全ての介助者が使用できる介助術
~福辺流介助術
公開日:2020.01.13 更新日:2021.04.07

文:福辺 節子
理学療法士/医科学修士/介護支援専門員
前回は「この介助は全ての被介助者に使える」というお話をしました。
今回は、「全ての介助者が使用できる」という介助術の特徴について、解説していきたいと思います。
1.なぜ、全ての介助者が利用できるのか
では、なぜこの介助が介助者を問わないのでしょう。
それは、「被介助者に動いてもらう」という、この介助の基本理念になる部分が大きいといえます。
被介助者に動いてもらうことによって、次の2つが可能になります。
■不必要な力がいらない
被介助者に動いてもらうことで、介助者は必要最小限の力で介助することが可能です。
また、等尺性の筋活動がほとんどなので、無理がありません。腰痛を引きおこしやすい脊柱起立筋も「支える」働きがメインなので、急な動きをする必要がないのです。
■安全
この介助では、介助者は絶えず被介助者を感じながら、被介助者の動きに合わせて介助をコントロールします。被介助者の支持基底面、あるいは被介助者と介助者を合わせた基底面を想定しながら、被介助者と介助者自身の体重支持や重心移動をおこなうので、転倒の危険性が下がります。
また、被介助者の意志や動きに合わせて介助するので、被介助者が痛みを感じたりすることもなく、介助に対する拒否もありません。被介助者の皮膚剥離や内出血(青アザ)も防げます。
「被介助者に動いてもらう」介助だからこそ、腰痛や転倒のリスクも少なく、大きな力も必要としません。だからこそ、どんな人にも使える介助術なのです。
2.プロか、プロではないか
介助は、介護職、看護職、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの医療や介護従事者だけではなく、家族をはじめ、運転手、ホテルマン、販売員などのサービス従事者、ボランティアや近所の人、その他一般の人々がさまざまな場面で使う可能性があります。
超高齢社会である今の日本では、普段介助になじみがない人でも介助について学んでおいたほうがよいかもしれません。
しかし、家族やボランティアなどの一般の人と、医療・介護従事者、特に介護職、看護職、セラピストでは、同じ介助を学ぶといっても明らかな違いがあります。
それはプロなのか、プロではないか、です。
3.介助の習得には繰り返しの練習が必要
セミナーで、参加者に「何回くらい練習してできなかったら、この介助は難しいと判断しますか?」という質問をすると、「5回~6回」という答えが返ってきます。
介助はスポーツや楽器の演奏と同じように身体で覚える行為です。例えば、サッカーでシュートやパスができるようになるまで、何回練習したでしょう。バレーボールやテニスで、何回練習すればサーブやアタックができるようになりましたか。できるようになるまで何千回、何万回も同じことを繰り返したはずなのです。なのに、介助に関しては、コツをつかんだらすぐにできると勘違いしている専門職が非常に多いのが現実です。
介助が練習もしないですぐにできるのならば、介助を扱う職種の専門性はありません。2回~3回練習すれば誰にでもできる仕事になってしまいます。そのように思われていることが、介助の専門性を不確かなものにしてしまっているにも関わらず、当事者で介助のプロフェッショナルの医療職や介護職が、介助を簡単に学習できるものと思ってしまっては、自分で自分の首を絞めているようなものなのです。
全ての人がこの介助術を利用することができます。しかし、当然のことですが、練習を経てマスターしなければ使えるようにはなりません。介助の学習は難しくはありませんが、繰り返しの練習が必要です。プロならば、自分の知識と技術を磨く不断の努力が必要だといえます。
でも、この介助術は他の介助と比べると、理論的に確立されているので、マスターしやすいのです。そしてマスターできれば、高度な介助が可能になります。力のあるなし、年齢、体格、性別を問わないので、家族介護やボランティアが介助する際に使っていただくことができます。プロではないご家族や一般の人だからこそ、この介助を学んでいただきたいと思います。
最近は毎年のように日本のどこかで災害が起こっています。阪神や東日本、熊本の震災などの際に、避難所で隣の高齢者や障害をもった人に何か手助けをしたいと思われた人は少なくないと思います。そんな時、迷わず手を差し出せたら、それが相手にとっても快適でうれしいものであったら、こんなに素敵なことはありません。
練習が必要と言いましたが、家族介護者はご自身のご家族を介助できればよいので、プロになる必要はありません。私が指導させていただいたご家族は、一時間もかからずベッドから車イス間の移動をマスターしていました。講習会でも、うまく使えたと言ってくださるご家族がたくさんいます。
介護・看護・セラピストには、ご家族や一般の人々にこの介助術を伝える橋渡し役になっていただきたいと思います。
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