音楽療法士って何? 教員兼音楽療法士がその魅力を解説
公開日:2022.05.11 更新日:2022.05.16
文:山﨑 真由子
(教員/音楽療法士)
みなさんは音楽を聴いて「心が動く瞬間」を感じたことがありますか?曲を聴いて励まされたり、ワクワクした楽しい気持ちになったり、心がじんわりと温かくなったり、時にはしんみり涙が出てきたり……。誰でもそんな経験があるのではないでしょうか。
聴いている音楽によっても、そのときの気持ちによっても、その場で一緒に音楽を共有している相手によっても、感じるものが違ったりします。
私は、そんな音楽のもつ不思議な力を媒体として人と関わることのできる、「音楽療法士」という資格をもっています。
今回は音楽療法とは何か、またその可能性についてお伝えしたいと思います。
音楽療法とは何か
音楽療法の定義
癒されたり楽しくなったり、昔のことを思い出したりと、音楽はさまざまなものを人にもたらします。
音楽療法は、こうした音楽と人との関わりを用いて、意図的・計画的にクライアントの目的にアプローチしてよりよい生活につなげることをいいます。
日本音楽療法学会では、音楽療法について次のように定義しています。
「音楽療法とは、音楽のもつ、生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて音楽を意図的、計画的に使用すること」
参考
音楽療法の目的
音楽療法をする目的はさまざまで、クライアントのニーズに合わせて音楽や活動内容を選択していきます。
例えば、歌ったり、楽器を演奏したり、音楽を用いた活動をとおして、認知症の予防や認知機能の維持を図ったり、心のケアをすることもあります。
ほかにも、子どもの発達支援、リラクゼーション、痛みの緩和などを目的としているクライアントもいます。また言語を用いて治療することが難しい人にも有効的に活用することができ、効果が期待されます。
音楽療法の仕事場と対象者
音楽療法士の仕事場や対象者はとても幅広く多様です。
がん治療、緩和ケア、リハビリテーションなどの「医療の現場」や、高齢者施設、障害者施設などの「福祉の現場」、さらに、特別支援学校などの「教育の現場」など、さまざまな場所で、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢の人を対象にしています。
そのため音楽療法士は、音楽の専門家であることはもちろん、医療、福祉、教育の知識や連携も必要になる仕事です。
音楽療法の流れ
音楽療法のセッションは以下のような流れで進めていきます。
①対象者のアセスメント(評価)
②目標設定
③プログラム計画
④音楽療法のセッションを実施
⑤記録・振り返り・反省
音楽療法のセッションを行うにあたり、まずは対象者に関する情報を集めたり、初回のセッションで関わったりするなかで対象者のアセスメント(評価)をします。アセスメントをもとに対象者の目標を設定し、プログラムを計画していきます。
クライアントのニーズに合わせながらオーダーメイドでプログラムを考えて、セッションを実施します。
しかし、セッションは計画どおり進むことはほとんどありません。そのため、そのときのクライアントの様子を見ながら柔軟に対応していく必要があります。
セッションを終えたらクライアントの様子を記録し、振り返りを行うことで次のセッションにつなげていきます。
音楽療法士になるためには(受験資格、試験内容について)
音楽療法士になるためには、日本音楽療法学会認定の受験資格を取得し、試験を受けて合格しなければいけません。
音楽療法士の資格取得には次のような流れになります。
①音楽療法士資格試験受験認定校への入学
②資格に必要なカリキュラムを学び単位を修得
③音楽療法士(補)の試験
④面接・実技試験
まずは、日本音楽療法学会認定の「音楽療法士資格試験受験認定」に入学し、必要なカリキュラムを学び、単位を修得します。認定校卒業見込み時に「音楽療法士(補)」の試験を受けることができます。
「音楽療法士(補)」の試験は、音楽のさまざまな知識や音楽療法で必要な知識が問われる学科試験です。
音楽療法士(補)の試験に合格すると、いよいよ音楽療法士の最後の試験である面接・実技試験があります。これに合格すると音楽療法士の資格を取得することができます。
試験対策・勉強方法は?
音楽療法士(補)の学科試験は、学校のカリキュラムで学んだ音楽療法についての問題や、さまざまな音楽知識を問われる問題など幅広く出題されます。私は、出題傾向を確認しながら、過去問を解いて勉強しました。
実技試験では、ピアノかギターを選び、弾き歌いをする試験があります。私はピアノで伴奏をして歌いました。弾き歌いは、どんな人を対象にして何を目的にしている活動なのかを明確にし、目標を達成するには、どんな歌い方や伴奏にしたらよいのかを考えていきます。
面接試験でも弾き歌いについて聞かれるので、よく整理しておくことが大切です。
音楽療法士の資格を取得しようと思ったきっかけ
私が音楽療法に出会ったのは高校3年生のときでした。その頃、私の母に病気が見つかり入院をしていました。弱っていく母の姿を見ると、どうしようもないくらいの不安な思いと心配な気持ちでいっぱいでした。
そんななか、病棟のロビーから聴こえてきたのは、音楽療法の実習をしている学生さんたちの歌声でした。一生懸命相手に届けようとする気持ちのこもった歌声と、そのとき歌っていた坂本九さんの「心の瞳」の歌詞とメロディーが私の不安な心に染み渡り、涙がポロポロと溢れ出てきました。
我慢していた涙をやっと流せたとき、少し心が落ち着きました。
「私も音楽で誰かの心に寄り添いたい──」
そう思ったことが、音楽療法士の資格取得のきっかけになりました。
資格をどう活用しているか
音楽療法は医療、福祉、教育など多様な場所で活用することができます。
私は特別支援学校教諭として働いていて、教育の現場のなかで音楽療法を活用しています。
支援を必要とする子どもたちのなかには、コミュニケーションをとることが難しい児童もいますが、合奏の活動をすると、一緒に合わせて鳴らす場面がありました。音楽のなかで他者を意識することができた場面でした。
また音が揃ったときに感じる一体感や喜びは、音楽ならではのものだと改めて実感している毎日です。音楽の知識や技術を教えるだけでなく、音楽の力を用いて、子どもたちの人生がもっと豊かになってほしいなと思っています。
音楽療法の可能性
音楽療法は、たくさん活用する場面や効果がありますが、病気を治せるわけではないですし、目に見えて何かが大きく変わるということが必ずあるとも限りません。
ですが、目標達成に向けて、音楽と人とが関わり合うプロセスのなかにも、クライアントとその周りの人に与える影響は大きいものだと思います。
音楽療法は、クライアントの心と出会いながら、「今より豊かな人生へ」とつなげることのできる、多くの可能性を秘めたものだと私は思っています。
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山﨑 真由子
教員/音楽療法士
大学で音楽療法や音楽教育、ピアノを学び、一般社団法人音楽療法学会認定の音楽療法士の資格と音楽教諭の免許を取得。その後、特別支援学校教諭の免許を取得し、現在は小学校の特別支援学級で働いている。
子どもたちのこれからの人生がもっと豊かな毎日になってほしいと願いながら、今後も教育の現場のなかで音楽療法を取り入れていきたいと考えている。
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