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9月8日開幕! セラピスト的パラリンピックは障害者スポーツ補装具に注目

公開日:2016.08.29 更新日:2016.09.09

すべてがオリンピック規準で運営される


カーボン成形で作られる最新の陸上競技用車椅子。グラム単位で軽量化を図り、コンマ1秒の戦いに挑みます。

オリンピックが閉幕すると、日本時間9月8日からいよいよリオ2016パラリンピック競技大会が始まります。競技場などほとんどの施設は、オリンピックと同じ場所が使用されます。参加選手数は約4350人。オリンピックは約1万人なので、およそ半分の規模です。
 
開会式や閉会式もマスゲームや有名アーティストの出演など、目を見張るスケールとクオリティです。選手たちは世界中から注目され、オリンピックと同じ会場や環境で競技します。この雰囲気に憧れて、そしてパラリンピックで勝つことを目指してハードなトレーニングにも歯を食いしばりがんばってきました。
 
パラリンピックに出場するためには各競技ごとの条件をクリアしなければなりません。団体競技はパラリンピック予選を勝ち抜いて出場権を獲得し、個人種目では出場標準記録の突破が目標です。こうした選手選考のシステムもオリンピック競技と同じです。

セラピストらによる「クラス分け」


水泳のスタートでは立位で静止できない選手の体に手を添える補助が認められています。障害を受け入れながら公正に競技するためにルールや補装具で工夫しているのが、パラリンピックの特長。

オリンピックとの違いは、心身障害を有することが出場資格ということです。正確には種目ごとに対象となる心身障害があるのですが、いずれにしても、健常者は出場できません。一方、パラリンピック選手はオリンピック出場も可能です。今回のリオ大会では、卓球で日本選手とも対戦したポーランドチームにパラリンピック選手が出場していました。
 
そして心身障害の内容は選手ごとに違います。脊髄損傷で車椅子の選手でも、脊髄のどこが傷ついているのか、また麻痺の程度も同じではありません。それは運動機能に直接影響するので、公正に競技を行うために競技ごとで工夫しています。
 
花形競技の水泳では、肢体不自由だけでも10クラスに分けて競技が行われます。陸上競技では肢体不自由でなんと27クラスあります。このクラス分けは医師や理学療法士などの「クラス分け委員」が判定。腕や足の欠損についてはその長さを測ります。また実際に運動しているときの動作も観察して行われるため、身体障害というよりも運動機能障害について判定しているといえます。そのため、トレーニングによって関節の可動域が広がると、軽いクラスに変更されます。また疾病などで麻痺が強くなれば重いクラスに変更されることもあります。このパラリンピックのクラス分け変更は、オリンピックの柔道や重量挙げなどで体重別クラスが選手の成績を左右するのと同じ事です。

団体競技は障害クラス分けがチーム戦略

団体競技では車椅子バスケットボールやウィルチェアーラグビーが、ルールによって身体障害による運動機能の差を補っています。障害によって各選手に持ち点が与えられ、コートに出ている選手の総点数を制限することで、重度の選手を起用しなければならないシステムになっています。重度の選手をどのように出場させるかが、勝敗を分ける重要なチーム戦略になっています。

スポーツ専用の補装具

パラリンピックならではの注目ポイントの一つが、義手、義足、車椅子などの補装具。最高の性能の補装具や、それを使ったリハビリ技術を世界のメディアに露出させるビジネスチャンスでもあります。自動車メーカーがF1レースに出場するのと同じです。
身体障害者は補装具で障害された運動機能を補います。そのとき、セラピストがその選定や調整を担っています。そして同じようにパラリンピックスポーツでも専用の器具を使って競技します。
 
観戦していて分かりやすいのは義足です。ドイツのオットーボック、アイスランドのオズールなどはセラピストなら聞いたことがあるかもしれません。これらのメーカーはパラリンピックにテクニカルスタッフを派遣するなど、熱心に選手をサポートしてきました。
 
陸上競技ではブレードと呼ばれる競技専用の義足を使用します。そして大腿切断の選手は膝継手(ひざつぎて)を使いますが、これはとても硬く調整してあります。普通に歩いたり小走りする程度ではほとんど曲がらないほどです。
 
けれども、強い負荷のかかる競技では、それが足を前に出すタイミングの遊脚相(ゆうきゃくそう)で、ほどよい膝のしなりを生み出します。陸上100mなどの短距離種目を見てみると、スタートから数歩はぎこちなく股関節で患側の足を振り出していますが、トップスピードに達すると、脚の動きはとてもしなやかで、そのときブレードの性能が最大限に引き出されます。
 
