こんな道もある!セラピストの仕事「運動×栄養で気軽に集まったり相談したりできる場を」
公開日:2023.09.25
文:北原 南海
セラピストの仕事の一般的なイメージは、医療機関に勤め、ステップアップしていく形が多い。その一方で生活期のリハビリや、作業療法士は発達障害ほか精神障害の領域など、活躍の場が広がりつつある。そこで、「こんな道もある」をテーマに特徴的な業務についている人、仕事をしている人にインタビューを行った。
今回は理学療法士で株式会社NITTA JAPAN代表取締役、スタジオ&カフェBALENA代表を務める新田さんに話を伺った。
目次
今回インタビューした人
新田 智裕(にった ともひろ)さん
理学療法士。株式会社NITTA JAPAN代表取締役。スタジオ&カフェBALENA代表。神奈川県川崎市生まれ。横浜リハビリテーション専門学校を卒業後、医療法人社団博慈会青葉さわい病院に13年間勤務。その後、2020年1月にStudio & Cafe BALENAを設立。介護保険事業に加えて保険外サービスへと事業を広げている。妻、4児の6人家族。
趣味はバイク。また、カードゲームも「こんなふうに事業をしたら面白いかも、とシミュレーションしたりするのに役立っているのかもしれません」と自己分析する。
株式会社NITTA JAPANの理学療法士と管理栄養士の構成は、2023年8月現在、前者が常勤4名、非常勤2名。後者が常勤2名、非常勤4名。
「行けば悩みが解決できるかも」に応えたい
「デイサービスなんか行きたくない」という高齢者も少なくない。そんな人たちでも通いやすいデイサービスを、と理学療法士と管理栄養士のコラボで運動と食事を組み合わせた、楽しく介護予防・重度化防止をコンセプトとした「スタジオ&カフェBALENA」を横浜市青葉区で経営する新田智裕さん。「BALENA」はイタリア語でクジラのことで、哺乳類の中では最も長生きといわれる動物。ともに長い人生を充実していこうという思いが込められている。
「『BALENAに行けば悩みが解決するかもしれない』、と気軽に足を運んでもらえる場所にしたいですし、みんながバリアフリーで楽しくまじりあい元気になれる場をつくりたい」。そう話す新田さん。そのためのサービスやしかけを、理学療法士と管理栄養士の特性を活かして、介護保険制度である通所介護の時間以外を活用し、世代を問わず、保険外サービスでも広げてきた。
デイの合間を利用した自費リハビリ整体サービス、足に関する講座、シューズ販売、栄養相談、各種体操教室、体操・栄養の動画配信とその活用など。動画活用には、他世代と比べスマホやインターネット利用にハードルを感じる人が多い高齢世代に対して、使い方のレクチャーなども含めてデジタルデバイド解消に役立つ一助に、という思いもある。
「デイなんか行きたくない」人でも来やすく
新田さんは専門学校を卒業後、青葉さわい病院に13年間勤務した。そしてリハビリで実績を積むなかで、入院から在宅へ戻った高齢者のフォローや予防的取り組みが必要と感じるようになった。また、退院2週間後に倒れてしまったケースにも当たった。家で食事をしっかり摂れていなかったのだ。それを機に、運動に加え、栄養も大切だと考えるようになった。
その後しばらくして通院患者として出会ったのが、管理栄養士で関東学院大学教授の田中弥生さん。意気投合して「デイサービスをいっしょに立ち上げましょう」となった。青葉さわい病院の理事長、澤井崇博院長も賛同・応援してくれた。
始めたデイサービスは、先述のとおりのコンセプトで、動画も使ってしっかり体を動かした後に、エネルギー多めながらカフェ風の食事を楽しむスタイル。フローリングのスタジオにハワイなどの飾り。デイとわかる看板もない。「デイは嫌でも来やすく」、はたまプラーザ、あざみ野の土地柄なども踏まえての田中さんのアイデアだった。
食事は、エネルギー量を「日本人の食摂取基準」(2020年版)より少し多めに設定し、1カ月ごとにテーマも設ける。例えば「フレイル予防月間」。「『国産ポークのやわらかソテー~夏野菜たっぷりラタトゥイユを添えて』のようなメニューでタンパク質をしっかり摂り、併せて筋肉のより効率的な合成を念頭に、タンパク質の代謝の補酵素としてのビタミン類や、ミネラルも含む野菜も一緒に摂ります」。
そしてその期間は運動も、しっかりと筋肉を養うことを踏まえたものに。「人は年を重ねると、フレイルが進行して下肢の筋肉量や筋力が落ちるなどサルコペニアになりやすくなり、転倒時に上手に床や支持物を把持できずに骨折につながったりします。そこで、下肢の筋力をスクワットで養ったり、上肢で体重を支える練習を四つ這いの姿勢でしたり、自重で負荷をかけて筋力を養う運動を意識して展開します」。
《デイサービスでの体操は、身体状況をチェック・助言しながら実施。まず、スタッフが制作した体操の動画を見ながら全体で行い、次に休憩を挟んで小グループにわかれてセミパーソナルスタイルで行う》
セルフケアと社会参加を大切に
