失語症のリハビリテーションは長期間にわたり実施することが重要
公開日:2021.01.12 更新日:2022.03.02
今回取り上げる過去問は「失語症の予後について」です。
日常の言語聴覚士の臨床では、関連職種から意見を求められることがあります。その際、リハビリテーションの終了時期をどのように捉えるかなど、判断に迷うこともあるのではないでしょうか。
失語症の予後ついてどのように考えていくのか、ポイントを押さえておきましょう。
過去問題【言語聴覚士】
第13回 午後 第161問
失語症の予後について誤っているのはどれか。
- 1. 年齢は若い方が良好である。
- 2. 原因疾患によって異なる。
- 3. 機能回復は1年以内に限られる。
- 4. 病巣範囲が関係する。
- 5. 喚語困難は長期に残存する。
解答
正解:3. 機能回復は1年以内に限られる。
解説
失語症は大脳の言語野の病変によって生じる言語機能の障害です。
失語症の原因疾患のうち、最も多いのは脳血管障害ですが、脳血管障害による言語機能の回復パターンは身体機能と同様です。
「急性期に急激に、その後ゆるやかに改善し、いずれ機能的にはプラトー」といった回復パターンを示すことが知られています。しかし身体機能と異なり、長期間にわたり回復がみられることが言語機能の特徴です。
したがって、正解は「3.機能回復は1年以内に限られる」となります。
実務での生かし方
失語症の予後を見極めるということは、臨床においてとても重要です。
特に急性期では転院先の決定にあたり「言語聴覚士の訓練が今後も必要になるのか」など、関連職種から予後について問われることもあります。
それでは失語症の予後をどのように考えるのか、解説していきましょう。
失語症の予後に関連する要因にはさまざまな報告がありますが、大きく次の3つに分類されています。
①疾患要因
②生物学的要因
③社会的要因
それぞれの要因を詳しく解説していきましょう。
<①疾患要因>
病巣が狭い範囲に限局していると、回復が期待できるといわれています。
特に中心溝の前方や基底核に限局した病巣例では、発症から2年程度までの比較的早期に回復する症例が多いことが知られています。
<②生物学的要因>
発症時の年齢が40歳未満であれば、広範囲にわたる病巣例でも長期間で、中等度ないし軽度まで回復する可能性があることが知られています。
<③社会的要因>
訓練を長期間実施することにより、機能回復が認められる症例が存在します。反対に、訓練を実施しないことにより、回復した機能が低下する症例が存在することが報告されています。
以上、失語症の予後に関わる3つの要因からわかるように、失語症の回復は長期間にわたり認められることが明らかです。
まとめ
失語症の予後予測については「少なくとも2年以上の長期にわたって回復を試みる努力が重要かつ必要」と報告があり、長期にわたるリハビリテーションの必要性が言及されています。
しかし、近年は在院日数の短縮化に伴い、リハビリテーションの実施期間が短くなる傾向にあり、年単位でリハビリテーションを実施する機会が少なくなっています。そのため、失語症の方に長期間にわたってリハビリテーションが実施できるような、システムの構築が必要であると考えられます。
言語聴覚士としても、患者さんが長期的にリハビリテーションを継続できるような働きかけを意識したいものです。
[出典・参照]
言語聴覚士国家試験過去問題3年間の解答と解説〈2011年版〉
藤田郁代.標準言語聴覚障害学 失語症学.医学書院,2009
中川良尚.失語症の長期回復.高次脳機能研究 2014;34(3)
中川良尚.言語機能障害(失語症)の予後予測.総合リハビリテーション 2018;46(7)

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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