アーチェリーはパラリンピック最古の種目です。これも補装具の工夫が見所の一つです。頸椎損傷などによって障害が重い選手は強い弓を引けません。そこで滑車のついた専用の弓を使います。また手指に麻痺があると、それを補う器具を選手が自作していたりもします。なかには口で弓を引く選手もいます。

スポーツ車椅子が高性能な理由


車椅子バスケットボールなどの競技用車椅子は、回転性能を向上させるため車軸が体の重心の下にくるよう設計されています。

競技用車椅子もスポーツの魅力を高めることに貢献しています。バスケットボールやテニスの専用車椅子は車輪がハの字に広がっていることで、左右に激しく蛇行しながら走行したときの安定性能が向上しています。
 
そして日常用と決定的に違うのが、車軸の位置です。競技車では股関節(重心)の真下に車軸があるため、回転性能が飛躍的に向上しています。ハンドリムを軽く漕ぐだけで素早く回転する軽快さには、初めて乗る車椅子ユーザーでも驚くほど。ただ車椅子の運動性能が向上したことで、選手の体に対する負荷も高まっているので、日ごろの基礎トレーニングは怪我予防の意味でも重要になっています。

リハビリ室でも使える種目

パラリンピックならではの種目にボッチャがあります。選手は重度脳性麻痺者など。最初になげた目標球へ、後から投げるボールを近づける、カーリングに似た競技です。障害が重いクラスではランプと呼ばれる滑り台のような投球補助具を使用します。選手は「競技アシスタント」に指示して、ランプの角度や長さを調節します。このボッチャはあらゆる障害程度の人が一緒にゲームできるため、リハビリテーションで活用するケースが増えています。実際、ボッチャ日本代表の内藤コーチは沼津の障害者施設で作業療法士として働いています。村上ヘッドコーチも元特別支援学校の教諭です。
 
 

<競技や放送の日時はこちらをチェック!>

リオ2016パラリンピック競技大会|日本パラリンピック委員会
http://www.jsad.or.jp/paralympic/rio/
Rio2016パラリンピック特設ページ|NHK
http://www.nhk.or.jp/paralympic/
 
 

リオパラリンピック全種目(種目名/対象となる心身障害)

(★は日本人出場予定種目)

★  アーチェリー/肢体不自由
★  陸上競技/肢体不自由、視覚障害、知的障害
★  ボッチャ/重度脳性麻痺や同程度の四肢重度機能障害
★  カヌー/肢体不自由
★  自転車(トラック、ロード/肢体不自由、視覚障害
★  馬術/肢体不自由、視覚障害
   5人制サッカー/視覚障害
   7人制サッカー/脳性麻痺
★  ゴールボール/視覚障害
★  柔道/視覚障害
★  パワーリフティング/下肢に障害のある肢体不自由
★  ボート/肢体不自由、視覚障害
   セーリング/肢体不自由、視覚障害
★  射撃/肢体不自由
   シッティングバレーボール/下肢に障害のある肢体不自由
★  水泳/肢体不自由、視覚障害、知的障害
★  卓球/肢体不自由、知的障害
★  トライアアスロン/肢体不自由、視覚障害
★  車椅子バスケットボール(男子)/下肢に障害のある肢体不自由
   車椅子フェンシング/下肢に障害のある肢体不自由
★  ウィルチェアーラグビー/四肢障害(四肢麻痺、四肢欠損など)
★  車椅子テニス/肢に障害のある肢体不自由、クァードクラスは上肢にも麻痺などの障害がある

安藤啓一(あんどう けいいち)

安藤啓一(あんどう けいいち)

福祉ジャーナリスト。大学在学中からフリー記者として活動を始める。1996年アトランタパラリンピックをきっかけに障害者スポーツの取材をはじめる。夏冬パラリンピックや国内大会を多数取材。パラリンピック関係者に読み継がれている障害者スポーツマガジン「アクティブジャパン」「パラリンピックマガジン」記者などを経験。日本障がい者スポーツ協会発行誌『No Limit』などの媒体にも寄稿している。取材活動のほかチェアスキー教室講師としてもスポーツに取り組んできた。共著に「みんなで楽しむ!障害者スポーツ」(学習研究社)がある。

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