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廃用症候群とは?作業療法士が症状や原因をわかりやすく紹介

公開日:2023.08.11 更新日:2023.12.20

廃用症候群のリハビリテーション ~作業療法士が個別性のあるリハビリを考えるときの視点を紹介~

文:牛玖恵梨子(作業療法士)

廃用症候群は、脳血管疾患や骨折などの病気・ケガ以外にも、自然災害による避難生活、先のコロナ禍など、生活が不活発になることでだれにでも起こり得る二次的な障害です。
今回は、廃用症候群の知識を確認するとともに、個別性のあるリハビリの視点についても考えていきます。

廃用症候群とは

廃用症候群は「脱調整」ともいわれ、「身体の不活動状態により生じる二次的障害」と定義されています。動かなくなる不動や運動量が少ない低運動、寝たきりなどを原因とした全身に現れるさまざまな症状の総称です。「生活不活発病」と呼ばれることもあります。

廃用症候群の要因

廃用症候群のリハビリテーション ~作業療法士が個別性のあるリハビリを考えるときの視点を紹介~

廃用症候群は、内的要因と外的要因があります。

①内的要因

何らかの病気によって身体症状や精神症状が起こり、それにより不動が続いた場合を、内的要因といいます。
例として、脳血管疾患による片麻痺、骨折による疼痛、慢性閉塞性肺疾患(COPD)による息切れ、うつ病による意欲・行動力の低下などが挙げられます。

②外的要因

外部環境の影響によって身体活動に制限が起こった場合を外的要因といいます。
例として、骨折後のギプス固定、医師の指示による長期安静臥床(寝たきり状態)、介助者不在による寝たきり、コロナ禍での行動制限などが挙げられます。

廃用症候群の症候

廃用症候群になると、筋骨格系、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、精神神経系にさまざまな症状が現れます。

①筋骨格系

・筋力低下と筋萎縮
姿勢の保持や歩行時に作用する抗重力筋に起こりやすいといわれています。
寝たきりの状態(絶対安静)では、初期に1日で約1~3%、1週間で10~15%、3~5週間で約50%の割合で筋力が低下するといわれています。
・骨萎縮
骨萎縮は、骨組織が減少している状態です。骨密度が低下する、いわゆる「骨がスカスカ」の状態を示します。動かないと骨吸収が促進され骨萎縮が生じるといわれています。
また、骨量減少を誘発する低栄養やステロイド治療などがある場合、骨萎縮が進行しやすいといわれています。
・関節拘縮
関節周囲の軟部組織が変性して、関節可動域が制限されます。

②循環器系

・運動耐容能の低下
運動耐容能とは、その人がどれくらいまでの運動に耐えられるかの限界を指します。運動にはたくさんの種類がありますが、運動耐容能は全身を用いた持久的な運動を示します。
全身の持久的運動を行う際、スピードが徐々に速くなると身体が取り入れる酸素の量も多くなり、やがて限界に達します。そのときのスピードや最大酸素摂取量がその人の運動耐容能です。
運動耐容能が低下している人では、脱力感や疲れやすさ、息切れが出やすくなります。また、長期臥床によって下肢筋の機能が低下すると、最大酸素摂取量が低下するといわれています。
・起立性低血圧
動かないと循環血液量が低下し、血管運動調節機能障害や心筋機能が低下することで、立ち上がった際に、意識が遠のく、めまい、場合によっては失神症状を引き起こすといわれています。
・静脈血栓
動かなくなると、下肢の筋肉群が収縮・弛緩することで起こる筋ポンプ作用が減ります。すると、血流の停滞や循環血漿量の減少による血液凝固能が高まり、静脈血栓が生じやすくなります。

③呼吸器系

・換気障害
肺・気管支系で起こる空気の出し入れの障害を換気障害といいます。動かなくなると呼吸筋の筋力が低下して換気障害になります。
・沈下性肺炎
長期臥床によって肺の背面に生じるうっ血性の肺炎を、沈下性肺炎といいます。臥位では横隔膜の動きが制限され、気道に分泌物が貯留することで無気肺になりやすく、さらに細菌感染が併発することでさまざまな病態が現れます。これは「臥床性肺炎」ともいわれています。

④消化器系

・体重減少と便秘
腸管の蠕動運動の低下と括約筋の収縮が増大して栄養吸収率が低下するため、体重減少や便秘が生じます。
・食欲低下と低栄養
臥位では食物の通過時間が長くなるので、食欲が低下したり食事量が減ったりし、その結果、低栄養になります。

⑤泌尿器系

・尿管結石
動かないと骨吸収が亢進して尿中のカルシウム濃度が上昇します。さらに、臥位だと尿が停滞するうっ滞も起こりやすいため、尿管結石が生じやすくなります。
・尿路感染
膀胱に結石があると粘膜を傷つけ、細菌が繁殖しやすいため尿路感染を起こします。また、長期安静臥床時に使用頻度の高い膀胱留置カテーテルも、尿路感染にかかりやすくなります。

⑥精神神経系

・うつや認知症
寝たきりなどになると、身体活動や外部からの刺激が減り、脳機能が低下しやすくなります。その結果、意欲や集中力の低下、感覚鈍麻、うつになり、認知症になりやすくなります。
・見当識障害や睡眠覚醒リズムの障害
長期臥床では、時間や場所、時間的な手がかりが得られにくくなるため、失見当識や睡眠覚醒リズムの障害が起こりやすくなります。

