高齢者の安静臥床が及ぼす影響とは?廃用症候群を予防する重要性
公開日:2020.12.18 更新日:2023.09.11
安静臥床(読み方:あんせいがしょう)は、不動、低運動、不活動などと同様に心身活動が低下した状態です。それによって生じる、様々な器官・組織の機能が障害された状態を、廃用症候群といいます。
これは過度な安静による二次的障害です。子どもでも、若年者でも生じる可能性がありますが、高齢者では特に問題です。
加齢により様々な機能が低下していること、すでに病気等が存在する状態に安静が加わることで、廃用症候群が短期間で発生することが考えられます。
局所から全身にわたる廃用症候群を認め、それらの回復に長期間を要することや、完全に回復しないことも少なくはありません。
主な廃用症候群を表1に示しましょう。
表1 主な廃用症候群
廃用症候群は筋、骨・関節、心血管系、呼吸器系や精神機能など、様々な症状を示します。拘縮や筋力低下、褥瘡などの比較的局所的な症状や、心肺機能低下や起立性低血圧などの全身性の症状、さらに精神機能の症状があります。
廃用に至る期間としては、不活発な生活習慣により緩徐に廃用症候群が生じる場合と、疾病の発生や手術などでの治療を目的に突然に安静が強いられることで、急に廃用症候群を発症する場合があります。
また、安静の部位としては、例えば骨折によるギプス固定などの局所的な安静の場合と、病気の治療ため全身の安静療養が必要とされる場合があります。さらに、高齢者が病院に入院した場合などには、転倒・転落などのリスクを予防するために、安静を強いられることもあります。
多くの廃用症候群は、専門的な介入による効果が期待されますが、回復には長期間が必要であり、これらの発症を予防することが最も重要です。
過去問題【理学療法士】
第54回 午後 第84問
高齢者の長期の安静臥床の影響で正しいのはどれか。2つ選べ。
- 1.記銘力の低下
- 2.1回換気量の増加
- 3.循環血液量の減少
- 4.予備呼気量の増加
- 5.安静時心拍数の減少
解答
正解:1、3
■解説
過去問題に関係する呼吸器系、心血管系、精神機能の廃用について解説します。
【呼吸器系の廃用】
安静臥床により呼吸運動も少なくなり、胸郭の可動性の低下、横隔膜や肋間筋の運動が制限され、筋力が低下します。
その結果、拘束性換気障害が生じます。つまり肺活量の減少や1回換気量の減少です。また換気量が減少することと過剰拡散が生じるために換気血流比が不均一となり、動脈血酸素濃度も低下します。
さらに、換気量の減少と腹筋群の筋力低下などにより咳嗽力も低下します。これによる誤嚥のリスクも増加し、その結果、肺炎や無気肺なども生じることがあります。
【心血管系の廃用】
安静臥床により、心機能、循環器機能に様々な廃用症候群が発生します。その結果、運動耐容能は低下し、最大酸素摂取量は減少します。
低運動が続くことで、安静時心拍数の増加、運動時心拍数の増加、循環血液量の減少、血管運動調節機能(血圧調節)の低下、深部静脈血栓、心機能の低下などが発生します。
臥位から急に立ち上がった際に、立ちくらみ、めまい、収縮期血圧の低下などを生じる起立性低血圧も代表的な症状です。立つことにより血液が下肢に貯留され、静脈還流量が減少し、心臓の拡張期容量が減少することで収縮期血圧が低下。
その結果、脳の血液循環が低下して、めまいなどを起こします。
もう一つ、循環器系の危険な症状が深部静脈血栓です。ふくらはぎにある下腿三頭筋のポンプ作用の低下よりうっ血が生じ、静脈還流量が低下して血液成分が血管内に残り、血液凝固能が亢進して、血栓が発生します。
この血栓が肺に移動して肺梗塞を起こすと呼吸困難やチアノーゼが起こり、最悪の場合は死に至ることもあるため、深部静脈血栓の予防や早期発見と早期治療が必要です。
【精神機能の廃用】
安静臥床により、社会との接触の機会が減少することで、情緒の不安定化、抑うつ状態、意欲低下、見当識障害、記銘力低下、判断力や問題解決能力の低下、学習能力の減退などが発生します。
また、最近では身体運動の減少が認知症の発症に関連していることが指摘され、認知症予防として有酸素運動が推奨されています。有酸素運動は全身の血流を改善し、脳の細胞を活性化させることが期待されています。
不動、低運動、不活動となる安静仰臥では、脳血流量が低下するため、認知機能への影響が懸念されます。
<実務での活かし方>
廃用症候群に対する対処では、予防が最も重要です。
治療の一環で急に安静を強いられる場合には、その安静の目的や必要性を十分に検討し、その安静の程度を必要最低限にすることが必要です。安静が必要な部位、安静にすべき姿勢、安静が必要とされる期間などを検討します。
部位としては、四肢の一部の安静・固定が必要な場合には、それ以外の部位の安静は不要ですし、ベッド上で臥床している必要もないかもしれません。
姿勢としては、歩行などの運動は避ける必要がある場合にも、車椅子などでの座位は許可しても問題ない場合があります。期間としても、どのような状態になったら姿勢の変換や運動を許可できるのかを毎日確認し、できるだけ安静が短期間となるように対応します。
このように治療として安静が必要な場合には、多少の廃用症候群の発症はやむを得ませんが、その範囲や程度を最低限に抑えることが重要です。
不活発な生活習慣により緩徐に廃用症候群が生じている場合には、図1に示す悪循環を断つ働きかけが必要です。
通常は、生活習慣の変化により身体活動量がまず低下し、それに伴う廃用症候群によって運動機能や自信・意欲が低下します。加えて、活動をおこなった際に容易に疲労することが増え、その結果、さらに身体活動量が低下。このようなサイクルが循環されます。
図1 廃用症候群に関わる悪循環
この悪循環を断つ方法の一つは、低下した運動機能を改善させるための運動です。筋力増強運動やバランス練習、有酸素運動などの運動をおこなうことです。ただ、これらの運動は継続が必要であり、中断することでその効果は減少します。
もう一つの方法は、生活習慣を見直して身体活動量を増加させることです。家族内や地域社会での社会的な役割を果たすなど、やりがいのある活動・行動をおこなうことで、その効果が期待されます。
具体的には、家事への参加、買い物に行く際に少し遠回りをする、新しい趣味に挑戦する、地域活動に参加するなど。個人によって取り入れやすい活動が異なりますが、いろいろな方法が考えられます。
また、一人での活動よりも、近隣の友人などと活動するほうが、その継続性や活動の効果がより期待できます。複数の対処方法を組み合わせて取り入れることが良いでしょう。
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高齢者の長期臥床のリスクについて
臼田 滋
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。
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