腎臓リハビリテーションとは?(後編) 人工透析患者さんへの運動療法を考える
公開日:2015.10.29 更新日:2015.11.09
腎臓リハビリテーション(以下、腎臓リハビリ)は腎不全の患者さんに対して、運動療法、教育、食事療法、精神的ケアなどを行う、内部障害へのリハビリです。前編に続き、後編では、人工透析患者さんに対象を絞り、さまざまな理由で運動不足になりがちな透析患者さんへの運動療法の必要性とその方法について紹介します。
透析患者さんの身体状態について
透析患者さんは、健常者と比較して筋力も体力も低下していることが知られています。たとえば透析患者さんの最高酸素摂取量は、同年代の健常者の60%にまで落ちているなど。また、腎不全による尿毒症の影響で筋肉の委縮や変性が生じ、筋力が低下してしまうことも報告されています。さらに、ホルモンバランスの異常や老廃物により骨・関節が弱くなりやすい傾向にあり、身体の動きにくさの原因となることも。そのほか、体力低下の一因として、透析の通院による時間的制約や、透析後の疲労で身体活動量が低くなることも挙げられます。
こうした透析患者さんに対するケアとして注目されているのが、腎臓リハビリです。海外の研究によると、透析中の運動により老廃物の除去率が高まり、透析時間を4時間から5時間に延長したのと同等の効果があったのだとか。また、日本も参加した別の研究では、運動する透析患者さんが施設内で10%増えるごとに、年間死亡率が8%ずつ減少したという結果も報告されました。多くの研究結果からも、腎臓リハビリは、透析患者さんの健康状態の改善・延命効果を期待できることがわかっています。
透析患者さんの運動について
透析患者さんへの腎臓リハビリ(運動療法)を取り入れる場合、注意したいのが、その時機です。透析前、透析中、透析後、非透析日からよりよい効果が期待できる時機を選びましょう。
それぞれ時機で起こりやすい問題点として、以下のように考えられます。
・透析前 | : | 心不全や高血圧によるリスクが高い(体内に一番水分が多いため) |
・透析中 | : |
運動制限、心負荷の問題 (透析回路につながっており、リハビリの内容が限られること、 透析は循環器系に大きな負担をかけること) |
・透析後 | : | 起立性低血圧の危険性 |
・非透析日 | : | 改めて来院が必要であり、患者さんの時間的負担が大きい |
上記の問題点をふまえ、透析患者さんの都合や状況に合わせて取り組みます。最近はリハビリの受け入れやすさから、透析中に行われるケースが増えているようです。腎臓リハビリの有益性が認知されるとともに、今後も透析中に運動療法を実施する病院・施設は増加していくと考えられます。
※運動の種類や強度、頻度については、有酸素運動とレジスタンス運動を基本に(透析中であれば、下肢エルゴメーターや重錘を使用するなど)、前編の心不全に対するリハビリを参考にしてください。
透析患者さんとの接し方
腎臓リハビリでは、いかに運動を継続できるかが大きな問題です。運動習慣を定着させるためには、透析患者さんの自己効力感を高める必要があります。心理面へのアプローチとして、透析患者さんとの接し方や信頼関係の構築が重要なカギといえるでしょう。運動定着に向けて、促通因子と阻害因子は以下のとおりです。
促通因子
・目に見える成果やメリットの実感
・達成感、自己効力感の増大が得られる、到達可能な目標の設定
・場所、時間、運動種目の多様さなど、やりたい運動へのアクセスのたやすさ
・仲間や指導者の存在
・家族や職場のサポートなど、日常習慣に結びついている
阻害因子
・忙しい、時間がない
・近くに場所がない
・仲間や指導者がいない
・目的が達成できない、メリットを感じられない
・疲れる、けがが心配
患者さんとのコミュニケーションをとりながら、阻害因子をできるだけ排除し、促通因子を積極的に増やしていきましょう。
腎臓リハビリの今後について
ほかのリハビリに比べて知名度の低い腎臓リハビリですが、今後のさらなる研究やエビデンスの確立が期待されます。リハビリも日進月歩! 私たち理学療法士も日々学び、成長していきたいものですね。
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