小児分野における言語聴覚士の役割とは?主な就職先と仕事内容
公開日:2021.06.04 更新日:2023.09.25
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
言語聴覚士は、言葉や飲み込み(嚥下)に問題がある方に専門的なサービスを提供しているため、コミュニケーション障害の専門職と呼ばれることがあります。
言葉によるコミュニケーションの問題は「脳卒中後の失語症や言葉の発達の遅れ」「聴覚障害」「声や発音の障害」など多岐にわたり、小児から高齢者まで幅広く出現します。そのため、言語聴覚士の領域は対象者により、成人領域と小児領域に大きく分けられています。
そこで今回は、ますます関心が高まっている小児領域の言語聴覚士の仕事内容について、詳しく説明していきます。
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目次
言語聴覚士の就職先は医療機関がほとんど、教育機関は少数
小児領域の言語聴覚士の仕事内容について、具体的にお話しする前に、言語聴覚士の仕事内容や職場についておさらいしておきましょう。
そして言語聴覚士が働く場所として、次のような場所が挙げられます。
勤務先 | |
---|---|
医療機関 | 病院、診療所など |
保健施設 | 老人保健施設、訪問リハビリなど |
福祉施設 | 肢体不自由児施設、重症心身障害児施設など |
教育機関 | 特別支援教室など |
実際に日本の言語聴覚士が働いている場所について見てみると、医療機関が大半を占め、教育機関は極めて少ない状況にあります。以下の図表からも、日本の言語聴覚士は大半が病院で働いていることがわかります。
言語聴覚士のおもな就職先
小児領域で働く言語聴覚士の仕事内容と対象
それでは、小児領域で働く言語聴覚士の仕事内容とは、どんなものなのでしょうか。
小児分野で働く言語聴覚士の対象となるのは、言葉の発達の遅れ、声や発音の障害、聴覚障害、飲み込み(嚥下)の問題などを抱えた子どもたちです。
対象 | |
---|---|
言葉の発達の遅れ | ・精神発達遅滞 ・自閉症スペクトラム障害 ・注意欠如・多動性障害(ADHD) ・学習障害(LD)など |
声や発音の障害 | ・口蓋裂 ・機能性構音障害 ・吃音など |
聴覚障害 | ・難聴 ・聴覚情報処理障害(APD)など |
飲み込み(嚥下)の問題 | 脳性麻痺など |
問題の本質や発現メカニズムを明らかにし、対処法を見いだすために検査・評価を実施し、訓練、指導、助言、その他の援助を行うのが、おもな仕事になります。
小児領域で言語聴覚士が求められる場所としては、医療機関や福祉施設、教育機関などが挙げられますが、先ほど説明したように、言語聴覚士は大半が病院などの医療機関に勤務している状況であり、教育機関に所属する言語聴覚士は極めて少ないのが現状です。
このことから、小児領域で働く言語聴覚士についても、多くは病院などの医療機関で働いていることが推測されます。このように小児領域の言語聴覚士は、成人領域の言語聴覚士と比べると、活躍の場が限られているのが現状ですが、「小児領域で働いてみたい」と考えている言語聴覚士は少なくありません。
そのやりがいは、なんといっても対象となるお子さんの成長の場に立ち会えることでしょう。問題の本質を見極め適切な訓練方法を検討し、変化が見られたときには大きな喜びになります。
もちろん、成人領域も同様の喜びがありますが、小児領域の場合、対象とするお子さんだけでなく、保護者に対しても関わりを持ちます。お子さんの成長をともに喜ぶという点において、2倍の喜びに繋がるといえるかもしれません。
小児言語・認知を対象にしている言語聴覚士は約4500人
次に、小児領域における言語聴覚士の現状について説明していきます。
言語聴覚士の対象は、小児から高齢者と幅広いと先ほど説明をしましたが、実際のところ小児領域で働く言語聴覚士はどのくらいの人数になるのでしょうか。
日本言語聴覚士協会によると、小児言語・認知を対象にしている言語聴覚士の数は4,480人。 成人の言語・認知を対象としている言語聴覚士の約1/3程度と極めて少ない状況にあります。
図2.日本言語聴覚士協会会員が対象としている障害
※日本言語聴覚士協会HPより
これまでにも説明したように、言語聴覚士の全体数自体が少ない人数であり、その中でも更に小児領域の言語聴覚士の人数は少ないのです。
小児領域における言語聴覚士の不足も指摘されており、実際に都内の小児領域の言語聴覚士の所属するクリニックなどでは、「診療が数カ月待ちになることがある」といった話も聞きます。
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小児分野における言語聴覚士の将来性は?教育への参画も期待されている
最後に、小児領域における言語聴覚士の将来性についてお話しします。
昨今は、言葉や聞こえに障害がある子どもに対しては、早期に言語聴覚療法を行うことが有効であるという考え方が主流になっています。
また、学校教育領域においては、特殊教育から特別支援教育への移行がなされ、特に学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症など発達障害のある子どもへの支援の拡充が図られています。
発達障害はコミュニケーション障害を伴いやすいため、言語聴覚士が関わるべき領域は少なくないでしょう。
今後は言語聴覚士も、教育分野への参画が期待されていると考えられます。
以上のように、「早期の言語聴覚士の介入には効果があるといった根拠があること」、「リハビリテーション専門職の学校教育への参画が期待されること」という理由から、小児領域の言語聴覚士の将来性は高いといえるでしょう。
現在、小児領域の言語聴覚士の就職先は多い状況にはありませんが「保健センター」「療育支援センター」「放課後等デイサービス」を実施する施設にも言語聴覚士は配置されはじめており、少しずつ職場が拡大しているといった報告もあります。医療機関も含め、言語聴覚士を配置する機関は今後もっと増えていくかもしれません。
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参考
言語聴覚士療法白書2020年度.一般社団法人 日本言語聴覚士協会 2021
理学療法士・作業療法士の需給推計を踏まえた今後の方向性について 厚生労働省(2019年4月5日)
近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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