第54回視覚障害者へのリハビリテーションは多職種連携が重要
公開日:2022.04.06
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
今回は作業療法士の国家試験から、視覚障害者への対応を取り上げた過去問題を解説します。視覚障害・聴覚障害・身体の麻痺による障害など、日常生活に支障がある対象者の支援は作業療法士の課題のひとつであり、障害に対する理解と適切な介入が求められます。
視覚障害がある方の自立した生活や社会参加を実現するために、自立訓練がどのようにおこなわれ、セラピストとしてどのように関わるのかを知っておきましょう。
視覚障害とリハビリテーション
視覚障害は、盲(光の感覚をも失った状態)と弱視(医学的弱視:視覚機能の異常や発達の遅れにより視力の低下)に分けられます。
視覚障害者に対するリハビリテーションは、脳血管障害や骨折、神経難病などの疾患・障害と同様に、医学・社会・教育・職業リハビリテーション4つの側面が切れ目なく施され、住み慣れた地域で居場所やコミュニティを維持できるよう、多職種連携を軸とした支援が行われます。
多職種連携で行われる視覚障害のリハビリテーション
リハビリテーションの第一歩である医学的リハビリテーションでは、眼科医と視能訓練士を中心に実施される視能検査にもとづき、視能の矯正や舗装具の処方、これから向かう環境への適応を目的とした訓練が行われます。
心身を馴染ませる働きかけも重要
視覚機能や構造、基本的な日常生活動作に対するアプローチだけではなく、新しい環境に自分の心身を馴染ませるよう働きかけもおこないます。危険を予測・回避したり、突然驚くような出来事があっても感情をコントロールしたりすることも重要です。
ストレスにならない生活習慣を検討するなど、個々の特性や回復経過に応じ、さまざまな状況を想定した訓練・環境調整を行うことが、その後の就学・就業に欠かせません。
中途視覚障害のケースでは視力を失った身体と向き合い、将来に希望が持てるよう慎重な働きかけが必要です。
作業療法士をはじめとするセラピストは、支援者から信頼を得られる関係性を構築することが大きな課題のひとつとなるでしょう。
《問題》視覚障害者への対応で正しいのはどれか。
【作業療法士】第52回 午後37
視覚障害者への対応で正しいのはどれか。
<選択肢>
- 1. 伝い歩きをするときは障害者の手掌を周囲に接触させる。
- 2. 点字の利用では読む面と書く面を同じにする。
- 3. 歩行時に介助者は障害者の後方に位置する。
- 4. 白杖は2歩先の状況が分かる長さとする。
- 5. 視覚の代償手段として義眼がある。
解答と解説
正解:4. 白杖は2歩先の状況が分かる長さとする。
この問題では、視覚障害者の具体的な日常生活動作支援について問われています。
1.の「伝い歩き」は、舗装具を用いず、壁や手すりを伝いながら歩くもの。
①壁や手すりから15~20cm前後離れて立ち、
②壁や手すり側にある肘を伸展させ、
③肩関節を45度前後に前方へ挙上させたまま、
④第5・4指を軽く屈曲させて、
⑤指の甲または爪の部分を壁や手すりに適度に触れさせながら歩くのが基本的な方法です。
上肢を前方へ挙上させるのは、進行方向の安全を確認するためです。何かに手指が引っかかったりしないよう、力(りき)まず保持することも大切です。
2.の「点字」は、視覚障害者のコミュニケーション手段として活用されます。
デコボコした面を左から右へ指で触れながら「読み」ます。「書く」時は、デコボコさせた面から読めるよう右から左へ打ち出します。
3.の「歩行介助」の際の立ち位置は、対象者の後方ではなく斜め前方につく(白杖を使用している場合は、動きを妨げない側)のが正しいやり方です。
4.は正解で、白杖は、対象者の2歩先に杖先をつきます。
5.の「義眼」は、視覚を代償する目的ではなく、審美性や眼窩や眼瞼などの形を維持する目的で用います。
実務での活かし方
作業療法士、理学療法士の場合、視覚単独の障害だけではなく、片麻痺や末梢神経障害、加齢に伴う疾病や障害を背景にもつケースに携わることが多いのではないでしょうか。家族や介護者に対する日常生活指導のニーズもあるでしょう。
個々の特性に応じた支援はもちろんのこと、同じ障害を持つ方々とお互いをサポートする場を設けるなどの間接的な支援も重要です。より自立した状態で社会生活が営めるよう、多職種連携を軸としたサポート体制の持続が望まれます。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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