廃用症候群の診断

廃用症候群のリハビリテーション ~作業療法士が個別性のあるリハビリを考えるときの視点を紹介~

廃用症候群には決まった診断基準はありません。
ただし、急性疾患などが原因で安静になる必要があり廃用症候群となった患者さんで、一定程度以上の基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力、日常生活能力の低下がある場合に、個別療法であるリハビリテーションを行うと「廃用症候群リハビリテーション料」を算定できます。
廃用症候群リハビリテーション料を算定するにあたり、毎月の評価時に使用される「廃用症候群に係る評価表」では、廃用をもたらすに至った要因、臥床・活動性低下の期間、廃用に陥る前のADL(日常生活動作)、廃用の内容などを記載する必要があります。

>>厚生労働省「廃用症候群に係る評価表」

廃用症候群は予防が一番大切

廃用症候群には、先に述べたように、ギプス固定、安静の指示、介助者の不在などによって起こる外的要因のものがあります。私は廃用症候群の予防として、まずその外的要因を排除することに注力しています。

とくに、ケアを行う側が無知であることも廃用症候群の外的要因になってしまうため、自分も含め、多職種や患者本人・ご家族にも正しい知識と技術を身につけてもらえるよう、アプローチします。
例えば、ケアする側が介助し過ぎて動かさないようにしたり、逆に介助が足りずにできるはずのことができない場合など、患者さん個々の能力に合わせた介助方法を習得してもらいます。

廃用症候群の予防に効くプログラムとは

持論ですが、廃用症候群を予防するために、「このプログラムがいい」というものは存在しないと考えています。
全身運動による運動耐容能の向上を目的に、棒体操やヨガ、ストレッチなど、多くの体操が紹介されますが、そのなかには長続きをしないものも多いため、私は趣味活動を増やすことをおすすめしています。
趣味がない方には、日常生活の場面のなかで「1アクションを増やす」指導をしたり、楽しみにつながる活動を見つけられるようにしています。

例えば、イスに座ってテレビを見ているときに、「コマーシャル中はモップで届く範囲を拭いてもらう」「トイレに行くついでにペットの餌やりや植物に水をあげてもらう」など、1つ動作を増やすのです。
そこにプラスして、「個別リハビリで30分散歩をする」「家族と買い物へ行く」「デイサービスへ通う」など、患者さんの体力に応じて週1~2回の「お出かけ」が習慣化されていれば十分だと判断しています。

廃用症候群のリハビリテーション

脳血管疾患による片麻痺など、疾患が原因の内的要因による廃用症候群の場合、各疾患のリハビリテーションと並行して行われるため、リスク管理も含めて、流れは一般的なリハビリと同様です。
ただし、私は評価のときに必ず栄養状態と飲水量の確認を行います。
一度廃用症候群になってしまうと、元の状態に回復するまでに時間と労力を費やします。なかには、筋力強化や歩行訓練を行ってもどんどん廃用が進行してしまうこともあります。

低栄養の状態だと、人の身体は代謝を下げてタンパク質の崩壊を防ごうとします。しかし、筋力トレーニングなどのストレスが加わると、身体は肝臓で糖をつくって血糖を維持しようとします。その結果、代謝が上がってしまい筋力量が保てなくなるのです。

そのため、運動を選択する際には、訓練で消費されるエネルギー量や摂取エネルギー量などを考慮したうえで、最初はベッドサイドでは1.1~1.5METs(安静座位や安静立位)、訓練室では2~4METs(ゆっくりした歩行、ラジオ体操第1、自重での軽い筋力トレーニング)を目安に運動を選択しましょう。
(METsとは運動強度の単位で、安静時を1としたときと比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの)。

また、セラピストだけでの介入には限界もあるため、多職種連携が図れる場合、管理栄養士や看護・介護職、医学的管理が必要な場合は医師と相談しながら、どの程度の運動強度が適しているかを決め、各職種で役割を分担して介入するとよいでしょう。

とくに患者さんが疲れやすさを訴える場合、短時間で介入する回数を増やすことも検討しましょう。1日のなかで最も元気な時間に個別リハビリを行い、翌日に疲労や筋肉痛が残ることのないように運動の種類や強度、時間を設定し、スモールステップで進めていきましょう。

>>国立健康・栄養研究所「改訂版身体活動のメッツ(METs)表」

無理なリハビリはやめ、あくまでも楽しくやりましょう

廃用症候群は正しい知識と予防が大切です。廃用症候群の患者さんは疲れやすく、精神的にも落ち込みやすいため、無理なリハビリプログラムの提案は禁物です。楽しく負担に感じない運動や活動を、患者さんとご家族と一緒に探りながら行うとよいでしょう。
状態にもよりますが、座位で楽しく会話をする(1.5METs)だけでも効果が期待できます。

■関連記事
廃用症候群予防の基礎知識
廃用症候群のリハビリって?プログラム内容を施設種類別に解説

牛玖 恵梨子

牛玖 恵梨子

作業療法士、児童指導員ほか。
養成校卒業後、病院勤務を経て福祉心理学系の大学へ編入。卒業後は伊豆七島にある三宅島や都内、千葉県内で働く。
趣味は旅と読書、そしてビールを飲むこと。趣味と作業療法の経験を活かし、医療や福祉をテーマにした執筆や書籍などの編集も行っている。

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