理学療法士(PT)とは?作業療法士との違い・仕事内容・平均給与
理学療法士(PT)は、リハビリテーションに関わる医療専門職です。
しかし、病院や介護施設などでは他の専門職と同じ職場で働くことが多いため、一般の方から「どのような仕事をしているの?」などの声を聞くことも珍しくありません。
そこで当記事では、理学療法士の仕事内容や作業療法士との違いに加えて、平均給与や資格の取得方法、主な勤務先などを詳しく解説していきます。理学療法士を目指している方はもちろん、これから資格を取得するか迷っている方も、ぜひ参考にしてください。
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目次
理学療法士とは
理学療法士は、けが・病気などで身体に障害のある方や障害の発生が予測される方に対して、リハビリテーションをおこなう医療専門職です。「理学療法士及び作業療法士法」に定められた国家資格であり、英語の「Physical Therapist」を略して「PT」とも呼ばれています。
なお、国が定めた「理学療法士及び作業療法士法」では、理学療法を下記のように定義しています。
(引用:e-GOV法令検索「理学療法士及び作業療法士法」/https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000137)
理学療法士は名称独占資格であるため、有資格者でなければその名称を名乗ることはできません。
理学療法士の歴史
医学的リハビリテーションが、予防および治療とならぶ医療の重要部門として認識されたのは1960年頃のことです。当時の『厚生白書』には、以下の記述が残されています。
(出典:厚生労働省「厚生白書」(昭和35年度版)/https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/hakusho/kousei/1960/)
その後、1963年には日本初となる理学療法士、作業療法士の養成校となる国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院が東京・清瀬市に開校。2年後の1965年には、「理学療法士及び作業療法士法」が制定され、理学療法士と作業療法士の職能が公式に定義されました。翌1966年には国家試験が実施され、日本初の理学療法士、作業療法士が誕生しています。
また、1979年に金沢大学医療技術短期大学部で理学療法学科が新設されると、1992年には広島大学医学部保健学科でも理学療法専攻が誕生。ここから、大学教育による療法士養成の動きが全国に広まりました。近年では、毎年1万人ほどの理学療法士が生まれています。
(出典:日本理学療法士協会「50年の歴史」/http://50th.japanpt.or.jp/history/)
(出典:日本作業療法士協会「五十年史」/https://www.jaot.or.jp/files/page/wp-content/uploads/2013/06/50th.pdf)
(出典:厚生労働省「第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について」/https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2023/siken08_09/about.html)
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理学療法士の仕事内容
日本理学療法士協会によれば、理学療法は「病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人や障害の発生が予測される人に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法」だとされています。ただし、理学療法は医療行為に位置付けられているため、医師から指示を受けた上で行う必要があります。
(出典:日本理学療法士協会 国民の皆さま向けサイト「理学療法士を知る」/https://www.japanpt.or.jp/about_pt/)
つまり、医師の指示のもと上記のような理学療法を用いて、日常生活に必要な基本動作(寝返る・起き上がる・立ち上がる・歩くなど)の回復を目指すのが理学療法士というわけです。
具体的には、関節可動域の拡大や筋力強化、痛みの軽減といった運動機能にかかわる治療から、動作練習、歩行練習といった能力向上を目指す治療までを行い、対象者の日常生活の自立を目指すのが理学療法士の主な役割となります。
理学療法士が関わる主な疾患としては、以下が挙げられます。
- ・中枢神経疾患
- ・整形外科疾患(運動器の障害)
- ・呼吸器疾患
- ・心疾患
- ・内科的疾患、筋力低下 など
理学療法士の業務では医師や看護師、介護士、作業療法士、言語聴覚士といった他の専門職と連携する場面も少なくありません。また、患者さま、利用者さまと接する時間が長い看護師や介護士に対して、身体の使い方や支え方を指導するケースもあります。
