高齢者の長期臥床のリスクについて
公開日:2019.09.27 更新日:2019.10.25
長期臥床の「長期」の定義はあいまいですが、安静臥床が一定期間続く状態をいい、過度に安静にすることや活動性が低下したことによって身体に生じたさまざまな状態を「廃用症候群」といいます。
以前は重症患者さんにとって安静臥床が傷病の回復に有用だと考えられていましたが、安静臥床による合併症が患者さんのその後のQOLに影響を与えている可能性があり、現在では早期離床が必要とされています。
治療と並行して早期にリハビリテーションを開始することの重要性は、平成30年の診療報酬改定で、「早期離床・リハビリテーション加算」が新設されたことからもわかります。また、平均在院日数の短縮にも、早期から集中的にリハビリテーションを施行することが有効といえます。

過去問題【言語聴覚士】
第20回 午後 第106問
高齢者の長期臥床の合併症について誤っているのはどれか。
- 1.褥瘡
- 2.肺炎
- 3.骨量増加
- 4.筋力低下
- 5.尿路感染症
解答と解説
正解:3
■解説
廃用症候群の進行は速く、特に高齢者はその傾向が顕著に表れます。安静臥床を1週間続けると10~15%程度、3~5週間で約50%の筋力低下がおこるともいわれています。しかし、廃用症候群の症状は筋力低下、筋委縮だけではありません。関節拘縮・骨萎縮などの筋骨格系、運動耐容能低下・心機能低下・起立性低血圧・血栓塞栓症・褥瘡などの循環器系、換気障害・沈下性肺炎・誤嚥性肺炎などの呼吸器系、体重減少・低栄養・食欲低下・便秘などの消化器系、尿路結石・尿路感染症などの泌尿器系、うつ状態・せん妄・見当識障害・睡眠覚醒リズム障害などの精神神経系など、各臓器の症状として多岐に現れ、日常生活自立度を低下させます。
特に高齢者は、予備力・回復力の低下、防衛力の低下、適応力の低下により、疾病にかかりやすく治りにくい傾向があります。つまり安静臥床により廃用症候群に陥りやすくなるのです。一度廃用症候群になると元の状態まで改善させることは難しくなるため、廃用症候群は治療よりも予防が重要です。
■実務での活かし方
脳梗塞後遺症で失語症の90代女性のところに、訪問リハビリテーションに伺っていました。失語症は重篤でしたが、発症を機に娘さんと同居となりました。それまでは1人暮らしをしていた方で、コミュニケーション意欲は高く身の回りのADLは自立。重度の言語障害により他者との交流は困難でしたが、訪問での会話の機会を楽しみにしてくださっていました。
普段は庭いじりや玄関掃除、身の回りの整理などをして穏やかに過ごしていましたが、ある日突然下血し救急搬送。消化管出血で2週間の絶食、安静臥床となりました。3週間の入院で治療を終え退院となりましたが、入院前は要介護1だったのが退院時はほぼ寝たきりの状態で、区分変更したところ要介護4になっていました。
身体機能と精神機能、言語機能面の低下は著明で、排泄はおむつ使用。ペースト食を介助で食べ、発話はなく、表情変化も乏しい状態でした。入院前は言語聴覚士のみの訪問でしたが、退院後は理学療法士、作業療法士、看護師が訪問。離床を促して積極的に身体を動かし、脳機能の活性化を図りました。
言語聴覚士は、好物のお刺身やうなぎ、牛肉などを食べやすく調理、提供する方法を娘さんにお伝えしました。また、本人が好きなことを話題にして会話を促し、興味や関心を引き出したり、非言語的な思考課題を実施し、達成感を得られるようなかかわりを心掛けました。
幸い身体機能は緩やかに改善し笑顔が戻り、屋内の生活は入浴以外はほぼ自立。摂食嚥下障害も改善し、普通食を自力で摂取できるようになりました。言語機能面の回復は乏しく、日常生活に必要な最低限の意思疎通が辛うじて可能なレベルにとどまっていますが、家族としては「なんとなく通じているから大丈夫」と話題を共有することができており、生活上の大きな問題にはなっていません。
長期臥床により損なわれるのは身体機能だけではありません。それまでの生活や大切にしてきたこと、楽しみも奪われてしまいます。リハビリテーション専門職である言語聴覚士として、今、目の前の患者さんに何が必要なのか、自分に何ができるのかを考えましょう。

新家 尚子
東京都言語聴覚士会 理事 保険局局長
大学を卒業後一般の企業で5年間社会人を経験した後専門学校に入学し、卒業後は急性期、回復期病院への勤務を経て、現在は訪問看護ステーションに勤務。
東京都言語聴覚士会
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
活動内容や入会のお問い合わせはこちらから。
http://st-toshikai.org/
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