われている書道。日常的に使っている「文字」を使いながら、音楽や絵画のような芸術的要素を兼ね備えています。絵画療法では「自分は絵が苦手だから……」という患者さんも多くいますが、書道は日常で触れる文字を使うため、どんな人でも受け入れやすい芸術活動だといえるでしょう。
書道で統合失調症の症状が改善
実のところ、書道の療法的意義については、あまり研究が進んでいないのが現状です。しかし一部ではありますが、効果的な検証を行ったものがあります。2004年に発表された論文、「芸術療法における書道の意義―書道療法の可能性―」(小松恵里香/大阪教育大学リポジトリによる公開)を参考に、事例を紹介しましょう。
実験の概要
書道における療法的効果を調べるにあたり、精神科に入院している統合失調症の患者さん7名を対象とした検証が行われました。投与する薬剤や作業療法を継続しながら、被験者には6ヵ月の間に毎週1回、院内レクリエーションの書道に参加してもらいます。こうした活動において、患者さんの症状に改善が見られた場合、書道の療法的効果の可能性が推定されるというわけです。
改善の判断基準は、主として統合失調症の精神状態を全般的に把握することを目的として作成された評価尺度「PANSS」を用い、検証前後に施行されました。また、「書道は言語を用いる芸術活動であり、右脳と左脳、両方の活性化が期待できる」という仮説をもとに、脳血流の変化も検証が行われました。
検証結果
検証の結果、5症例において右眼窩回(前頭葉底辺)、右前帯状回(前頭葉内側面)、右基底核に有意な血流増加が見られ、左眼窩回、左背外側には有意ではないものの、増加傾向が確認されました。
また、PANSSにおいては、構成されるBPRSの18項目を含む30項目のうち「なか」「情動的引きこもり」の項目に有意な改善が見られ、「受動性/意識低下による社会的引きこもり」「敵意」の項目は有意ではありませんが、改善傾向が見られる結果となったのです。
書道がもたらす効果
検証を行った病院の精神科院長は実験結果をもとに、書道における認知神経心理学的意義を以下のように考察しました。
- 視覚的認知力を高める。
- 注意力、集中力をつける。
- 統制された行為を遂行する。脱抑制。衝動を抑える。
- モニタリング能力の向上……字体の良否を自ら判定し修正する。
- 作業記憶力強化……手本を自分の字体と比較しつつ、習字を進める。
- 遂行能力強化……「計画→実行→見直し→修正→実行」という作業工程を繰り返す。
1は前帯状回の血流に、2と3は眼窩回の血流に、4と5と6は背外側面の機能にそれぞれ関連していると考えられます。
また、PANSSにおいて4つの項目が改善したことは、統合失調症の症状改善を示しているといえるでしょう。書道がどのようにして改善をもたらしたのか、論文の著者は以下のように考察しています。
- 「興奮」の改善に関しては、書道を毎週行ったことによって患者の集中力が鍛えられ、その結果、徐々におさまっていったと予測される。つまり、書道の「心を落ち着け、集中して字を書く」という雰囲気が「興奮」を改善したと考えられる。
- 「敵意」の改善についても、穏やかな空間が自己統制を促し、自分のなかの周囲に対する感情が抑制したといえるのではないか。
- 「情動的引きこもり」の改善に関しては、規則的なグループ活動によって、患者同士のコミュニケーションが行われた結果と考えられる。
- 「受動性/意欲低下による社会的引きこもり」の改善については、書道の多頻度の制作という性質と関係があることが予測される。
書道は絵画と異なり、手本を見ながら制作され、ひとつの作品に対する短時間の集中力が求められます。文字を書く作業は繰り返し行われますが、ひとつの作品において完結性が高く、作業ごとに指導者によるフィードバックが行われる点が特徴です。細かい添削によって自分の作品を見つめなおし、次の制作に対して新たな目標を持つことが可能になり、その結果、被験者の「意欲」が促されたのではないでしょうか。
今回ご紹介した論文では、書道が統合失調症の患者さんにもたらした効果について書かれています。今後、統合失調症の患者さんのみならず、さまざまな障害、疾患に対しても、書道の効果に関する研究が進められることを期待したいところです。
【参考URL】
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