理学療法・作業療法のリハビリ評価とは?効率的な進め方
公開日:2018.06.08 更新日:2023.10.12
文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員
理学療法士や作業療法士といったセラピストにまず要求される能力は、評価であるといえます。評価とは、対象者が「どんな人なのか」「どのような援助を必要としているか」を知る作業です。「どのような援助を必要としているか」を特定するためには、対象者の真の主訴を見定めることが必要です。
具体的には、対象者が何を望んでいるのか、どうなりたいのか、を探ることです。ここを間違えれば対象者の協力も得られず、当然ながら効果も出せません。前回「セラピストの評価において最も重要なこと―『意欲のない人』をどうするか」では、評価は全ての援助の大前提であるということをお話しましたが、今回はセラピストの評価の効率的な進め方についてお話します。
医療・介護過程の展開
図1
図1は医療・介護過程での大きな流れを表しています。PT・OTと介護・看護では、用語の使い方が異なることに気づかれたと思います。
PT・OTでは、実践を除くほぼ全ての過程を評価と捉えます(実践の場面でも評価をしていますので、場合によっては全ての過程といってもよいくらいです)。それに対して介護・看護では、場面によってアセスメントやモニタリングと使い分け、評価は再評価の場面にのみ使用します。やっていることは同じですが、用語の使い方が違うので他職種と仕事をする際には少し注意をしてください。
この表にそって、医療・介護の流れを説明してみたいと思います。
アセスメントは、「初期評価」と言い換えてよいかもしれません。「初期評価」によって得られたニーズ・情報から、介護・看護・リハなどがそれぞれの計画を作成し、この計画にそって日々の援助を実施するわけですが、いくつかの注意点があります。
2. 計画書に記載されている内容は原則として実行される
3. できなかった場合は「実行しなかった理由」を記載する(利用者の体調不良など)
4. 目標を常に意識して日々のケアを行う
1~3は当然のことですが、例えば、短期目標が立位や歩行の獲得で、それに合わせた計画を立てているにもかかわらず、“対象者が高齢で誤嚥性の肺炎によって微熱が続いていてセラピーができない”といった場合は、適切な時期に短期目標や計画を変更する必要があります。肺・呼吸へのアプローチや、嚥下・摂食のためのセラピーなどに速やかに変更できているかどうかなどです。
また、日々のセラピーを実施するうえで、4の「目標を常に意識して日々のケアを行う」はとても重要です。計画だけでなく、短期目標、長期目標、あるいは「セラピストの評価において最も重要なこと―『意欲のない人』をどうするか」で、お話しした対象者の主訴や思い、needを常に意識しながら、日々のセラピーを実施します。それができていれば、私たちの仕事はブレません。迷った時は原点を見直せばよいからです。対象者に対する基本軸をいつも一定に保つことができます。
再評価(モニタリング)では、定期的に実施状況や目標達成度、利用者の満足度などを把握し、目標・計画の見直しを行います。目標達成度と重要な要素の変化をみるためのものなので、評価項目全てをみる必要はありません。
1. 計画通り実施されているか(実施率)
2. 目標は達成できたか、目標達成に近づいているか(目標達成度)
3. 本人の意志は考慮されているか(本人の満足度)
4. 目標は適切だったか
5. 目標達成のための計画は適切だったか
ここでも、3は重要です。1、2が達成されているにもかかわらず本人の満足度が低ければ、最初の目標、あるいはその前の段階であるneedの設定、主訴の把握の段階で間違えている可能性があります。
1~3に不都合があれば、4、5を再考します。
初期評価の進め方
医療・介護過程の全体をみたところで、もう一度初期評価に戻って重要なポイントをお話ししたいと思います。
初期評価はご存じのように、以下のように進められます。
2. ニーズの把握
3. 動作観察・検査
4. 問題点の抽出
5. 仮説・検証
6. 目標設定
しかし、実際にはどうでしょうか。学生や新人セラピスト以外は、1、2が終了した時点で、6を設定する。いわゆるトップダウンの評価を行ってはいないでしょうか。
対象者の主訴、needからダイレクトに目標設定をする
入院中の回復だけを目的にするのではなく、在宅や退院後の対象者の人生に関わるセラピストとしては、さまざまな検査・評価の後で「この対象者はこのくらいの能力を持っているので、目標はこんなものだろう」では困ります。
まず、対象者の願いの実現、目標設定ありきです。そのためには、対象者の機能を上げるだけではなく、さまざまな環境を使い分けて必要なサポートを提供する能力が要求されます。より詳細で深層の対象者の意識を求めることが、対象者の真のneedに近づきます。
例えば、対象者の主訴が「家に帰りたい」であれば、帰りたい家は「どの家」なのか。現在の家なのか、幼少時の家なのか、壮年期の家なのか、落ち着く場所なのか、施設なのか……。あるいは、ずっと帰りたいのか、時々でよいのか、ひと時でよいのか……。本人は「家に帰りたい」と言っているけれども、家族は受け入れを拒否しているような時にはどうするのか。
ADLだけの問題ならば、機能レベルのアップと環境を整えれば可能かもしれませんが、家族の介護能力の問題ならば、デイサービスや訪問介護・看護・リハなどのサービスの導入やショート利用など、本気で頑張っている小規模多機能型居宅介護がひとつあれば問題が解決することもあります。
たとえ施設入所になったとしても、お正月やお盆だけでも帰宅できないだろうか、たった1日でもいいから帰れないか、逆デイサービスはできないか、などを考えます。そこから在宅への道が開けた対象者さんも少なくありません。
また、本人が落ち着けて、ここが自分の居場所と思えるなら施設でもいいわけです。
目的達成のために必要な評価をする
必要だろうと思われる検査を漠然とする評価は、時間や労力の無駄使いです。目標達成のために必要な評価、アプローチにつながる評価を選択して行います。足りなければ後から検証することも可能ですが、これだけで必要な項目を満たしていることがほとんどです。
さまざまな考え方と視点から対象者を観察できて、対象者の主訴と目標設定をダイレクトに結びつける能力がセラピストには要求されます。いつも最善を尽くせるよう努力が必要です。
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福辺 節子 (ふくべ せつこ)
理学療法士・医科学修士・介護支援専門員
一般社会法人白新会 Natural being代表理事
新潟医療福祉大学 非常勤講師
八尾市立障害者総合福祉センター 理事
厚生労働省老健局 参与(介護ロボット開発・普及担当)
一般社団法人 ヘルスケア人材教育協会 理事
大学在学中に事故により左下肢を切断、義足となる。その後、理学療法士の資格を取り、92年よりフリーの理学療法士として地域リハ活動をスタート。「障がいのために訓練や介助がやりにくいと思ったことは一度もない。介護に力は必要ない」が持論。現在、看護・介護・医療職などの専門職に加え、家族など一般の人も対象とした「もう一歩踏み出すための介助セミナー」を各地で開催。講習会・講演会のほか、施設や家庭での介助・リハビリテーション指導も行っている。
<著書>
イラスト・写真でよくわかる 力の要らない介助術/ナツメ社(2020)
生きる力を引き出す!福辺流 奇跡の介助/海竜社(2020)
マンガでわかる 無理をしない介護/誠文堂新光社(2019)
福辺流力と意欲を引き出す介助術/中央法規出版(2017)
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