デイ「スタジオカフェBALENA」では、機能訓練にトレーニングマシンを使っていない。それは、継続性と家でもできるように、という新田さんなりの考えから。デイサービスに来るのは週1~3回という利用者が多い。となると、継続して家でも取り組んでもらうことが大事。そのために、家でもやりやすいスタイルに、と考えている。体操動画の制作も、そのことは狙いの一つ。そのうえで新田さんはこう話す。「コミュニケーションが大切です。お体に触れながら、『こうするとさらによくなりますよ』『ここよくなっていますね』、とお声掛けを大切にしています。すると、見てもらえていると感じていただける。そして成果が感じられるとみなさん、モチベーションも上がるんですよね」。
そして、「送迎車の乗り降りが一人でできるようになった」「自転車で近所へ買い物に行けるようになった」「地域の老人クラブに出られるようになった」「ゴルフを再開できた」など具体的に表れた成果の声を聞く。行動、社会参加が広がると、生活もより楽しくなる。
デイの利用ルートは様々だが、以前の職場、青葉さわい病院とのつながりも活きる。6カ月のリハビリ期間を過ぎたものの引き続きメンテナンスが必要な患者について相談を受け、機能訓練継続を目的にデイの利用につながったり、自費リハビリにつながることも。自費リハビリは病院以外からのルートも多く年齢、性別も様々で、月延べ約160人の利用がある。
保険外サービスで事業を広げる
新田さんは先述の「気軽に相談に来れる場に」という目的から、保険外サービスも、直接収入に結び付くもとからそうでないものまで積極的に展開している。
例えば「足の悩み相談室」は、世代に関係なく参加できる、足の健康に関するレクチャーと個別相談を合わせたイベント。参加は無料ながら、同社が行うシューズ販売や有料のインソール調整などにつながるケースもある。シューズ販売はアシックス商事と販売契約を結んでのもので、問屋機能も持ち、整形クリニックなどへの卸業務も行う。また、アシックス商事と連携し、理学療法士をはじめとするコメディカルスタッフを対象とした、足・靴に関するセミナーの講師を務めたりもする。
動画制作と配信にも力を入れる。Youtubeに「バレーナチャンネル」を開設、高齢者向けに比重を置いた内容で、「認知症予防脳トレデュアルタスク体操」「めまい・ふらつき予防体操」などテーマを設定した体操や、「筋肉と栄養」といった栄養講座などの動画を配信。これらを使って地域でイベントなどを行っており、(株)白寿生科学研究所ほかいくつかの企業からも体操講座などで採用されたり、体操講座のインストラクターを務めたりしている。
事業を多角化するうえで難しかったことを聞くと、「ずっと病院で働いてきたこともあって、自分たちの商品の値付けしてこなかったので、自分たちの商品にどれくらいの価値があっていくら付けるか、それを覚えるのに3年かかりました。自分の場合はまず動き出して、実践の中で学びました」と新田さん。
《youtubeでの「バレーナチャンネル」に逐次、体操や栄養などの動画をアップ中。写真は視聴者から質問の多かったスクワットの適切な動作についてレクチャーする動画。》
コミュニティづくりとビジネスを組み合わせる
ほかにも、地域の高齢者サロンなどでの体操教室、デイサービス開設のサポート、管理栄養士向けの食事付座談会、神奈川県栄養士会と連携しての一般向けの栄養講座、外部の言語聴覚士と連携しての失語症カフェ、誰でも参加できる「BALENAカフェ」など多彩だ。モチベーションはどこから来るのだろうか。「自分には、じつは名声を得たい、という欲はそれほどないんですよ。みんなに喜んでもらうと嬉しい。家族、利用者さん、スタッフ。良い状態を継続しているという声を聞くとやりがいを感じます。両親は会社員と専業主婦でしたが、実家が学校の近くで近所の人たちのたまり場。いろんな人たちと接することが多くて、その影響もあるかもしれません」。
今後の課題についてはこう話す。「この間、事業の中でやるべき作業が増えてきたので、選択と集中の段階に来ていると考えています。デイも、チャットなどでスタッフ間の情報共有を強化し、特定の者以外でも判断できる幅を広げ、現場をまわせるようにしました」。
そして、栄養アセスメント加算、栄養改善加算の算定など介護保険サービスで強みを発揮できている栄養・食事面の保険外サービスも含め、事業を拡げていきたいと考えている。
《地域の人々を対象としたオープンカフェイベント。そのほかにも、プロの写真家を招いての親子写真撮影など、食と運動を基盤に地域の人々が気軽に足を運んでもらえ、つながるきっかけになるような場づくりも行っている。》
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーの編集者兼ライターに。編集者としては教材や単行本など各種出版物の制作、ライターとしては介護施設・サービス、認知症や食事・栄養、リハビリに関する取り組み、外国人スタッフの採用・定着・定住に関することなどについて、新聞や雑誌などで取材・執筆に従事している。
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