「私のことは、私が決める」障がい当事者が運営する求人サイト「パラちゃんねる」が描く包括的な支援
公開日:2025.03.17
取材・文 みつはら まりこ
障がい当事者として、大学進学・就職活動に対する不安や困難を経験してきた、豆塚エリさん。
フリーランスのライターとして活動する中で2025年1月、障がい者雇用専門の求人サイト「パラちゃんねる」の運営を株式会社キャリアートから引き継ぐことになりました。
現在、パラちゃんねるには約5,000人の求職者と約1,200社の企業が登録しています。
障がいの特性や必要な配慮を詳細に記載できるフォームを採用し、きめ細やかなマッチングを実現。企業向けには障がい者雇用のコンサルティングも行い、既存の求人サイトとは異なる方法を確立しています。
障がい者が働く選択肢を増やしたい―。生きづらさを抱えるすべての人の就労において新しい可能性を切り拓く豆塚さんに、パラちゃんねるを通じて目指す「寄り道が居場所になる社会」への想いを伺いました。

今回インタビューした人:豆塚 エリさん
NPO法人こんぺいとう企画 代表理事
16歳の時に車いす生活になり、22歳よりフリーランスのライターやテレビのコメンテーターとして活動している。2022年にエッセイ『しにたい気持ちが消えるまで』を発刊。2023年12月に「寄り道が居場所になる社会へ」を理念としたNPO法人こんぺいとう企画を設立し、在宅ワーカー育成事業「もくもくライタースクール」を含めた4つの事業を展開。大分県を拠点に、障がい者の新たな可能性や活躍できる場を広げる取り組みを進めている。
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目次
「自分らしさ」「ここまでできる」を活かせる、新しい求人サイト
「パラちゃんねる」ならではの特徴を教えてください。
一番の特徴は、障がいの特性や必要な配慮について細かく記載できるフォームです。
障がいのある方が就職活動する際、自分の障がいについてどこまで、どのように伝えればいいのか悩むんです。
でも、パラちゃんねるのフォームは過不足なく自分の特性や配慮を整理できる。企業側も事実ベースでその情報を客観的に見られます。
お互いを理解した上でマッチングできるので、採用後のミスマッチも防げます。これは求職者と企業側双方にとって利点だと思います。
従来の就職活動は、どのような点が課題なのでしょうか?
例えば、ハローワークだと給与や勤務時間など基本情報は把握できますが、会社の受け入れ体制が見えづらいこともあります。
私も「車いすで行けるか」「バリアフリーはどうなっているのか」と、すごく不安でした。
その点パラちゃんねるには企業側にコラムを掲載できる機能があり、会社の雰囲気や障がい者雇用への取り組みについても発信できます。
求職者としては「ここなら安心して働けそう」というイメージが持てます。
パラちゃんねるはどのような方が利用できるのでしょうか?
障がい者手帳をお持ちの方はもちろん、うつ病などで一時的に仕事を離れた方や抑うつ状態になってしまった方など、生きづらさを感じている方々も活用していただけます。
このような状態は誰しも起こりうること。パラちゃんねるは体調や状況に合わせて、無理なく就職活動を進められますし、次のステップに進むきっかけとして利用していただきたいです。
従来にない、新しい就活の形であると感じます。
そうですね。ベッドで寝転がりながらスマートフォンで求人が探せる。これは、ハローワークに行って障がい者担当の方に相談する就活と比べると、とても画期的です。
また、在宅ワークの求人もあるため、地方在住の方にとっても大きな可能性だと思います。大分県在住の私にも、各地の企業からスカウトをいただくこともありました。
企業からのスカウトは、求職者の自信にもつながるんです。
通知が来るたびに「あなたは必要とされていますよ」って言われているような気持ちになって、すごく嬉しい。実際、利用者からも「コツコツ頑張って応募して、やっと自分に合った会社と出会えました」という声もいただいています。
一歩ずつ前に進める方が増えていることが、私自身の励みにもなっていますね。
「私も誰かの役に立ちたい。」当事者から運営者になるまでのきっかけ
豆塚さんとパラちゃんねるの出会いをお聞かせください。
2020年頃、パラちゃんねるを運営していた株式会社キャリアート代表の中塚さんとの出会いがきっかけです。
当時、私はフリーランスとして、デザインやテレビのコメンテーター、執筆活動などをしていましたが、コロナ禍でデザインとテレビの仕事が減少していて。
そんな時、中塚さんから「パラちゃんねるカフェ」というコラムサイトでライターとして書いてみませんか、とお声がけいただいたんです。
そのコラムは、「働く×障がい」をテーマに、当事者と企業が生の声を発信する場でした。
執筆活動を通して、どのような気付きがありましたか?
