セラピストなら知っておきたい! 現場で使えるリハビリテーション栄養
公開日:2016.04.22 更新日:2016.05.06
「リハ栄養」という言葉をご存知でしょうか? リハビリを進めるうえで知っておきたい患者さんの状態のうち、機能だけでなく栄養状態も含めた多角的なアプローチとして、「リハビリテーション栄養(以下リハ栄養)」の有効性が注目されています。セラピストが現場で活用できる栄養の知識を身につけることで、評価のポイントも増えてくることでしょう。「リハ栄養」について理解を深めましょう。
栄養状態によって患者さんの状態は異なる
患者さんの状態は千差万別。障害の強度だけでなく、リハビリの効果にも個人差があります。しかし、そうした違いがあるにもかかわらず、食事の内容はあまり変わらないということが多いのではないでしょうか。
人の身体は食べたものによって作られ、活動しています。筋肉、骨、内臓、血液、皮膚……身体を構成するすべてが、食事から得た栄養を材料に作られ、維持されているのです。もちろん精神状態にも関わるさまざまなホルモンも同様に、栄養素の不足によって正常な機能が妨げられる場合もあります。食事を単なるエネルギー源の補給として提供するのではなく、栄養状態が患者さんの体調やリハビリの効果に影響を与えることも考察する必要があります。患者さんの身体と心の状態と食事の関係について、「リハ栄養」の視点から考えてみましょう。
「リハ栄養」の視点を取り入れてリハビリも効果的に
リハ栄養とは国際生活機能分類で評価を行ったうえで、機能、活動、参加を最大限発揮するための栄養管理のこと。スポーツ界でアスリートに合わせた栄養対策が行われるように、リハビリを行っている患者さんに特化した栄養管理を行い、回復の効率を高めることが目的です。
サルコペニアをはじめ、栄養状態が影響する機能障害には栄養対策が欠かせません。こうした栄養療法の重要性が急速に認識される昨今では、栄養管理は管理栄養士だけの仕事ではなく、栄養に関する知識をもつ医療スタッフとの連携にも期待が高まっています。
現場で密に患者さんに関わっているセラピストだからこそ気づける体調の変化もあるのではないでしょうか。いつものリハビリと栄養管理を組み合わせることで、機能、ADL、QOLの向上を促進し、患者さんの1日も早い回復につなげましょう。
現場で使えるリハ栄養
リハ栄養を活用するためには、まず患者さんの栄養状態について仔細なチェックが必要です。指標となるのが、臨床所見(主観的包括的評価:SGA)、身体組成、血液生化学検査値によるものです。しかし、そうしたデータからだけでは見えない栄養不足による影響もあります。
マグネシウム不足による影響
例えば、高齢者や糖尿病のような疾患を持つ方に多いこむらがえりは、一般的には運動不足や筋力低下による筋肉の痙攣とされています。しかし、こうした不随意の痙攣を招く原因のひとつとしてマグネシウム不足があるとも考えられています。
ミネラルの一種であるマグネシウムが欠乏すると、足がつりやすくなるだけでなく、骨粗鬆症や食欲不振、下痢、便秘にもつながります。このような病態を持つ患者さんには、マグネシウムを多く含む天然塩を勧めるとよいでしょう。
鉄欠乏性貧血には、タンパク質の補給も
そのほか女性に多い貧血は、鉄欠乏性の場合が少なくありません。疲れやすく少しの動作で息切れを起こしたりするため、疲労感の多い方は疑ってみるとよいでしょう。ただし、貧血状態を緩和させるためには、鉄分だけでなくタンパク質の供給も必要です。鉄剤による医師の処方に加えて、栄養的視点でタンパク質の補給を勧めてみましょう。
筋肉量を維持するための栄養管理を
嚥下の機能低下も高齢者によくみられるものですが、この場合も貧血やサルコペニアの可能性があります。サルコペニアの原因には加齢、活動、疾患、栄養による筋肉量の低下が挙げられます。嚥下リハビリテーション学会では筋肉量低下、筋力低下による摂食嚥下障害を診断基準案としていますが、筋力トレーニングだけを行っても、筋肉を作る材料が不足していると、筋肉を維持することはできません。筋肉の材料となるタンパク質やその他の栄養素が不足した状態で運動療法を行うと、場合によっては筋肉量がかえって減少し、ADLが低下したままとなる可能性もあります。
多くのリハビリにおいて、筋肉を動かし可動域を広げる訓練がありますが、筋肉を作る材料が不足しているかどうかまでチェックすることで、評価が変わってくるかもしれません。
チームとしてのリハビリ
患者さんと直接接するセラピストだからこそ気づける栄養不足のサイン。栄養科と連携をとることで、患者さんの回復がよりスムーズに進むでしょう。食が人の身体を支えているように、栄養管理はすべての医療の基本。機能を支える栄養についての知識を深め、リハビリにも活用していきましょう。
【参考URL】
他の記事も読む
- 太らない夜食はある? 食べ方のポイントとおすすめの食べ物8選
- リハビリテーション総合実施計画書とは?多職種連携を支える書類の書き方と役割
- 2年制の言語聴覚士養成校が「きつい」といわれる理由は?2年制課程を乗り越えるコツも紹介
- 梨状筋症候群でやってはいけないことは?なりやすい人の特徴やストレッチ方法についても解説
- 働きながら作業療法士の資格取得は可能?養成校の選び方や学費の負担を軽くする方法を解説
- 認定作業療法士は意味がない?なるための要件や取得するメリットを解説
- 理学療法士になるにはいくらかかる?学費の目安と諸費用について解説
- 認定理学療法士は「意味ない」って本当? その理由や資格を取得するメリットについて解説
- これからの理学療法士に求められることとは?PTの現状と将来性を解説
- 理学療法士が活躍できる就職先8選|就職を成功させるポイントもご紹介
- 理学療法士が昇給するためには?年収の推移や給料アップの方法をご紹介
- 理学療法士はもうオワコン?リハビリ職の現状と今後の生存戦略をご紹介
- 理学療法士はブランクがあっても働ける?復職しやすい理由とおすすめの職場を解説
- 社会人は通信教育で理学療法士になれる?資格取得の流れをご紹介
- 理学療法士の養成校の夜間部はきつい?理由やメリットについて夜間部卒業者が解説
- おばさんでも理学療法士として働ける?今後も働き続けるポイントをご紹介
- 理学療法士の勤務時間は?1日のスケジュールや残業時間をご紹介
- 理学療法士が免許取り消しされる事例とは?条件や行政処分の種類を解説
- 理学療法士として理想の働き方をするには?おさえるべき3つの指標を解説
- 理学療法士を目指す高校生に必要な科目と受験を合格するための対策