車椅子バスケはリオパラリンピックで世界に挑む
公開日:2016.05.30 更新日:2016.06.10
韓国を破り、最後1枚の出場権をつかむ
車椅子バスケの激しいつばぜりあいに観客は魅了される。
車椅子バスケの日本男子代表チームは、昨年10月、最終予選の「2015IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップ」に出場。12カ国が出場枠3をかけて熾烈な戦いを繰り広げ、そして勝ち抜きました。今年9月にはリオパラリンピックで世界の強豪チームに挑戦します。
アジア最終予選、「跳んだ!」車椅子でジャンプシュート!!
予選リーグでは中国に敗れはしても、タイ、韓国、アフガニスタンに3連勝。グループ2位で決勝トーナメントに進出しました。そしてセミファイナルで対戦したのは世界王者オーストラリア。これに勝てば、リオ出場が決まるわけですが、パワー、チェアワーク、テクニックとすべてで圧倒されて敗北。そして、最後1枚になったパラリンピックの切符をかけた3位決定戦で韓国と対戦しました。
韓国は、因縁の相手です。ロンドンパラリンピックの最終予選でも最後の出場枠を争いました。その時は日本が残り30秒からの逆転でロンドンの出場権を勝ち取れましたが、その後、国際大会では3連敗を喫しています。
今回も互角の厳しいゲームになることは誰もが覚悟していました。試合序盤は韓国がリード。しかしタブルエースの藤本怜央選手(宮城MAX)と香西宏昭選手(NO EXCUSE)は慌てません。チャンスで確実にゴールを決め、日本ペースを確立。そして終わってみれば80-56で勝利! 充実したゲーム内容でした。選手たちはリオで戦えるだけの実力があると手応えを感じていました。
内閣総理大臣杯で、世界規準のハイレベルな車椅子バスケを披露
藤本選手は、内閣総理大臣杯では8連覇を達成した王者・宮城MAXのエースとして出場。圧倒的なパワーと正確なシュートで、4試合150点はもちろん得点王。その活躍で堂々MVPにも選ばれました。
「決勝で対戦した千葉ホークスには体格がよく当たりの強い選手がいます。たとえファールをされても自分のショットにこだわっていこうと考えていました。そして質の高いパフォーマンスをすることができました」
心配だった合流したチームとの調整も上手くいきました。
「ドイツから1週間前に帰国したばかりですが、チームとの連携もよかった。自分たちのプレーをパーフェクトにすることができ、そして8連覇できて、ホッとしています」
パワーで迫るオーストラリア選手と豊島選手が互角に戦う(アジア最終予選)
その藤本選手が「タイミングが合っていた」というのは、日本を離れていた間、チームの柱として実力を伸ばしてきた豊島英選手(宮城MAX)。巧みなチェアワークで相手のカウンターを封じ込め、それによって藤本選手のシュートチャンスが生み出されました。この2人の連携がチームを8連覇へと導いたのです。
藤本選手が不在の宮城MAXで、キャプテンとしてチームをひっぱってきたのが豊島選手。
「先輩がたくさんいるから、僕はプレーでチームを引っ張っていこうと、がんばってきました」
しかし藤本選手が合流したチームで豊島選手はアシストに回る場面が増え、「プレーが消極的になっていた」と振り返ります。けれどもチーム監督の岩佐義明さんは、「勝因は豊島。彼の走りとディフェンスがとても良かった」と評価。チームリーダーという役割を持ち、選手として大きく成長したようです。
試合は9月8日から、目標はメダル。世界に挑む準備はできた
観戦に来ていた車椅子キッズにとって、パラリンピック選手はヒーローだ。
国内王者を決める内閣総理大臣杯も終わり、いよいよパラリンピックへのチャレンジが始まりました。代表チームで藤本選手とともにダブルエースとして活躍する香西宏昭選手は車椅子バスケドイツリーグに参入した最初の日本人選手です。
「ドイツで藤本たちとのコンビネーションが良くなってきました」と、リオへの好感触をにじませました。
千脇貢選手(千葉ホークス)もドイツからの帰国組です。世界で戦うには車椅子が強く接触しても負けないパワーが必要です。そうしたトップレベルのタフな環境を経験してきました。
「40分間をトップスピードで戦えるだけのスタミナと当たり負けしない身体をつくることが課題です」と千脇選手はリオに向けて抱負を話していました。
国内では競り負けなくても、世界のトップリーグでは違う。そうした世界規準の意識は、国内の選手たちにも伝播し、そして日本バスケの競技レベルを高めていきます。宮城MAXの藤本選手も、「リオでは、必ずメダルに食い込む戦いをします」と意気込んでいます。男子代表の世界大会におけるベストリザルトは7位。世界レベルの車椅子バスケを意識するようになったことで、リオ大会では歴史的な活躍が期待されています。車椅子バスケの試合は9月8日から始まります。
選手の機能障害もチーム戦略の1つ
車椅子バスケットボールは、高さも大きさも通常のバスケと同じコートとゴールを使用します。ルールもほぼ同じです。ただしドリブルには特別なルールがあります。車椅子をこぐプッシュは連続2回まで。3回以上のプッシュはトラベリングです。選手は2回プッシュしたらドリブルを挟んで、再びプッシュします。そのためダブルドリブルはありません。
1チームは5人。選手にはそれぞれの障害によって「持ち点」が与えられています。障害の重い方から1.0点から4.5点までの0.5点刻みです。これはクラス判定員が実際の運動動作を見ながら決めています。損傷部位ではなく、座位における体幹バランスやボールコントロールの様子といった運動機能の障害によって判定されます。
そして試合中、コートにでている選手の「持ち点」合計は14.0以内と決められています。これは異なる機能障害の人たちが一緒に試合をするためのルールです。どういった機能障害の選手をスタメンに揃えるかというチーム戦略も車椅子バスケの面白さです。
車椅子バスケで、チェアワークをトレーニングする
試合後、選手の手はタイヤゴムで真っ黒。
競技には専用の車椅子が使用されます。両輪はハの字に広がり、旋回性能が高めてあります。また車椅子の背面には転倒防止のキャスターが付いています。そしてホイールにあるハンドリムと一緒にタイヤを直接握って車椅子を操作します。だから試合後、選手の手はゴムのかすなどで真っ黒になっています。
激しい当たりで転がる選手。車椅子バスケでは序の口。
車椅子バスケで強くなるためには、車椅子をコントロールするチェアワークの練習が不可欠です。試合では左右にジグザグと素早い切り返しをしながら相手選手をかわしたり、急ブレーキからターンするフェイントでシュートコースを探します。また、片輪が浮き上がったまま上肢や腰でバランスをとりながらシュートすることもあります。試合中には転倒することもありますが、1人ですばやく起き上がって試合続行します。そのため車椅子バスケをすることで、日常的な車椅子の扱いも飛躍的に上達します。
競技用車椅子。その驚きの軽快さ、お試しあれ。
安藤啓一(あんどう けいいち)
福祉ジャーナリスト。大学在学中からフリー記者として活動を始める。1996年アトランタパラリンピックをきっかけに障害者スポーツの取材をはじめる。夏冬パラリンピックや国内大会を多数取材。パラリンピック関係者に読み継がれている障害者スポーツマガジン「アクティブジャパン」「パラリンピックマガジン」記者などを経験。日本障がい者スポーツ協会発行誌『No Limit』などの媒体にも寄稿している。取材活動のほかチェアスキー教室講師としてもスポーツに取り組んできた。共著に「みんなで楽しむ!障害者スポーツ」(学習研究社)がある。
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