先に紹介したように、理学療法ではけが・病気などが原因で運動機能が低下した方を対象としていますが、近年は医学の進歩や社会保障情勢の変化により、下記のような対応も行うようになりました。
- ・負傷・病気後のリハビリ
- ・障害者(児)に対するリハビリ
- ・高齢者の運動機能低下・生活習慣病の予防
- ・スポーツ障害へのリハビリ
- ・スポーツ選手のパフォーマンス向上を目指したサポート
- ・がん患者への緩和医療
- ・福祉用具や住環境への助言・相談 など
これを踏まえるなら、理学療法士は医療・介護両面から対象者をサポートできるやりがいの大きな仕事だと言えます。東日本大震災をはじめとする大規模災害の際も、被災者の身体機能の低下を予防するため現地に赴き、助言や指導を行う理学療法士の姿が見られました。
ちなみに、スポーツをやっていると筋肉や関節、日常生活動作、運動動作などへの興味関心が強まるため、学生時代に運動をしていた体育会系の方が理学療法士を志すケースが多い傾向にあります。
理学療法士の所属先・勤務先
ここからは、理学療法士の主な所属先・勤務先を、医療施設・福祉施設・その他の施設と3つに分けてご紹介します。
医療施設
理学療法士が多く活躍しているのは、病院やクリニックなどの医療機関です。急性期の患者が多い病院や急性期病棟では、早期治療・退院を目標にしたリハビリがメインとなり、リハビリ専門の病院や回復期・慢性期の病棟では、長期的な視点で運動機能の維持・改善を目指します。
医療施設の中で代表的な勤務先は、下記のとおりです。
・クリニック
・リハビリ専門病院
医療施設
近年は、急速な高齢化が進んでいる影響で、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションといった介護分野にも、理学療法士の活躍の場が広がっています。病院を退院した後に自宅や施設で療養生活を続ける患者さまも多いため、こうした分野ではますます理学療法士の需要が高まるでしょう。
理学療法士が働く代表的な福祉施設は、下記のとおりです。
・身体障害者福祉施設
・児童福祉施設
その他の施設
下記のように理学療法士の勤務先は多岐にわたっています。そのため、自分の希望に合った職場で働ける可能性も比較的高いでしょう。
・理学療法士養成施設などの教育分野
・スポ―ツクラブ・スポーツチームなどのスポーツ関連分野
理学療法士の給与・平均年収
厚生労働省のデータによると、理学療法士の平均年収は約427万円となっており、日本の給与所得者の平均年収443万円と比べてほぼ同等といえる金額となっています。
(出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html)
(出典:国税庁「令和3年分民間給与実態統計調査」/https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/002.pdf)
下記表では、理学療法士全体の平均年齢や給与などをまとめました。
このデータからもわかるとおり、理学療法士の平均年齢は35.1歳と若く、他職種と比べると給与が低くなる傾向にあると言えます。
平均年齢 | 35.1歳 |
---|---|
勤続年数 | 7.4年 |
労働時間 | 161時間 |
超過時間 | 5時間 |
月額給与 | 約29.6万円 |
年間賞与 | 約71.3万円 |
平均年収 | 約427万円 |
(出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html)
他の職業との年収を比較
医療福祉業界のなかで、理学療法士の年収はどのくらいの水準なのでしょうか。下記表では、薬剤師や栄養士など、医療福祉業界の他職種と理学療法士の年収を高い順に並べて比較しました。
職業 | 平均年収 |
---|---|
医師 | 約1,378万円 |
歯科医師 | 約787万円 |
薬剤師 | 約581万円 |
助産師 | 約554万円 |
診療放射線技師 | 約547万円 |
看護師 | 約499万円 |
臨床検査技師 | 約496万円 |
保健師 | 約481万円 |
理学療法士 | 約427万円 |
介護支援専門員(ケアマネジャー) | 約410万円 |
准看護師 | 約407万円 |
歯科衛生士 | 約387万円 |
栄養士 | 約368万円 |
訪問介護従事者 | 約364万円 |
介護職員(医療・福祉施設等) | 約353万円 |
(出典:厚生労働省「令和3年賃金構造基本統計調査」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2021/index.html)
表からもわかるとおり、理学療法士の年収は中間程度で、医師や看護師などの有資格者と比べると低めです。医療系職種のなかでも、平均年齢が低いことやリハビリ単位数に上限があることなどから、他職種に比べると収入が低くなりやすい傾向があります。
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理学療法士になるには?
