第17回スポーツのリハビリテーションは競技知識が必須です
公開日:2017.07.24 更新日:2017.08.04
視覚障害者競技「ゴールボール」の日本代表チームトレーナーの理学療法士・加藤瑛美さん。テニス選手としての経験を手がかりに各競技の運動メカニズムを理解し、患者=選手のニーズを探ります。選手のパフォーマンスを引き出すのがリハビリテーションの目標です。
身体の動きと使い方、各スポーツの知識もたくわえてスキルアップ

理学療法士になるための勉強をしていくうち、自分が経験してきた運動と身体の使い方のことを、知識として判断できるようになりました。「こういう身体の使い方をしていると、けがをしやすいね」など、患者さんの身体を触るだけで気づくこともあります。
通院している選手から「関節の動きがこうなっているから、フォームを修正できない」という話を聞いたときには、どのような関節の動かし方をするとパフォーマンスの高いフォームになるかのアドバイスもできるようになりました。そのときも「新しいフォームに変更をするには、今の関節可動域だと難しい。身体のここを治すため、どの筋肉を強化したらいいのか」という話をします。

当院はさまざまなスポーツ種目の選手が受診しているため、それに応じた専門知識が必要になります。私はテニス選手でしたが、他の職員もそれぞれ各種目の選手経験があります。私が所属しているリハビリテーション科内では、各種目の理解やその専門的動作についての勉強会も行っています。自分で勉強することは大切ですが、知らない競技種目について相談できる職員がいることは助かりますね。
職場での経験をゴールボール代表チームにも活かしたい

一般的なリハビリテーションでは生活シーンを想像しながら行います。同じようにスポーツのリハビリテーションでは、競技場面を理解しながらサポートしていくわけです。そのため、競技のことを何も知らないまま患者さんを診ても目標を理解できません。ゴールボールもそうですが、マイナー競技についてはわからないことが多いので、そうしたときは患者さんに直接教えてもらいます。
「どのようなフォームを目指していますか?」「コーチから何を指摘されていますか?」
などと聞きながら、パフォーマンスを向上させるためにどのような身体の使い方をするといいのかを伝え、それが可能になるようにスポーツ理学療法をしていきます。
スポーツ理学療法を学んだことで、現役選手のときにも別のトレーニング方法があったと気づいたことはありますね。「もっと足で踏ん張れ!」とコーチに言われたら、足をどの方向にして踏ん張れば高いパフォーマンスを出せるのかといった疑問にも、理学療法の知識によって答えを導きだせることがあります。
当院の患者さんにはオリンピックやパラリンピックの代表選手がいます。もちろんすべての患者さんが代表選手ではないので、一般選手のニーズにも合わせます。取り組めることは理想的な動きに近づけますし、筋力があればカバーできる故障もあります。スポーツの理学療法ではこのような振り幅が必要です。私の役割は、職場でのこうした経験をゴールボールのチームに還元することだと考えています。

安藤啓一(あんどう けいいち)
福祉ジャーナリスト。大学在学中からフリー記者として活動を始める。1996年アトランタパラリンピックをきっかけに障害者スポーツの取材をはじめる。夏冬パラリンピックや国内大会を多数取材。パラリンピック関係者に読み継がれている障害者スポーツマガジン「アクティブジャパン」「パラリンピックマガジン」記者などを経験。日本障がい者スポーツ協会発行誌『No Limit』などの媒体にも寄稿している。取材活動のほかチェアスキー教室講師としてもスポーツに取り組んできた。共著に「みんなで楽しむ!障害者スポーツ」(学習研究社)がある。
障害者スポーツ 記事一覧
- 第25回 車椅子バスケ~障害者スポーツだからこそ、理学療法士の専門性が生きてくる
- 第24回 ルール次第で重度障害者アスリートが主役に。車椅子バスケ大会、High8(ハイエイト)
- 第23回 障害者のスポーツ経験は生活の自立につながる
- 第22回 理学療法士がサポートするとスポーツ選手は強くなれるのか
- 第21回 世界トップのブラジル代表チームで活躍する理学療法士
- 第20回 日本代表チームのメディカルスタッフとして金メダルを目指す
- 第19回 ブラインドサッカー、日本代表選手の高度な空間認知能力に驚き
- 第18回 理学療法士養成校の学生がブラインドサッカー選手になるまで
- 第16回 テニスのジュニア選手から理学療法士を目指すまで
- 第15回 海外パラ選手の障害に配慮しないハードな練習にビックリ
- 第14回 理学療法的な視点から代表選手の選考に携わる経験も
- 第13回 視覚障害者に「どれくらい見えますか?」と聞けなかった
- 第12回 スポーツリハ職員、ゴールボールの代表チームトレーナーになる
- 第11回 競技経験があるからこそ選手のことを理解できる スポーツがリハビリテーションの可能性を広げます
- 第10回 高度化する障害者スポーツは危険なのか? 理学療法士は障害特性を理解した指導ができる
- 第9回 めざせ東京パラリンピック出場 夢への第一歩、東京都の選手発掘プログラム
- 第8回 9月8日開幕! セラピスト的パラリンピックは障害者スポーツ補装具に注目
- 第7回 障害者水泳、成田真由美選手復活! 日本記録更新でパラリンピックへ
- 第6回 男女混成のバトル系種目、車椅子ラグビーは重度障害者スポーツ!?
- 第5回 車椅子バスケはリオパラリンピックで世界に挑む