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装具難民を減らしたい。 “使いたい”装具で暮らしを 支える「装具ラボ STEPs」が描くビジョン

公開日:2025.03.22

装具難民を減らしたい。 “使いたい”装具で暮らしを 支える「装具ラボ STEPs」が描くビジョン

取材・文 みつはら まりこ

「装具が合わなくなった」
「修理したいけどどこに頼めばいいか分からない」―。

医療機関での治療を終えて自宅での生活に移行した患者さんたちから、このような声があることをご存じですか?

医療現場では細かく調整されていた装具が、在宅に移ると放置されがちな現実があります。こうした方々は「装具難民」と呼ばれ、医療従事者からも対応の難しさが指摘されています。

「暮らしの中で使い続けるものだからこそ、在宅の患者さんの装具にアプローチしたい」。

そう考えた義肢装具士の三浦さんは、2024 年春、生活期の装具に特化した「装具ラボSTEPs」を立ち上げました。

訪問サービスや 3D スキャナーの活用など生活に寄り添った装具サービスを展開している三浦さんに、その想いと取り組みについて伺いました。

三浦 奈月氏

今回インタビューした人:三浦 奈月氏

装具ラボ STEPs 代表
在宅患者の生活期装具に特化した「装具ラボ STEPs」は、訪問サービスや 3D スキャナーを活用した、患者一人ひとりの暮らしに寄り添った装具製作を行う製作所です。三浦氏は義肢装具士として 13 年間の経験を活かし、2024 年春に独立。患者の日常生活に合わせた柔軟な対応と、きめ細かいアフターフォローにより「装具難民」の課題に取り組んでいます。

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なぜ増えている?「装具難民」の実態と背景

「装具難民」という言葉を初めて聞きました。具体的にどのような状況を指すのでしょうか。

装具には、「治療用装具」と「生活用装具」の 2 種類があります。

治療用装具は骨折やけがの治療期間中だけに使用する、一時的なもの。

一方、生活用装具は脳卒中などの後遺症により退院後も継続して使用するものです。

在宅に移った後、生活用装具のメンテナンスや調整に困る方々を「装具難民」と呼んでいます。

実際に三浦さんは、どのような方々と出会われましたか?

足に合わなくなった装具を使い続けている方や、壊れた部分をビニールテープで補正して使用している方など、多くの方が不適切な状態で装具を使用されていました。

この現状は、以前勤めていた会社で在宅訪問を担当していた時に知ったんです。

病院では装具の角度を細かく調整するのに、退院後は装具のケアが行き届いていない。

この現実を目の当たりにして、大きな課題を感じました。

自宅で装具を扱う際の説明が不十分な場合もある。「外していいのか使い続けていいかすら知らない患者さんもいる」と三浦さんは語る

なぜ、このようなことが起きているのでしょうか?

大きな要因は 3 つあると考えています。

1 つは、装具製作所の大半は病院対応中心で在宅への訪問が難しいこと。

2 つ目は、患者さんやご家族が装具の相談先を見つけられないこと。

3 つ目は、医療・介護職の方々も装具について詳しくない方が多く、適切なアドバイスができない現状です。

実際、多くの患者さんは作ってもらった製作所に直接相談しますが、「製作所か病院まで来てください」と言われるみたいです。

とはいえ、通院が困難なケースも多く、近くのクリニックでは対応できないこともあります。

そのような状況だと、患者さんの体の負担は大きいのでは?

そうですね。合わない装具を使い続ければ足に傷ができたり変形が進んだり、転倒のリスクも高まります。

また、使用を諦めたりする方もいて、これはもっと深刻です。

装具は筋肉の緊張や緩んだ状態をサポートする大切な役割があるため、適切な状態で使い続けることが肝心ですね。

生活期に特化して長く使えるものを。装具ラボ STEPs 誕生の背景

装具ラボ STEPs の立ち上げを決意されたきっかけを教えてください。

私は義肢装具士として 14 年目で、これまで 3 社で経験を積んできました。

大きな転機となったのは、2 社目での経験です。育児との両立のため営業部に配属され、在宅の方への対応も担当するようになりました。

その中で在宅の患者さんが抱える問題の深刻さを実感し、「患者さんの日常生活のために物づくりを続けていきたい」という気持ちが強くなったんです。

その後の経験が、独立への決断につながったのですか?

はい、3 社目では営業部と製造部どちらも経験しました。

ただ、病院の装具製作と在宅の装具製作では、まったく時間の流れが違うことを痛感して。というのも、病院では治療計画や退院計画に合わせた納期と機能性が最優先。

一方、在宅の場合は急ぐ必要はなくても、長く使えるものを作ることが大切です。

でも、この 2 つを同時に行うのはとても難しい。病院の仕事を受けると納期に追われ、どうしても在宅の方のケアが後回しになってしまうんです。

「このままでは在宅の患者さんからの信頼を失ってしまう」という危機感から在宅に特化した専門店の必要性を感じ、装具ラボ STEPs を立ち上げました。


作業場は自宅の庭のスペースを活用し、DIY で建てた小屋

“暮らし”から考える装具製作。装具ラボ STEPs の 3 つのアプローチ

装具ラボ STEPs ならではの特徴を教えてください。

特徴は主に 3 つあります。1 つ目は「生活期専門」である点。

2 つ目は訪問サービスの提供。3 つ目は 3D スキャナーの導入です。

装具ラボ STEPs では暮らしの中での使用を重視して、装着のしやすさや長時間使用での快適さにこだわっています。

一般的な装具会社が機能性重視の決まった形で作るのに対し、私は患者さん一人ひとりに合わせたオーダーメイドを心がけています。

また、日常使いすることも考慮し、カラーや柄もお選びいただけますよ。例えば、女性だったらチェックや花柄、男性ならブラックなど、患者さんの好みに応じた装具も可能です。


花柄の装具はワードローブのアクセントになり、テンションが上がりそう!

