SLRとは?リハビリの現場で使用される目的や方法について解説
公開日:2023.12.04 更新日:2024.01.30
文:rana(理学療法士)
「SLR」は、リハビリの現場でよく使用される言葉の1つです。そのため、ほとんどのセラピストはよく目にしていることでしょう。SLRは、特に下半身の運動や評価において使用されることが多いものの、具体的にどのような目的や意味合いがあるのかを理解しておくことで、より現場で活用しやすくなります。今回はSLRについて、使用される目的や実際の方法などについて現役理学療法士が詳しく解説します。
SLRとは
SLRとは「Straight Leg Raising」の略語で、「下肢伸展挙上」のことです。仰向けで寝た状態から、どちらか片方の下肢を、膝を伸ばしたまま上に挙げる運動を「SLR」と呼びます。自分の力のみで挙上するSLRを「自動SLR」または「active SLR」といい、他者の力によって挙上するSLRを「他動SLR」または「passive SLR」といいます。
SLRはリハビリ現場で広く使用されており、理学療法士だけでなく、作業療法士も実際に使用することの多い手技の1つです。
SLRを実施する目的
多くのセラピストが使用するSLRですが、どのような目的があるのでしょうか。SLRを実施する目的について、「評価」と「運動」に分けて解説します。
「評価」におけるSLR
評価におけるSLRでは、主にハムストリングスの柔軟性や、腰椎椎間板ヘルニアによる神経痛の有無を調べる際に使用されます。具体的には、いずれも他動SLRを行い、挙上可能な角度を測定する方法で行われます。
まず、ハムストリングスの柔軟性を評価する際には、他動SLRがどこの角度まで可能かどうかをチェックします。最終域での抵抗感、ハムストリングスの伸張痛の程度なども評価するとよいでしょう。
また、腰椎椎間板ヘルニアによる神経痛の有無を評価する際のSLRは「ラセーグテスト」とも呼ばれます。具体的な方法はSLRと同じですが、神経根の髄膜が刺激されることで、殿部から足先にかけて神経痛が生じるのが特徴です。70度以下で痛みが生じたら陽性となりますが、ハムストリングスの伸張痛と鑑別して考えることが重要です。
運動療法におけるSLR
運動療法におけるSLRは主に大腿四頭筋や腸腰筋の筋力トレーニング、ハムストリングスのストレッチで使用されます。
筋力トレーニングの場合、基本的には患者さん自身に自動SLRを実施してもらい、大腿四頭筋や腸腰筋の収縮を促します。筋力低下で自動SLRが困難なケースでは、セラピストが軽く補助を加えて自動介助運動として行う場合もあります。
ストレッチの場合は、他動SLRにてハムストリングスが伸張される角度で数十秒静止し、柔軟性を高めていきます。
SLRを実施する際の注意点
リハビリ現場のさまざまな場合で使用されるSLRですが、どのような点に注意すればよいのでしょうか。SLRを実施する際に注意するポイントを3つ紹介します。
無理な伸張を加えない
他動SLRを実施する際は、ハムストリングスの伸張痛や神経痛に注意しましょう。強制的に伸張を加えてしまうと、筋損傷を起こしたり、神経痛が悪化したりする場合があります。患者さんに痛みが強くないかを確認をする、最終域の抵抗感を感じながら行うなど、負担にならない範囲で実施しましょう。
腰痛に注意
SLRによってハムストリングスが伸張されると、骨盤が後傾方向に引っ張られます。すると腰椎や仙腸関節に負荷がかかりやすく、患者さんが腰痛を引き起こしてしまうことも少なくありません。また、自動SLRを実施する場合、筋力が弱いと腰を反らしたり、骨盤を回旋させる代償動作が生じたりしやすいため、腰部へのストレスを強めてしまいます。いずれにせよ、腰痛を招くリスクがあることを理解し、注意しながら実施するようにしましょう。
下肢の痺れに注意
腰椎椎間板ヘルニアがある患者さんの場合、SLRにて神経根の圧迫が強まり、痺れが増強してしまう可能性があります。特に神経症状を訴えている患者さんに実施する際には、痛みや痺れに留意して角度を調整することが大切です。
実際にSLRを使用する場面
SLRは、理学療法士や作業療法士だけでなく、スポーツトレーナーや柔道整復師といった他職種でもよく使用されています。実際にSLRを使用する場面について具体的にまとめました。
ハムストリングスの柔軟性低下が疑われる時
膝の伸展制限や体幹前屈制限があると、ハムストリングスの柔軟性低下が疑われます。そのような機能低下に対して、ハムストリングスを柔らかくする目的でSLRが使用されることが多いでしょう。また、スポーツ前のウォーミングアップで、ハムストリングスのストレッチとしても、SLRが実施されることもあります。
大腿四頭筋の筋力低下を改善させる時
膝や股関節の手術後などで、下肢の筋力低下が生じた場合、筋力を回復させる目的で自動SLRが使用されます。特に、まだ歩くことが困難で、荷重動作ができない時期などには、ベッドサイドでの自動SLRが有効です。SLRは、比較的早期から実施できる大腿四頭筋訓練としても活用されています。
体幹のトレーニングメニューとして
自動SLRを実施する際、下肢の挙上に先行して腹横筋や腹斜筋といった体幹のインナーマッスルが活動します。このような体幹が先行する活動を「予測的姿勢制御」といい、動作でバランスを取る際には欠かせない反応になります。体幹のインナーマッスルを意識しながら、自動SLRを実施すれば、体幹トレーニングとしても有効な運動療法になるでしょう。
目的や方法を押さえてSLRを活用しよう
SLRと一口にいっても、評価、運動とさまざま応用が可能です。そのため、患者さんの病態、使用する目的によって、広く活用することができるでしょう。目的や方法、注意点を押さえながら、有効にSLRを活用してみてはいかがでしょうか。
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rana(理学療法士)
総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。
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