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リハビリテーションと障害者スポーツリハビリテーションと障害者スポーツ

第10回高度化する障害者スポーツは危険なのか? 理学療法士は障害特性を理解した指導ができる

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連日の報道で盛り上がったリオデジャネイロパラリンピック。次は2020年の東京大会です。パラリンピック種目のなかでも花形の車椅子バスケットボールの女子代表チームで監督を務める理学療法士の橘さん。リオ大会の出場は惜しくも逃しましたが、東京大会でのメダルに向けて新たなチャレンジを始めています。

スポーツはリハビリテーションにつながる


女子車椅子バスケットボール日本代表監督
茨城県立医療大学准教授/理学療法士 橘香織さん
大学の車椅子バスケ部でも監督をしている。選手はセラピストの卵たちだ。

───スポーツに、リハビリテーションとしての効果は期待できますか?
 
セラピストは、「障害者は全員がそれぞれ違う」という前提で関わっています。片麻痺でも、一人として同じ障害はありません。いつでも、それぞれの患者にとって最適なリハビリの方法は何かを考えています。
 
この視点は日常生活のリハビリテーションだけでなく、スポーツのトレーニングでもまったく一緒だと思います。車椅子バスケのコーチをしながらリハビリテーションをしている意識はありませんが、スポーツとリハビリはつながっていると思います。
 
「その人の行きたいゴールに連れて行く」。この目標はスポーツでもリハビリでも、まったく同じです。「日本チャンピオンになる」「メダルを取りたい」という選手たちの目標に対して、コーチは実力と目標のギャップをどうやって埋めていこうかと考えます。そのときの難易度をどのように設定するかが大事で、日々のチャレンジを積み重ねて、最終的に目標を達成するわけですね。
 
こう考えると、入院している患者さんの「自立して家に帰りたい」という目標は、パラリンピック選手が大会でメダルを取ることと同じです。
 
入院している状況から、患者さんは何ができるようになったら在宅復帰できるのでしょうか。どういった訓練や準備をしたらそれが達成できるのか、患者さんと一緒に取り組んでいくのがセラピストです。
 
やっている内容は違うけれど、考え方は共通しています。だから私はコーチでしてきたことをセラピストとしての活動に還元できることがあるし、反対にセラピストをしているからスポーツのコーチとして見えることもあります。

アクティブなプレーが増えた理由は競技用車椅子の高性能化にあった


競技用車いすで軽快に走る学生選手たち。ここで経験したことが、セラピストとして働くときに活きてくる。

───テレビ中継でパラリンピックの車椅子バスケットボールを観戦していたところ、激しい転倒シーンがありました。
 
 
バスケ用の車椅子はとても安全な設計です。ビギナーレベルでは、ほとんど怪我はしませんよ。
 
ところが競技として本格的にプレーすると、急に走る量が増え、スピードも速くなります。そのときアスリートとしての身体が充分にできておらず、自分の運動能力を超えるようなプレーをすると怪我をしやすくなります。
 
また道具の性能も良くなっています。10年前とは競技スピードがまったく違うんですよね。選手たちは進化した車椅子の性能を追いかけるように、身体づくりをしてきました。
 
 
───車椅子の性能向上で競技がアクティブになったのですか。
 
昔のバスケ用車椅子の車軸はお尻よりも後ろの位置にありました。普通の車椅子と同じ設計ですね。
 
そして私が車椅子バスケを始めた2001年ごろに、激しいプレーをしても後ろへひっくり返らないように車椅子の後部に転倒防止用の小さい車輪を取りつけるようになりました。この工夫で転倒の危険が少なくなり、車椅子の車軸を選手の重心の真下まで前に出すような設計が可能になりました。そうしたことで車椅子と選手の重心が同じ位置になり、車椅子の回転性能が飛躍的に向上したんです。
 
車軸の位置が前にきたので、車椅子を漕ぐときに掴むハンドリムに手が届きやすくなりました。それだけタイヤに力が伝わりやすくなり、走行スピードも速くなります。その結果、プレーがよりアクティブになり、選手同士が接触したときには回転しながら激しく転倒するケースも増えました。
 
競技のアクティブ化に伴ってルール変更も行われ、身体を車椅子に固定するためのストラップ装着が可能になっています。ストラップを使うと車椅子との一体感が増します。車椅子がクイックに動くときの力が身体に伝わりやすくなったため、車椅子の強い動きに耐えられる体力がないと怪我をしやすくなったという面はあるかもしれません。

障害者スポーツに関わるセラピストが増えてほしい


バスケ部の練習にパラリンピックを目指す若手選手も参加。橘監督から厳しい指示が出る。

───競技が激しくなったことで、セラピストの活躍する機会は増えましたか?
 
基礎トレーニングを充分にしていないと、首や肩、肘を故障してしまいます。そのため選手の身体や障害について詳しいトレーナーの役割が重要です。監督やコーチはスポーツ障害を予防するためのトレーニングを考えるのですが、選手たちは障害があるので怪我が起きたときの影響も複雑です。そこは理学療法士が強い分野だと思います。
 
部活動をしている高校生が整形外科でリハビリをするのと同じように、障害者スポーツの選手にも身体のメンテナンスをしてほしい。ところが障害者の選手はそれがしにくいと聞いています。病院を受診しても、そこに競技のことを詳しく知っている医師やセラピストがいないからです。
 
───橘さんは日本代表の監督をしていますが、大学では学生の車椅子バスケチームで指導しているそうですね。
 
茨城県立医療大学の学生チームをつくりました。セラピストを目指している学生たちは健常者なのでパラリンピックに行けるわけではないのですが、部員数が30名もいます。障害者のクラブチームでも、これだけ人数がいるところはほとんどありません。
 
障害を持ちながらスポーツをすることが、どれだけ大変なのか気づいてほしいという思いもあって学生チームを指導してきました。バスケをしているなかで、健常者はすぐにできる場面でも、障害があるとパスボールに手が届かないことがあります。それは選手として能力がないのではなく、それこそが障害を持っているということなのです。そのときネガティブに思わず、違いとして考えられるようになってほしいです。
 
リハビリの現場で働くようになったら、車椅子に乗ってできるスポーツがあると一人でも多くの人に伝えてください。自分たちが車椅子バスケをやっていて楽しいと思うなら、「楽しいからやってみよう」と誘えますよね。
 
 
パラリンピックスポーツに関わる理学療法士が増えてほしいと話す橘さん。次回は、身体障害の専門職だからできるコーチング、そしてスポーツに参加したことがきっかけで、社会復帰の意欲を取り戻した人の例についてうかがいます。

安藤啓一

安藤啓一(あんどう けいいち)

福祉ジャーナリスト。大学在学中からフリー記者として活動を始める。1996年アトランタパラリンピックをきっかけに障害者スポーツの取材をはじめる。夏冬パラリンピックや国内大会を多数取材。パラリンピック関係者に読み継がれている障害者スポーツマガジン「アクティブジャパン」「パラリンピックマガジン」記者などを経験。日本障がい者スポーツ協会発行誌『No Limit』などの媒体にも寄稿している。取材活動のほかチェアスキー教室講師としてもスポーツに取り組んできた。共著に「みんなで楽しむ!障害者スポーツ」(学習研究社)がある。


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