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男女混成のバトル系種目、車椅子ラグビーは重度障害者スポーツ!?

公開日:2016.06.24 更新日:2021.08.23

車椅子がぶっ壊れるほどの激しさ


池崎選手は日本代表チームの攻撃の要。相手選手たちの僅かな隙を狙う。

ガッ、ガーンッ。
重たい金属音で体育館の空気が振動します。フレームやタイヤカバーがデコボコになったスポーツ用車椅子が全力疾走で正面衝突! ウィルチェアーラグビーを初めて目にした人は、その激しさに驚きます。
 
今年5月に開催された2016ジャパンパラ ウィルチェアーラグビー競技大会では日本代表チームと招待されたアメリカ、イギリス、オーストリアの代表チームが対戦しました。各国ともリオパラリンピック開催直前のテストマッチとして、世界の強豪チームがガチンコ対決!
ですから、試合のほうは世界級のド迫力です。ボールを抱えた選手に相手チームの車椅子が真横からぶつかります。吹き飛ばされそうになった相手は、上半身をひねるようにしながら強引にバランスをとり、そのまま逃げ切ろうと走り出しました。タックルとは別のサイドで集団で押し合う選手たちは、見慣れたラグビーでのスクラムのようです。とにかく車椅子がぶつかり合う音が凄くて、すぐ横で車椅子が衝突したときは思わず逃げ腰になるほどです。
 
タックルで車椅子が吹き飛ばされて転倒しても、それだって競技のうち。選手たちは平然としています。そのときはチームスタッフが駆け付けて起きあがらせるのがこの競技のルールです。

屈強なラガーマンを女性選手の華麗なチェアワークが翻弄


ウィルチェアーラグビーは男女混合。第一印象とは裏腹に、間口に広いスポーツだ。タックルも受け身姿勢を覚えれば、体験教室でも安全に楽しめる。

イギリスの代表チームには女性選手がいました。なんと、ウィルチェアーラグビーは男女混合のスポーツなのです。Coral Batey選手は22歳。小柄ですが、屈強な男子選手たちに混じって出場していました。相手チームは女性だからといって遠慮しませんし、むしろ彼女の方が激しくタックルを仕掛けていたほどです。彼女は元車椅子バスケットボール選手ですが、ボーイフレンドのお父さんに誘われてウィルチェアーラグビーを始めました。そして1年後、バスケで鍛え上げた素早い車椅子のハンドリングが評価され、最年少でイギリス代表に選ばれました。リオ大会がパラリンピックの初挑戦です。
 
普通はラグビーと聞いただけで、怪我をするのではないかと尻込みしてしまいます。それもウィルチェアーラグビーは、車椅子のフレームがゆがむほどの激しい競技です。そこで活躍する女性選手って、かっこいいですね。

上肢のない腕をバット代わり


切断面をテーピングで保護したうえで、アグレッシブにその身体を使う選手たち。

ところで、この競技は、四肢麻痺者などの重い障害のある人が参加できるチーム競技として誕生しました。タックルの激しさとは裏腹に、同じ室内競技の車椅子バスケットボールよりも多様な障害の人が参加できます。
 
海外チームには上肢が切断された選手がいました。片手でパスを受け取ると、手首がない側の腕を野球のバットのように使ってボールを打ち飛ばし、長距離パスを出していました。そして切断面で猛烈に車輪のハンドリムをプッシュして、速攻を仕掛けます。障害受容どころか、「身体のどこかがないのはもう関係ない」と言わんばかりの吹っ切れたプレーは大迫力です。

頸損選手のアイシングはトレーナーの重要な仕事


障害によって体温調整がしにくい選手が多いので、首に保冷剤を入れてアイシングしている。様々な障害特性に配慮することは障害者スポーツのどの種目でも大切なこと。

この競技には頸髄損傷などによる四肢麻痺(Quadriplegia)の人が多く参加しています。以前はクアドラグビーと呼ばれていたほどです。この障害特性として、体温調整が難しいので、選手はベンチに下がると頸部をアイシングしています。これは理学療法士や柔道整復師のチームトレーナーの仕事です。ベンチに設置してある大型扇風機も選手の体温を下げるためのものです。

複雑なルールゆえに、チーム戦略が勝敗を左右する

ウィルチェアーラグビーはコートに出られる4人対4人でプレーし、1チーム合計12名です。各選手には障害が軽いほど高い3.5~0.5の持ち点が与えられます。そしてプレーする4人の合計点が8点以内に制限されています。また4名のなかに女子選手が1名増えるごと、制限に0.5点が加算されます。女子4名だと10点以内になるので、男子のみの時よりも障害の軽い選手が出場できます。イギリス代表チームには、Coral Bateyがいるので、持ち点8.5までOKです。
 
コートの広さはバスケと同じ15m×28m。そしてサッカーゴールのように幅8mのゴールラインが設定され、ボールを保持したま、車椅子の車輪が通過すると1点です。バックパスは禁止。オフェンスがボールを持ってから12秒以内にセンターラインを通過して、40秒以内にゴールできなければ、ボールの所有権が相手チームにわたり、攻守交代(ターンオーバー)です。そのため、4人でどのように攻めるか、また相手からターンオーバーを奪うのか、その戦略がとても重要です。

リオで絶対に勝つ!!

昨年末の最終予選でリオパラリンピックの出場権を確保した日本は世界ランキング3位。日本代表メンバーも決まり、メダル獲得への期待が高まっています。
 
強豪チームと対戦したジャパンパラ大会で攻撃の主力選手である池崎大輔選手は、「勝負はここじゃない。リオだ」「フィジカルで日本に勝るアメリカ戦での勝利は自信につながりました。世界一に向けて挑戦します」と力強く話していました。
 


ホイールが浮き上がるほど激しいタックル。ロンドン4位の雪辱はリオで果たせるか。

同じくキャプテンの池透暢選手は「パラリンピックの本番では何が起きるかわからない。スキルだけでなく、ハートも強くなければ、強豪国のハイプレッシャーのなかで勝ち抜けないだろう」と勝つための準備を続けるようにトレーニングしています。ヘッドコーチの荻野晃一さんは「選手たちは僕の求めたことに応えてくれました」とチームの成長を評価していました。車椅子ラグビーはチーム競技のなかではもっともメダルに近いとも言われており、リオ大会では彼らの活躍に注目です。
 
試合が終了してコートから引き上げる選手たちを待ちかまえるスタッフがいます。そしてあらかじめ決めていた選手を見つけると呼び止めました。ドーピング検査です。
競技性がとても高くなった障害者スポーツでは、健常者の競技と同じドーピングコントロールが実施されています。運動機能障害と内部疾患が合併している選手は常時、薬を服用することで症状をコントロールしています。そのため、ドーピング検査対策が健常者選手のそれよりも複雑になるため、各競技団体では研修会を繰り返しています。

安藤啓一(あんどう けいいち)

安藤啓一(あんどう けいいち)

福祉ジャーナリスト。大学在学中からフリー記者として活動を始める。1996年アトランタパラリンピックをきっかけに障害者スポーツの取材をはじめる。夏冬パラリンピックや国内大会を多数取材。パラリンピック関係者に読み継がれている障害者スポーツマガジン「アクティブジャパン」「パラリンピックマガジン」記者などを経験。日本障がい者スポーツ協会発行誌『No Limit』などの媒体にも寄稿している。取材活動のほかチェアスキー教室講師としてもスポーツに取り組んできた。共著に「みんなで楽しむ!障害者スポーツ」(学習研究社)がある。

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