作業療法士の実習とは?目的や3種類の実習内容について解説
公開日:2021.08.27 更新日:2023.05.23
文:泉良太(作業療法士)
医療系の資格には実習がつきものです。医師でも看護師でも実習がありますが、作業療法士でもそれは同じ。なんと、総授業時間2,730時間のうち実習時間は1,080時間。パーセンテージにすると約40%になるのです。
いかに多くの時間が実習に費やされているかがわかるでしょう。それは裏を返せば、医療職としてひとり立ちするには実習はなくてはならない、とっても大事なものともいえるのです。
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目次
作業療法士の実習は2020年からどう変わった?
作業療法士の実習は2020年から大きく変わりました。方針が「しっかりと教育を受けた者でないと教えてはいけない」というものに切り替わったたためです。なぜそうなったのか、その流れを説明しましょう。
このガイドラインに基づいて、全国一律に臨床実習が行われていればよかったのですが、実際はそうではなく実習で教える内容に差がありました。なぜこんなことが起こってしまったのでしょうか。
その原因はさまざまですが、大きな原因とされてきたのが指導する作業療法士が「教育者」よりも「実践者」として学生にかかわってきたからといわれています。つまり、ガイドラインに沿うよりも、自分が受けた教育を手本に学生を指導していたわけです。
たとえるなら、大工の見習いの人が「脈々と受け継がれた独自のやり方」を先輩や親方から教わるようなものです。それぞれの作業療法士の仕事や価値観を学べることは大変貴重な機会ではありますが、一定の質を保っているのか、という点では少し問題があったわけです。
そこで、2020年度以降に入学する学生に対しては「臨床経験5年以上、16時間の研修を受けた者を実習指導者とする」ことが義務づけられました。研修会では実習の到達目標がはっきりと示され、教育理論に基づいた学生指導の方法や、どのようにしたら学生指導が充実するかというディスカッションなどが盛り込まれ、実習指導の抜本的な改善が図られました。
作業療法士の実習は大きく分けて3種類(見学実習・評価実習・総合臨床実習)
作業療法士の実習の呼び名は養成校によって少し異なりますが、大きく次の3つに分かれます(表を参照)。
実習の種類 | 該当の学年※ | 実習日数(目安) | 実施施設 |
---|---|---|---|
見学実習 | 1(2)年 | 1~2週間 | 病院、施設、その他 |
評価実習 | 2(3)年 | 2~4週間 | 病院、施設、その他 |
総合臨床実習 | 3(4)年 | 8~10週間 | 病院、施設、その他 |
※()内は4年制の学校
①見学実習
見学実習とは文字どおり見学が主体の実習です。病院や施設などで作業療法の実践を見学学習する実習であり、現場の作業療法の場面を見学したり、部分的に体験させてもらいます。見学以外にも医療従事者としての振る舞いや対象者に対する接遇など、基本的態度も実践をとおして学びます。
見学実習は初学年で実施されることが多く、学校で学んだことと実際の作業療法をつなぎ合わせることで職業のイメージをふくらませます。
②評価実習
評価実習は作業療法のプログラムを立てる練習をする実習です。実際の対象者に対して検査を実施して、目標や提供する作業療法を考えます。評価実習は作業療法のプランを立てることをゴールとしています。
対象者に対して心身機能・認知機能の検査・測定の実施、面接や観察をとおして対象者のニーズや生活の実態までも把握し、課題を明らかにして作業療法目標とそれを達成するための作業療法プランを考えます。
また、実際のカルテを閲覧したり、医師や看護師から対象者の情報を聴取することも行います。
③総合臨床実習
総合臨床実習は最終学年で行われる実習で、いよいよ自分が立てた作業療法プランを実践します。総合臨床実習は自分が立てた作業療法プランを実践し、その効果判定(再評価)までを実施する、これまでの集大成のような実習です。
実習を実施する学年や実習日数は養成校により異なっています。
実習場所は病院から放課後デイサービスまで。遠隔地で宿泊もあり
実習は「総実習時間の2/3以上を医療機関で行う」というルールがあり、実習期間が長い総合臨床実習では2/3の規定時間を超えてしまうため、医療機関外の実習は期間が短い実習で行われることが多いです。
また、実習の領域は幅広く、作業療法の対象となる「身体障害」「精神障害」「老年期障害」「発達障害」の領域で実施されます。
精神障害と発達障害はほかの領域に比べて実習地が少ないので、在学中に1回行けるかどうかで、希望学生のみを配置するという養成校もあります。
1日の実習時間は実習地の勤務時間に合わせます。多くは8時30分~17時30分で、指導者とその日の振り返りなどを行うので18時ごろには終了します。
また、評価実習、総合臨床実習では遠隔地にて宿泊をしながら実習を行うこともあります。私が勤務する養成校は、北海道から沖縄まで全国に実習地があり、2割程度の学生が遠隔地で実習をしています。宿泊はマンスリーマンションやビジネスホテルを利用して、学校が手配をします。
「実習日誌」と「症例レポート」といった課題の提出も
実習中は実習日誌や症例レポートなどの課題もあります。
症例レポートとは:評価実習以降で設けられることが多いもので、実習で自分が担当した対象者の検査結果や評価、実践したことをまとめるものです。
日誌は指導者に毎日提出をしてチェックをもらいます。症例レポートも、必要なアドバイスをもらいながら指導者と一緒に完成させていきます。つまり、この日誌とレポートの内容がチェックされることで、学生はビシバシと鍛えられるわけです。
最近では対象者の担当となって1人の症例を深めるよりも、さまざまな対象者の作業療法場面に参加する「作業療法(臨床)参加型実習」という、経験重視型の実習が取り入れられ始めています。
この場合、症例レポートは作成しないか、実習後に学校でレポートを作成することになります。
養成校独自に設けた実習が行われることも
筆者が所属する養成校では、評価実習の前に「測定実習」というものを10日間行います。それを行う理由は、学生にとって評価実習はかなりハードルが高いからです。
評価実習は学生が対象者に主体的にかかわりますが、そのときにまだ右も左もわからない現場で作業療法を実施していくのは容易なことではありません。そこで測定実習では、血圧測定や関節可動域測定などの基本的な検査を体験してもらい、「触れる」ことに慣れることを目的に実施しています。
経験の少ない学生にとって実習はとても緊張しますし、戸惑う場面の連続でもあります。でもだからこそ、座学では決して得られることができないものを数多く学ぶことができます。実習が総授業数の40%も占めるのは、まさにそのためなのです。
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泉 良太
音楽の専門学校を卒業後、2007年に作業療法士の資格を取得。
都内リハビリテーション病院、救急病院で主に脳卒中に対する作業療法に従事。2015年より東京福祉専門学校の専任教員。
修士(医療福祉教育・管理学)。博士課程在学中。
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