高齢者の自動車運転に関する作業療法士国家試験過去問
公開日:2019.11.11 更新日:2019.11.29
高齢ドライバーの事故や運転免許証の自主返納の問題が盛んに議論されています。作業療法士国家試験では、高齢者の自動車運転の特性や免許更新時の認知機能検査についての問題が出題されており、生理的老化が自動車運転に及ぼす影響や法令について把握しておく必要があります。
年齢にかかわらず、自動車の運転にはさまざまな危険が伴いますが、特に高齢ドライバーの自動車事故や運転免許証の自主返納については、痛ましい事故が相次いだことをきっかけに盛んな議論が交わされています。セラピストのなかでも賛否両論分かれるところでしょう。
作業療法士は、さまざまな角度から高齢者の自動車運転に携わることができます。まずは、対象者の基本的な心身機能、生活技能、生理的老化が自動車運転に及ぼす影響と、身近な法令について、的確に情報を提供できることが大切なのではないでしょうか。
第48回の作業療法士の国家試験では、以下のような問題が出題されています。

過去問題【作業療法士】
第48回 午後 第38問
高齢者の自動車運転について正しいのはどれか。
- 1.若年者より速度超過の違反が多い。
- 2.交通事故の発生場所は交差点が多い。
- 3.65歳から免許更新は2年ごととなる。
- 4.75歳では高齢者マークの装着は任意となる。
- 5.70歳では免許更新時に認知機能検査を受ける。
解答と解説
正解:2
高齢者の自動車運転
生理的老化の感じ方は1人ひとり異なりますが、個人差があるとはいえ、年齢を重ねるとともに日常的な動作全般に多様な影響を与えていきます。中でも視力や聴力などの感覚機能は、比較的早く衰えると言われており、運動の習慣がない人ほどバランス能力や筋力も徐々に低下していきます。
選択肢2の交差点は、高齢者のわき見運転や信号無視による事故が多発する傾向があります。また、交差点では、周囲の状況が変化するなか、複雑なハンドル・ペダル操作が瞬時に求められます。加齢により「反応速度」が低下していると判断を誤り、事故に至ってしまう危険性が高まるでしょう。もちろん、感覚機能、関節可動域制限や筋力の低下も、こうした運転技能全般に影響を及ぼすと考えられます。
選択肢1の速度超過は、若い人ほど違反件数が多く、高齢者の割合は比較的低いとされています。
選択肢3~5は、法令に関する問題です。2017年3月から新しい道路交通法が施行され、75歳以上の高齢者の運転免許に関しては、認知機能検査の内容がより厳しいものに改められました。改正前も、75歳以上の高齢者が運転免許を更新する際は、認知機能検査が義務づけられていましたが、結果のレベル(認知症のおそれあり・認知機能低下のおそれあり・認知機能低下のおそれなし)に応じた講習会を受講するものでした。
改正後は、認知機能検査で認知症の疑いがあるとわかった場合、医師による診断(または臨時適正検査)が必要になりました。認知症と診断されれば運転免許取り消し、または停止になります。診察を受けなかったり、診断書を提出しなかったりした場合も同様の扱いです。
なお、更新の時期に関わらず、75歳以上の高齢者が法令で定める一定の違反行為(信号無視、交差点右左折方法違反など)をした場合は、臨時に認知機能検査を行います。認知症の疑いがある場合は医師による診断書提出、または臨時適正検査が義務づけられ、それ以外の場合も、臨時高齢者講習を受講しなければなりません。
高齢者の免許更新について
70歳から74歳まで | 免許有効期間:3年 | 【更新時】高齢者講習(合理化)2時間 内容:運転適性検査、実車指導など |
---|---|---|
75歳以上 | 【更新時】・認知機能検査 ・高齢者講習(高度化)3時間 内容:運転適性検査、実車指導、個別指導など |
実務での活かし方
高齢者の運転免許更新、違反時の手続き、認知機能検査が厳しくなったことにより、自動車の運転や近い将来の「外出(移動手段)」に不安を抱える高齢者が増えているのではないでしょうか。もちろん、こうした法令は重大な事故を防ぐうえで欠かせないものではありますが、筋力や関節可動域といった老化の予防が可能な部分に関しては、心身の生理的老化と前向きに向き合う機会を提供することも、支援の一つなのではないでしょうか。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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