介護問題に対応する「地域包括ケア病棟」と理学療法士の役割とは
公開日:2016.01.11 更新日:2016.02.01
2014年4月に新設された「地域包括ケア病棟」は、高齢化社会における医療と介護を複合化した体制づくりを目指す「地域包括ケアシステム」の要です。その運営内容は地域によって多様化しており、課題も少なくありません。リハビリを充実させることにより在宅への復帰を円滑にする地域包括ケア病棟で、理学療法士は何を求められているのでしょうか。ケア病棟に関わる理学療法士の役割についてお伝えします。
地域包括ケア病棟とは
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて、新しい医療・介護体制を作るために設定された「地域包括ケアシステム」。そのなかでも重要な位置を占めるのが、2014年に開始された「地域包括ケア病棟」です。
通常の入院治療に加え、在宅医療への転換、急性期病棟からの転入と総合的に対応できる地域の医療機関として整備が進められています。同時に機能回復やリハビリを通しての悪化予防など、在宅へ復帰するためのサポートを担う複合的な施設としての活用が期待されます。
地域包括ケア病棟で理学療法士が求められる役割
在宅復帰時、生活に馴染めない多くの患者さんを受け入れるのが、地域包括ケア病棟の役割のひとつです。在宅復帰をサポートする際に、より効果的で効率のよい理学療法を提供することが求められるようになりました。そこで各病院の主導によって病棟専属の理学療法士が配置され、より充実した個別対応が進められています。
これまでリハビリテーション科を中心に指導を行ってきた理学療法士がケア病棟の専従となることで、さらに医師や看護師と情報を共有しやすい環境に変わります。例えば理学療法士が患者さんの夜中の容態や普段の体調を把握し、「ベッドから起き上がる」などの日常動作をチェックすることで、さらに効果的なリハビリを行うことができるでしょう。
また夜間や休日など人手が不足している状況においても、患者さんに合わせた最も効率の良い姿勢保持の方法や移動の補助サポートを提案することで、他職種の効率も高まります。個別の対応が可能になるため、退院後の自宅療養を想定したリハビリを構成することもできます。そうした細やかな心がけが、患者さんの早期在宅復帰に役立つでしょう。
地域包括ケア病棟の運営に残された課題
地域包括ケア病棟として注目されているのが東京の荏原病院です。すでにチーム医療の態勢も整った環境であり、地域での活動が進められています。しかし、その運営方法にはまだまだ課題が存在するようです。診療報酬の包括化が進み、リハビリの提供単位を増やせば増やすほど病院経営を圧迫してしまうという状況があります。
病院ではリハビリについて、1日あたり2単位以上を維持するために人員を増やしたいところ。しかしそうすると、まるめ医療による影響で経営面が苦しくなります。結局、少ないスタッフで限界までリハビリ単位を増やすという苦しい状況でありながら、増大する患者さんのニーズに応える必要が出てくることに。結果的には、理学療法士がどんなにギリギリまで取り組んでも、評価につながりにくい状況になってしまうのです。
こうした運営面での課題は理学療法士の働き方に大きく影響します。荏原病院に限らず、包括ケアへ積極的に取り組んでいく病院には切実な問題となるでしょう。
地域包括ケア病棟でリハビリ意識を浸透させる
病院や病棟内でリハビリに対する理解が浸透していないことも、運営上の課題として挙げられます。理学療法士が行っているリハビリの意図が病院全体に理解されない限り、患者さんの回復に時間がかかってしまうこともあるでしょう。また、リハビリそのものの重要性が他職種にまで理解されていなければ、理学療法士の人手不足を補うための対応策も進みません。
こうした状況を改善するには、一般病棟の看護師をはじめ、他職種のスタッフにも理学療法の必要性を強く訴えていくことが重要です。荏原病院では病棟スタッフに向けて定期的な勉強会を行ったり、病棟でのリハビリに同席してもらい、介助のコツや注意点などを伝えたりと、積極的な周知に取り組んでいます。対外的には区で理学療法士の会をつくり、地域の需要を吸い上げるという試みも行い、さまざまな角度でリハビリ意識を浸透させる動きを高めているそうです。
多様化する理学療法士のスキル
地域包括ケア病棟がスタートし、理学療法士に求められるスキルも多様化しています。「治す」から「支える」ための理学療法にまで拡大し、それに伴って理学療法士自身のスキルアップも求められているのが現状です。患者さんの疾患の種類は増える一方で、合併症を抱える人も少なくありません。より幅広い知識を身につけ、リハビリ以外の活動にも柔軟に対応できる理学療法士として、活躍の幅を広げていきましょう。
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