最初は自分のことを書くのに抵抗がありました。
16歳の時に自殺未遂して車椅子生活となり、その後も復学・大学進学・就職を諦めざるを得ない経験をしてきた私にとって、自分を語ることは簡単ではなかったんです。
でも、書いていく中で自分自身のことが整理できていって。身体障がいだけはでなく、精神的な傷つきや不安、親子関係のモヤモヤ、そういったことと向き合えるきっかけになりました。
ありがたいことに記事への反響も大きく、「気持ちわかります」「応援しています」と温かい言葉をたくさんいただいて。自己表現して発信することの大切さを実感しました。
パラちゃんねるの運営を引き継ぐことになった経緯をお聞かせください。
中塚さんは毎月オンラインの編集会議で時間をとってくださり、「最近どう?」「夢はないの?」と問いかけてくれました。
最初は「障がいがあるのにキャリアなんて考えられない」と答えていた私に、「自分にとって幸せな状態とは何か」を一緒に考えてくれたんです。
そうやって長い時間伴走してくださる中で、「私も誰かの役に立ちたい」という気持ちが芽生えました。
その後、2022年に株式会社キャリアートがはじめたパラちゃんねるを、「一緒にやりませんか?」というお話をいただきました。
レールから外れた時の不安や戸惑い、就活への自信のなさ。そんな気持ちは私自身も経験してきました。だからこそ、より多くの方の心に響く支援ができるのではないか。
そう考え、NPO法人こんぺいとう企画として2025年1月に運営を引き継ぐことを決意したんです。
企業に寄り添う、きめ細やかなサポートも
企業側がパラちゃんねるを活用するメリットを教えてください。
メリットは2つあります。1つ目は完全無料で利用できることです。
多くの求人サイトは「掲載は無料、成果報酬型」が一般的ですが、パラちゃんねるは採用が決まった場合の成果報酬も一切いただいていません。
2つ目は、障がい者雇用に関する相談やアドバイスも行っていること。
「雇用率の計算方法がわからない」「どんな配慮が必要なのか」など、特に初めて障がい者雇用に取り組む企業には、法律面の解説から実務的なアドバイスまできめ細かくサポートしています。
当事者が運営することで、どのような変化がありましたか?
特にコンサルティング面での支援の質が上がっていると思います。
例えば、企業さまのホームページに「障がい者雇用について」という情報を掲載することをおすすめしています。
これは費用をかけずにできる採用窓口になりますし、障がい者雇用への積極的な姿勢を示すことにもなるからです。
一方、求職者も就職に慎重なので必ず企業のホームページは見ます。「求職者の目線で何が必要か」を提案できるのが、私たちの強みですね。
より積極的な採用活動のために、企業側にはどのようなサービスがあるのですか?
月額5,000円からの有料プランでは、最大10件まで求人を掲載できます。
一般的な人材紹介会社だと採用1件で数十万円かかることもありますが、それと比べるとかなり費用を抑えられる金額設定にしています。
というのも、障がい者雇用は採用だけでなく離職率の高さにも課題があります。
採用の費用を抑えることで社内の設備改善や従業員研修など、人材の定着に向けたより良い職場環境づくりのために使っていただきたい。その想いも含まれています。
また、有料プランではSNSでの情報発信もサポートしています。現在、パラちゃんねるのフォロワー数はXが2.5万人、TikTokは9000人以上、月間60万PV以上。
そのフォロワーに向けて企業さまの求人情報や会社の取り組みを動画で配信しています。
実際、動画配信後にエントリー数が3~4倍に増えた企業さまもいらっしゃいました。
スキルアップから就職まで、段階的な就労支援の実現へ
現在の課題と、新しい取り組みについてお聞かせください。
まだまだ求職者の方へのサポートが十分とは言えません。資金面の問題もあり、きめ細かな支援体制を整えることが課題です。
ただ、その解決に向けて新しい取り組みを始めています。
現在、こんぺいとう企画では在宅でライティングを学べる講座「もくもくライタースクール」を運営しています。
ここでよく聞く声が、「履歴書の書き方がわからない」「面接ってどうしたらいいの」などの質問です。就労経験が浅い方は、これらの取り組み方を知る機会が少なく、社会と触れ合うハードルはとても高い。
面接で不採用が続くと自己肯定感が下がってしまうんです。そこで、まずは自宅で知識をつけてスキルを磨き、少しずつ自信をつける。
その先にパラちゃんねるがある、という段階的な支援を目指しています。
また、大分市でB型作業所の立ち上げも予定しています。文章を書くことが難しい方でも、パソコンを使った簡単な作業やメルマガの配信業務など、できることはたくさんある。
一人ひとりの状況に合わせた包括的な支援も視野に入れています。
これからの障がい者雇用・支援に対する想いをお聞かせください
今、社会は「障がいのある人の声を聞こう」という姿勢を示してくれています。今までは一方的に配慮される側でしたが、やっと話し合いのテーブルにつけるようになりました。
だからこそ、「こんな配慮が必要で、こういうことをしてくれたら私はここまでできる」ということをしっかり伝える必要があります。
何より私が大切にしているのは、「私のことは、私で決める」ということです。今はまだ選択肢が少ないですが、今後は働き方の可能性を増やしたい。
自分で見つけて・選べて・決められる。そんな支援の形を作っていきたいと考えています。
障がい・難病などの特性を持つ方の仕事探しを専門とした求人サイト。現在は約5,000人の求職者と約1,200社の企業が登録している。「自由な出会い」をテーマに誰もが使いやすく、求職者と企業の出会いをマッチングできるサービスが特徴。
障がいや病気などにより生きづらさを抱えている人が気軽に挑戦でき、活躍の場を広げたい、という想いから2023年12月に発足。「寄り道が居場所につながる社会へ」というビジョンを基に、オンラインスクール・大分県観光案内のメディアサイト・記事代行作成サービスMokuMoku・就労継続支援B型事業所の事業を運営中。2025年1月、株式会社キャリアートから「パラちゃんねる」の運営も引き継いだ。
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