訪問サービスについて具体的に教えてください。

半径 20 キロ圏内は無料で訪問し、それ以上は 1 キロごとに 200 円の訪問料をいただいています。

義肢装具業界は人手不足で訪問対応できる会社が減少しているため、これまで香川県や大阪府など遠方からのご依頼もありました。

3Dスキャナーの導入効果はいかがですか?

3Dスキャナーは、患者さんと義肢装具士の負担を軽減するメリットがあると感じています。

例えば脳卒中の方の場合、従来の石膏製作の採寸では筋肉の緊張により理想的な形が取れないことがありました。

作る側は患者さんの足を押さえて足形を取るため、普段の緊張の度合い分からないこともあったんです。

しかし、3Dスキャナーなら足に触れずに自然な状態で採寸でき、データとして保存できるため経過観察がしやすい。

試行錯誤の末、装具の適合性が格段に向上しました。


患者さんがリラックスした状態でさまざまな角度から撮影し、データを取り込む

患者さんからはどのような要望が多いですか?

意外にも多いのが「靴が履けない」という相談です。

以前アンケート調査を見て、医療従事者は「機能性」を重視する一方、患者さんが最も気にするには「靴が履けるかどうか」であるというデータを知り、それが確信になりました。

介護用の靴は病院では気にならなくても、自宅に帰ると抵抗がある方は多い。

だからこそ、患者さんの希望する靴に合わせた装具の工夫を心がけていますね。


短下肢装具の更新をご依頼いただいた患者さまと。「イメージ通りの可愛い装具ができた」と喜ばれた

一方で、医療従事者や施設とのつながりはどのように構築されているのですか。反響もあれば教えてください。

今は、前職とのつながりが多いです。主に通所リハビリや訪問リハビリの理学療法士の方々と連携しています。

「自宅で装具を見たらかなり劣化していたので、見ていただけますか」といったご相談をいただくことが増えてきました。

また、独立後につながりができたのは、自費リハビリ施設です。

というのも、装具会社の大半は病院との取引がメイン。自費リハビリ施設との連携に消極的な面がありました。

しかし私にとっては、患者さんの QOL 向上を目指す思いは自費リハビリ施設と同じ。

「個人で柔軟に動いてくれる義肢装具士はありがたい」という声もいただき、従来の装具会社では対応が難しかった領域での連携が広がっています。

“使える”装具から“使いたい”装具へ。患者の声から見えた可能性と課題

これまでのご依頼の中で、印象的な出来事はありますか?

関東在住の女性からのご依頼が特に印象に残っています。

彼女は病気で足の装具が必要になり、「お風呂が大好きなのに銭湯に行けない」という悩みを抱えていました。

既存の装具会社からは「危ないからやめてください」と断られたそうです。

私は彼女が所用で兵庫県に来られた際に採寸し、お風呂用の装具を製作しました。実は、お風呂用装具を作るのは技術的に大変ではなく、ベルトを撥水性のものに変えて滑り止めを工夫するだけ。材料を変えるだけでできたんです。

後日、彼女から「銭湯に行けています」と嬉しいご連絡をいただきました。装具は医療機器である前に、暮らしを支える道具です。

大きな会社では難しい柔軟な対応でも、装具ラボ STEPs だからこそできることもある。この出来事から、患者さんの暮らしに寄り添った装具作りの可能性を感じました。


花柄に加えてピンクのベルトもキュートな、お風呂用の装具

事業をはじめてもうすぐ 1 年。現在の課題はありますか?

主に 2 つあり、1 つは広報面での課題です。各 SNS での発信を続けていますが、主な対象となる 60 代以降の方々には情報が届きにくい側面があります。

装具難民となっている本人やその家族、周囲の医療介護職へ情報が行き届くような、効果的な広告手段を模索中ですね。もう 1 つは経営面です。

3D スキャナーなどの設備投資により、昨年は赤字でした。

ただ、自宅の運営なので場所代は不要で、個人経営なので人件費もかかりません。

今年からの黒字化を目指しています。

「患者さんが納得いくまで対応する」。装具ラボ STEPs が目指す未来

今後の展望をお聞かせください。

独立時から考えているのは、フランチャイズ計画です。

セミナーなどで講演する機会があるのですが、「近くの製作所に問い合わせてみてください」としか言えない現状があります。

とはいえ、問い合わせても対応可能かはわからない状況。各地に装具ラボ STEPs ができれば多くの患者さんに生活に寄り添った適切な装具を届けられると考えています。

また、義肢装具士は人手不足に加えて、女性にとっては働きにくい環境なんです。納期に追われる毎日で家庭との両立が難しく、「仕事は好きだけど続けられない」と退職していく女性をたくさん見てきました。

そのような方々に「こういう働き方もある」ということを示しつつ、各地で在宅の装具ケアに携わる仲間を増やしていきたいです。

 

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