理学療法士が悩みやすい苦手な患者さんの特徴と対処法
公開日:2020.11.25 更新日:2023.09.11
文:大久保ゆうこ(おおくぼゆうこ)
臨床心理士 公認心理師 精神保健福祉士 米国NTI認定栄養コンサルタント
リハビリに来られる患者さんには、さまざまなタイプの人がいます。なかには、こちらの声掛けに対して常にネガティブな反応をし、ちょっとしたことでイライラするようなタイプの患者さんもいらっしゃるかもしれません。「どうすれば穏便に対応できるのかがわからない」と感じているセラピストも多いのではないでしょうか。今回はイライラしやすく気難しい人を「気難し屋さん」と呼び、その特徴と関わり方を解説します。
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苦手な患者「気難し屋さん」の性格特徴
「気難し屋さん」とはどのような人でしょうか。ここでは、典型的な気難し屋さんの特徴をまとめてみました。
・疑り深く、表情が硬い。
・いかにもプライドが高そう。
・理屈っぽい。
・不意打ちを極度に嫌う。
・こちらの意見には、基本的に同意しない。(人によっては鼻で笑ったり、ぼそっと嫌みを言ったりする)
・ちょっとしたことで怒り出し、自分の正しさを訴える。
思い当たるタイプの人を見かけたことはあるでしょうか。もしかしたら、この特徴を見るだけでもうんざりするかもしれません。しかし、気難し屋さんがこのような態度をとるのには理由があります。
「気難し屋さん」の態度の正体は、実は、とても臆病な気持ちの裏返し。まるで世界中の人が自分の命を狙っているかのごとく、内面ではおびえて、あらゆる人やものを警戒しています。
警戒心が強いだけに、不意打ちをされたら大パニックを起こし、上記のような対応をとってしまうのです。
例えば、気難し屋さんに対して、誰かが声をかける代わりに軽く肩を叩いたとします。一般的によく見かける親しげな行為であり、悪意はありません。しかし気難し屋さんは、あたかも銃口を突きつけられたかのような恐れに陥ります。驚きと恐怖のあまり、突然「なにするんだ!」と怒鳴ってしまうというわけです。
他人の意見をすぐに否定するのも、クレームを言って相手を訴えたくなるのも、こうした心の働きと同じような行為であり、常におびえていて警戒心がとても高いことによる反応です。
苦手な患者「気難し屋さん」への対処方法
ちょっとしたことで大爆発してしまう気難し屋さん。その対処法としては大きく2つのポイントがあります。それは「地雷を踏まないこと」と、「好みのコミュニケーションパターンで関わること」です。
地雷になりやすいジョークと不意打ち、行動の指摘を避ける
気難し屋さんにとって、ジョークと不意打ち、そして行動面の指摘は「地雷」にあたります。
ジョークは、自分自身を馬鹿にされたかのように受け取ってしまうことがあり、不意打ちは上述したように、恐怖によるパニックを引き起こす可能性があります。また、行動面の指摘も「あなたは間違っているよ」というメッセージとして受け取ってしまうため、気難し屋さんの怒りスイッチを押すことになるでしょう。
特に、セラピストにとって、体に触れることが多いリハビリの時間は地雷だらけ。治療のために体に触れたとしても、タイミングが悪ければ、気難し屋さんにとっては“不意打ち”になってしまいます。そのほか、セラピストがなにげなく「腕を動かしてください(行動面の指摘)」といった発言するだけで、「腕を動かさないあなたは間違っている」と言われたと勘違いして、へそを曲げることも考えられます。
気難し屋さんが少しでも心地よくいるためには、まず声かけを行うことが大切です。体に触れる前に、「触りますよ」「次は腰にいきますね」と、声かけによるお断りを入れてからリハを進めるとよいでしょう。
行動面に働きかけるときには「協力していただきたいのですが、いいですか?」と一声かけること。「いいよ」の返事をもらってから「腕を上げてください」などとお願いすると「責められているのではなく、セラピストが協力してもらいたいんだな」と受け取り、不快にならずに対応してくれます。
論理的なコミュニケーションパターンで、気持ちを理解する。
気難し屋さんが好むコミュニケーションパターンは、論理的なやりとりです。これから何をするのか、なぜこのリハビリが必要なのかなど、論理的な説明を受けると、気難し屋さんも安心しやすくなります。
はじめはこちらの言葉に対しても「くだらん!」などと反発する人もいるかもしれませんが、「恐怖感で、不安があるんだな」と理解し、聞き流しましょう。批判的な意見が出た場合にはできるだけ否定せず、「そう思われるんですね」と、気持ちを汲み取りながら、本人が納得できるような説明を重ねるのがポイントです。そのうち、徐々に心を開いてくれるようになり、本人の警戒心が緩めば表情も変わります。論理的な説明と粘り強い共感で、自然なやり取りができるよう接してみましょう。
限界設定を決めておく
ひとえに「気難し屋さん」といっても、そのタイプはさまざまです。ときどき気難しくなるだけの「軽い気難し屋さん」もいれば、どう関わっていいかわからないくらい「強い気難し屋さん」もいるでしょう。場合によっては「院長をだせ!」「責任を取れ!」などと過度な要求を訴える人もいます。もちろん、こうした要求を通すことは、職場の立場としてだけではなく、患者さん本人にとってもメリットはありません。過度な要求やクレームが入った場合には、1人でなんとかしようとせず、早めに周囲の人に相談するようにしましょう。
苦手な患者さんの対応は、1人でがんばらないこと
気難し屋さんは、プライドが高くて面倒な人だと思われがちですが、実は内心とても臆病な人。関わり方次第で落ち着いてもらえることも多いです。しかしながら、誰が対応しても困難な人もいます。まずはできる範囲で試してみて、対応が難しい場合には上司や仲間に相談し、チームとしての対応を考えてみましょう。上手くいかなくても自分を責める必要はありません。つらいときは自分のケアも大切にしてくださいね。
【出典・参照】
- 人格適応論活用の実際(こちらの「パラノイド型」の説明)
- 交流分析による人格適応論(上記と同様「パラノイド型」について本からの参照)※交流分析について…人格適応論に基づいた心理テストで、理論としては医療機関でも使用されるほど認められています。
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