第24回ルール次第で重度障害者アスリートが主役に。車椅子バスケ大会、High8(ハイエイト)
公開日:2019.03.29 更新日:2019.04.12
High8という日本オリジナルルールの車椅子バスケ大会があります。運動機能障害が重い選手が中心の大会ですが、プレーの激しさは通常の車椅子バスケそのもの。パラリンピックなどの世界大会で勝つためには、セラピスト(療法士)たち専門職によるアセスメントに基づき、残存機能を最大限に引き出すことが必要です。この大会は障害で運動制約の大きい選手たちを育成する目的で開催されています。
運動機能障害を忘れて、コートの中では自由自在のパラスポーツ
パラスポーツのなかでも車椅子バスケットボールは、漫画やテレビドラマになるほど人気の種目です。選手はアグレッシブにコートを走り回り、ときには攻守で激しくぶつかり合います。急ブレーキや急ターンを繰り返すので、試合後半ともなればコートでは車椅子のタイヤが床とこすれてゴム臭がするほど。
この車椅子アクションは、下肢などの運動機能障害で生活行動が制約されている本人たちにとっては自由の翼を手にしたような歓びです。また観客もイメージしていた車椅子像を裏切る激しいパフォーマンスに魅了されます。
激しいプレーも車いすバスケの魅力。体全体を使って軽快に走り抜ける。
重度障害選手が主役の特別ルール
1月末、車椅子バスケットボールの第18回High8選手権大会が神奈川県藤沢市の秋葉台文化体育館で開催され、各地の予選を勝ち上がってきた強豪12チームが参加しました。
このHigh8は通常の車椅子バスケットボールと若干ルールが異なります。
車椅子バスケットボールには「持ち点」制というルールがあります。選手には障害の重い方から順に1.0点から4.5点の持ち点が与えられています。そしてコート内でプレーする選手の合計点が14.0を超えてはいけません。勝つために障害が軽い選手ばかり出場させてはスポーツとしての公平さを欠きます。そこでチームごとに身体障害の程度を揃える公平なルールになっています。
しかし実際の試合を見ると、多く得点するなどして目立つスター選手は障害程度の軽い選手に多いようです。そして重度障害で持ち点の少ない「ローポインター」と呼ばれる選手はディフェンスの要として、チームの勝利に貢献しています。
重度の選手がスターになれる特別ルールの大会。
重度障害選手の活躍がメダル獲得を左右するバスケ
High8はローポインターの祭典と呼ばれています。チーム合計点が8.0以内に制限されるオリジナルルールがあるため、各チームは持ち点の少ないローポインターが中心の選手編成にします。また女子選手はマイナス0.5点として男女の運動能力差を修正。High8では、1.0点選手や女子選手の起用が重要なチーム戦略となります。だからローポインターがスターになれる大会なのです。
High8大会を主催している一般社団法人関東車椅子バスケットボール連盟会長の高橋俊一郎さんは「日本が世界で戦うにはトップレベルのローポインター育成と強化が必要です」と話していました。
ゴール下で激しく攻守で競り合うシーンでは障害の軽い選手が活躍します。ローポインターには腰や股関節の筋肉が使えない選手が多く、座姿勢を保持するため車椅子に深く座ります。そのため重心が低くなり、ゴールリングは相対的に高くなります。
シュートが難しくなるわけですが、そうしたローポインターが外から決めるシュート成功率はレベルの高い試合になるほど勝敗を左右します。だからこそローポインターの選手育成がパラリンピックでもメダル獲得には必要なのです。
男子に混じってプレーする経験は、女子車椅子バスケの選手強化にもつながっている。
特別ルールが重度障害選手の潜在能力を引き出す
今回の第18回High8選手権大会決勝は、埼玉ラインズとNOEXCUSEの対戦になりました。両チームとも日本代表選手が所属する強豪チームだけあって、最後まで気の抜けない見ごたえのある試合となりました。
結果は60-51で埼玉ライオンズが6年ぶり2回目の優勝を果たしました。優勝チームの中井健豪ヘッドコーチも障害の重いローポインター選手に注目しています。
「世界を見回しても、こういった大会は少ないでしょうか。普段の車椅子バスケでは、どちらかというとサポート役に回ることの多いローポインターですが、この大会では普段とは違ったプレーを見せてくれます。それが選手の成長に繋がりますし、コーチとしても新しい発見をすることができるので、意義のある大会だと考えています」
決勝戦に向けて、中井健豪ヘッドコーチ(左)が山名智也チームトレーナー(右)と
今日の選手コンディションについて確認。
【大会結果】
優勝 埼玉ライオンズ
準優勝 NOEXCUSE
3位 COOLS
最優秀選手(MVP) 永田裕幸選手(埼玉ライオンズ)
BEST5 古川諒選手、原田翔平選手(埼玉ライオンズ)、大嶋義昭選手、湯浅剛選手(NOEXCUSE)、関大樹選手(COOLS)
>>マイナビコメディカルに登録して障害者スポーツに関われる職場がないか聞いてみる

安藤啓一(あんどう けいいち)
福祉ジャーナリスト。大学在学中からフリー記者として活動を始める。1996年アトランタパラリンピックをきっかけに障害者スポーツの取材をはじめる。夏冬パラリンピックや国内大会を多数取材。パラリンピック関係者に読み継がれている障害者スポーツマガジン「アクティブジャパン」「パラリンピックマガジン」記者などを経験。日本障がい者スポーツ協会発行誌『No Limit』などの媒体にも寄稿している。取材活動のほかチェアスキー教室講師としてもスポーツに取り組んできた。共著に「みんなで楽しむ!障害者スポーツ」(学習研究社)がある。
障害者スポーツ 記事一覧
- 第25回 車椅子バスケ~障害者スポーツだからこそ、理学療法士の専門性が生きてくる
- 第23回 障害者のスポーツ経験は生活の自立につながる
- 第22回 理学療法士がサポートするとスポーツ選手は強くなれるのか
- 第21回 世界トップのブラジル代表チームで活躍する理学療法士
- 第20回 日本代表チームのメディカルスタッフとして金メダルを目指す
- 第19回 ブラインドサッカー、日本代表選手の高度な空間認知能力に驚き
- 第18回 理学療法士養成校の学生がブラインドサッカー選手になるまで
- 第17回 スポーツのリハビリテーションは競技知識が必須です
- 第16回 テニスのジュニア選手から理学療法士を目指すまで
- 第15回 海外パラ選手の障害に配慮しないハードな練習にビックリ
- 第14回 理学療法的な視点から代表選手の選考に携わる経験も
- 第13回 視覚障害者に「どれくらい見えますか?」と聞けなかった
- 第12回 スポーツリハ職員、ゴールボールの代表チームトレーナーになる
- 第11回 競技経験があるからこそ選手のことを理解できる スポーツがリハビリテーションの可能性を広げます
- 第10回 高度化する障害者スポーツは危険なのか? 理学療法士は障害特性を理解した指導ができる
- 第9回 めざせ東京パラリンピック出場 夢への第一歩、東京都の選手発掘プログラム
- 第8回 9月8日開幕! セラピスト的パラリンピックは障害者スポーツ補装具に注目
- 第7回 障害者水泳、成田真由美選手復活! 日本記録更新でパラリンピックへ
- 第6回 男女混成のバトル系種目、車椅子ラグビーは重度障害者スポーツ!?
- 第5回 車椅子バスケはリオパラリンピックで世界に挑む