第45回統合失調症の状態悪化を示すサインとは?再燃の兆候に注意を
公開日:2021.02.08

寛解と再燃を繰り返しやすい統合失調症。治療薬が進歩し外来通院と服薬を続けながら、社会生活を営むケースも増えているものの、生きにくさや再燃の兆候を密かに抱えるケースも少なくありません。
住み慣れた地域で豊かに暮らし続けるには、服薬状況だけではなく日常の生活にふと現れる状態悪化のサインにいち早く気づき、周囲の人々との関係性や個々の生活環境に配慮することが大切です。
作業療法士国家試験では統合失調症の状態悪化を示すサインについて、以下のような問題が出題されています。
過去問題【作業療法士】
第52回 午後 13問
24歳の女性。統合失調症。2か月前からスーパーの惣菜コーナーで働いている。週1回、外来作業療法を利用しており、仕事や生活の様子を話題にしながら患者の体調の確認を行っている。作業療法士が気を付けるべき状態悪化時のサインとして適切でないのはどれか。
- 1.不穏な状態になる。
- 2.睡眠時間が長くなる。
- 3.仕事を休みがちになる。
- 4.仕事仲間に疑い深くなる。
- 5.仕事上のミスが多くなる。
解答
正解:2. 睡眠時間が長くなる。
■解説
精神疾患の場合、普段の日常生活動作や社会生活場面における行動変化、対人交流における態度や会話内容、感情表出や物事の見かた・感じかたの傾向に変化が現れたりします。
また、睡眠状態に変化が及びやすく、状態が悪化し始めると浅眠や不眠に陥り日中の活動に支障をきたします。睡眠時間の延長(選択肢2)は状態が改善傾向にあり、日中程よく活動できている時期に表れやすいサインのため不正解です。
状態が安定していれば、睡眠時間を十分に保ち、日中の活動性や意欲も安定しています。
状態が悪化傾向にある時期は、生活リズムが乱れ、食欲や集中力が低下し、ふいに不安や焦燥感を見せることもしばしばです。
不穏(選択肢1)もそのひとつで、外に出ること、人と会うことが億劫になることもあるでしょう。
なじみの関係でも疑い深くなる(選択肢4)など、感情をうまくコントロールできなくなったり、職場では同僚との付き合いに隔たりを感じ、仕事を休みがちになるかもしれません(選択肢3)。また、作業遂行能力の低下のサインとして、普段はしないミスが頻発したりします(選択肢5)。
■実務での活かし方
私たちは、対象者がよりポジティブな健康状態を維持できるよう、作業療法場面以外の日常生活にも関心を寄せます。精神疾患に限らず、対象者の日常生活に何らかの変化を察知すれば、対象者の心身に何らかの負担や環境の変化が起きている可能性を考えましょう。
統合失調症の状態悪化のサイン(再燃の兆候)は、対象者の心と身体に二重の負担を与えます。状態が悪化して、外に出ること、人と会うことを避けるようになれば、日中の活動量が減じ、生活全体が不活発になります。
身だしなみを整えることを忘れ、部屋は雑然とするなど日常生活に負の循環が生じることもあるでしょう。統合失調症を患っている方々の自死率、生活習慣病の罹患率が一般の人々と比べ高い傾向にある背景には、状態悪化のサインを誰にも察知されないまま過ごしている日常が潜んでいるかもしれません。
目には見えない偏見や差別が、外へ出て人と交わろうとするポジティブな気持ちを奪うケースも少なくないのではないでしょうか。
身近な家族がその障壁となっていることもあり得ます。数年前、統合失調症を患った方が、家族に長期間監禁されて衰弱死した事件が話題になりました。かつての日本では、精神疾患患者が「座敷牢」と呼ばれる暗い小部屋に閉じ込められることが珍しくありませんでした。
家族による拘束や虐待は、顕在化しにくい傾向があります。今もなお、身体だけではなく心の拘束を解き、あるがままに日常を営む機会を求める人々が、私たちの身近にもいるのかもしれません。
精神疾患の治療に必要なのは「社会との関わりを断つことではなく、専門家によるサポート」です。私たちセラピストは、対象者やその家族が孤立しないよう注意深く見守る「サポートチームの一員」である必要があります。
対象者が社会生活を心から楽しみ、夢や目標を持って過ごしているのかどうか。程よく健康な状態を長く持続できる環境にあるかどうか。常に医療従事者としての視点で観察し、必要に応じて適切な専門医療機関や行政機関の相談窓口へつなげていくなど、支援体制を連携していくことが求められます。
統合失調症の状態悪化のサインは、対象者ひとりひとり異なります。一見、孤独には見えなくても、定期的に支援体制を見直してみる必要があるのではないでしょうか。
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中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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