理学療法士になるには、養成施設で規定の課程を履修した上で国家試験を受験し、合格しなければなりません。
ここでは、資格取得までの流れについて解説します。
学校・養成施設で学ぶ
理学療法士になるには、文部科学省指定の学校や厚生労働省指定の養成施設で3年以上学ぶことが必要です。指定の学校・養成施設には、4年制大学や短期大学(3年制)、専門学校(3年制・4年制)、視覚障害者を対象とする特別支援学校があります。
1年次の基礎科目には解剖学や生理学、運動学などの講義が中心となり、年次が進むほど専門科目の割合が高くなり、実技の授業が増えていきます。
学んだ専門知識やスキルを実践する場として、臨床実習の時間が長く設定されているのも理学療法士の学校・養成施設における特徴です。臨床実習では、実際の医療現場の見学や患者さまのリハビリプランの作成、プランの実践・評価などを行います。なお、理学療法士は卒業までに20単位以上の臨床実習をこなさなければなりません。
国家試験を受験する
養成施設ですべてのカリキュラムを履修した後は国家試験を受験し、合格すればそれぞれの資格が取得できます。
試験日は毎年2月下旬。午前と午後に分けて行われ、マークシート方式で一般問題と実地問題が出題されます。一般問題は1問1点、実地問題は1問3点となっているため、実地問題を確実に得点することが合格への鍵となるでしょう。
2023年2月19日に実施された第58回の試験の合格率は、以下の通りです。
出願者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|---|
理学療法士 | 13,648人 | 12,948人 | 11,312人 | 87.4% |
(うち新卒者) | 11,452人 | 10,824人 | 10,272人 | 94.9% |
(出典:厚生労働省「第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について」/https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2023/siken08_09/about.html)
理学療法士・作業療法士ともに8割を超える合格率で、新卒者に限ればどちらも9割超えの高水準となっています。範囲が広く試験内容の難易度はけっして低くないものの、学校・養成施設で学んだことをしっかり身に付けておけば、十分に合格を目指せるでしょう。
理学療法士と作業療法士の違い
理学療法士と作業療法士は勤務先や名称が似ていることから、「どのような違いがあるのか?」について、明確に説明できない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
以下では、理学療法士と作業療法士それぞれの特徴を紹介します。
理学療法士 | 作業療法士 | |
---|---|---|
概要 | 身体に障害がある人を対象に、運動機能や基本動作の回復を目的として、治療や訓練、指導を行うリハビリ専門職 | 心身に障害がある人を対象に、機能低下の予防や回復、維持を目的として治療や訓練、指導を行うリハビリ専門職 |
主な業務 | ・運動療法や物理療法を用いて、機能や能力の回復を支援する ・自身の力で生活できるように、室内の移動、食事、排泄、臥床といった日常生活動作の訓練を行う ・自宅で支障なく生活が送れるように、福祉用具の利用を提案したり家族に介助指導を行ったりする |
・作業を通して機能の回復を支援する ・急性期の患者さまには、運動や認知などの心身機能の改善や低下の予防を目的として治療を行う ・食事、排泄、入浴といった日常生活で必要な動作ができるように訓練を行う ・地域コミュニティへの参加など社会復帰を目指した支援も行う |
主な活躍場所 | ・医療機関 ・福祉施設 ・リハビリテーション施設 ・行政関係施設 ・スポーツ・フィットネス施設 |
・医療機関 ・福祉施設 ・リハビリテーション施設 ・行政関係施設 ・特別支援学校などの教育施設 |
患者さまとのかかわり方の違い
ここでは1つ症例を通して、理学療法士と作業療法士がそれぞれどのような関わりをしているのかを確認しましょう。
仮に60歳代女性が脳梗塞で入院し、右手足に麻痺が出たとします。どちらの職種も、主治医の指示が出た後にリハビリテーションを開始します。
- ●理学療法士の場合
手足の拘縮(関節が硬くなること)を予防するため関節を動かしつつ、筋力が落ちないように運動を指導します。あわせて、寝返りや起き上がり、立ち上がり、歩行といった基本動作の反復練習を行い、自宅に帰ってからの生活で特に移動について困らないように回復を促します。
- ●作業療法士の場合
患者さまが女性の場合、自宅での家事を担っていることが多いため、麻痺がある右手で包丁や鍋などを使用する練習や洗濯物、掃除などの動作確認を行います。動作が難しい場合は、別の道具で代用できないかを探ったり、ご家族の協力を仰いだりしながら、ご本人が満足のいく生活ができるように一緒に考えます。また、将来への不安なども出やすいため心理面のフォローも必要です。
「理学療法士は足腰を中心としたリハビリテーション、作業療法士は手を使った動作のリハビリテーションを担う」と言われていた時期もありましたが、実際の臨床現場ではそうした役割分担はありません。必要なことがあれば情報を共有し、職域を超えて協力しながら患者さまをサポートするのが一般的です。
理学療法士の将来性
理学療法士は「有資格者の数が増えすぎて飽和状態なのではないか」という声もありますが、世界的に見ても高齢化が進んでいる日本社会では、必然的にニーズは高まると考えられます。今後、日本の高齢化はますます進み、2040年には高齢者の割合が35%を超えるとも言われています。
(出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書」/https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/gaiyou/04pdf_indexg.html)
日本が高齢化社会である限り、理学療法士は非常にニーズの高い仕事であると言えるでしょう。
まとめ
理学療法士はリハビリを行う専門職です。理学療法士は座る・立つなど基本的動作能力の回復をメインとしたリハビリを行う点に特徴があります。
みなさんのなかには、理学療法士を目指そうかと迷っている方もいらっしゃるかもしれません。理学療法士は、患者さま1人ひとりの「その人らしい生活」をサポートするやりがいのある仕事です。この記事を参考にしながら、自分に合ったキャリアプランを検討してみましょう。
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※当記事は2023年5月時点の情報をもとに作成しています
監修者プロフィール
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