【管理栄養士執筆】高齢者の食欲不振対策に!おすすめの栄養補給メニュー
公開日:2021.08.17
文:篠塚 明日香
(管理栄養士・分子栄養学カウンセラー)
高齢になると、どうしても消費エネルギー量が落ちるので食欲が減る傾向にあるのですが、そこには個人差があり、そうならない人もいます。その個人差がどうして生まれるのかといえば、普段の栄養状態が大きく関係しています。
そして、食欲低下の原因は消費エネルギー量の低下だけでなく、なんらかの疾患、服薬、運動不足、自律神経の乱れ、精神面のストレス……などさまざまですが、今回は高齢者に起こりやすい消化吸収力低下にともなう食欲不振にスポットをあて、その対策としての効率的な栄養摂取方法を考えます。
年相応の消化力はキープするには?栄養バランスや腸内環境が大切
高齢者の食が細くなると、「もう高齢だから仕方がない……」と受け取られがちです。確かにそういった面もありますが、疾患を防ぐことや、免疫力を保つためにはどうしても栄養摂取が不可欠なので、できる限り改善したいところです。
そのなかでも、消化力低下にともなう食欲不振は多くの高齢者に見られるものです。筋力低下からくる噛む力の衰え、唾液や消化液量の減少に加え、腸の蠕動運動が弱まると、食べ物が消化管に停滞しやすく未消化になりがちに。それが、空腹を感じにくくするだけでなく、胃もたれや胃痛にもつながり、結果として食欲がわかないということにつながります。
たんぱく質不足が消化力低下を引き起こす
食べ物を食べて、そこから栄養素を消化・吸収するには、消化液の存在が欠かせません。消化液には、唾液、胃液、膵液、胆汁酸などがありますが、これらは主に、たんぱく質を原料として体内で合成してつくられています。
つまり、たんぱく質を十分にとることが消化力キープにつながるということ。特に、胃液に含まれる胃酸は、たんぱく質やミネラルを消化吸収するために重要な役割を担っています。
しかし、高齢者は消化管粘膜の老化にともない消化液分泌が減少していきます。どうしても柔らかい食べ物を好むため、食事が炭水化物や野菜中心になり、肉や貝類のように咀嚼力が必要なものを食べることを避けるのでたんぱく質摂取量が低下しがちだからです。
そこに加えて胃酸抑制などの服薬をしていることも多く、よりたんぱく質の吸収不良を高めます。
たんぱく質不足は、消化管粘膜の老化や萎縮を引き起こします。消化液のスムーズな分泌には消化管粘膜を健全に保つことが大切ですが、消化管の代謝や修復にもたんぱく質やミネラルが必要とされます。
よって、食欲低下によってたんぱく質不足が続けば、ますます消化力が低下して、食欲が戻りにくくなってしまうという悪循環に陥るのです。
食欲低下を感じたら、分食や味の変化を試してみる
では、実際に食欲が低下してしまった場合にはどんな対策をしたらいいのでしょうか。
普段から栄養バランスがしっかりしていれば、年相応の消化力をキープすることができますから、消化力をキープするための効率的な栄養摂取方法は押さえておきたいところです。
食事は1日3回規則正しく食べることが理想的ですが、消化力が低下した高齢者にとっては、消化が追いつかずに3回の決まった食事が負担になることも珍しくありません。
今日から始められる!4つの食欲増進アプローチ
食欲増進のアプローチとして、時間にこだわらずに本人が食べたいときに小出しにするものひとつの方法です。おなかが空いたときにすぐに食べ物を提供できるように、保存が効く煮物や練りものなど本人の好きなものを常備しておくといいでしょう。
栄養価を高めるためには、手作りふりかけもおすすめです。干しエビ、かつお節、ごま、青のりをフライパンで炒って、醤油やみりんで味つけするだけで簡単につくることができます。白米やおかゆなどにかけると、食欲が増すことでしょう。
市販品で栄養を補うなら、お湯を入れるだけのポタージュ、茶わん蒸し、エネルギーチャージがスムーズにできるゼリーなども便利です。
また、加齢にともない味覚も弱まる傾向があるため、いつもの味ではどこか味気ないと感じて食欲が落ちていることもあります。そこでの一工夫として、調味料を変えてみるのもおすすめです。
たとえば、煮物にほんの少し酢を加えると、塩分量を増やさなくても味がしっかりと濃く感じられます。いつもの定番の厚焼き玉子を、たまにはオムレツに変えてみて、味つけをケチャップにするといったことも試してみましょう。
消化のいいたんぱく質の摂取方法
食事量が少ない場合に最優先したいのは、エネルギーやたんぱく質量の確保です。とくにたんぱく質は消化力のキープに重要なものにもかかわらず、高齢者が摂取しにくい栄養素でもあるので意識してメニューに取り入れましょう。
肉や魚などの固形物が食べられない場合、試したいのがスープの出汁からたんぱく質をとる方法です。出汁をとるために肉や魚をつかうと、具を食べなくてもたんぱく質から溶け出すアミノ酸を摂取することができます。
たんぱく質というのはアミノ酸の集合体ですから、アミノ酸を摂取するのはたんぱく質を食べるのと同じことです。さらに、アミノ酸なら消化液を使わずにそのまま吸収することができるので、高齢者にとっては消化負担が少ない吸収のいいたんぱく源となるでしょう。
お湯にいれるだけでおいしい出汁となる煮干し粉も大変便利です。煮干し粉はスープのほか、煮物やお浸しに少し足すだけでも、たんぱく質やミネラルを摂取することができます。
煮干し粉は大さじ1杯で、卵1個分のたんぱく質量が摂取できるという優れモノです。少量でも毎日とることで、徐々に栄養状態が改善されると思います。
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篠塚 明日香
管理栄養士・分子栄養学カウンセラー
1977年、茨城県に生まれる。管理栄養士、分子栄養学カウンセラー。東京家政大学短期学部栄養科卒業後、老人介護保健施設での給食管理の実務を経て管理栄養士となる。
現在は、フリーランスとして分子栄養学のセミナー開催やエステサロンでのダイエット指導、企業商品の考案などにも携わる。
所属:合同会社スリップストリーム
プロフィール写真:櫻井健司
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