日常生活動作、自立度の指標「FIM」によるADL評価
公開日:2022.08.29
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
FIM(functional Independence Measure)は、リハビリテーション医療の有効性を説明する手段として、1980年台にGrangerらによって開発されたADL評価法です。2016年度の診療報酬改定において、回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価として用いられるようになったのをきっかけに、現在は医療・介護現場で広く活用されています。
しかしながら、「採点方法が複雑」「項目ごとに独自のルールが多い」といった声も多く聞かれます。
作業療法士国家試験の過去問題から、FIMの基礎知識や採点についておさらいし、臨床で活かしましょう。
FIMとは?
FIMとは、機能的自立度評価表(Functional Independence Measure)の略で、回復期リハビリテーション病棟のアウトカム評価にも用いられています。評価項目は、運動機能面のみならず対人交流や日常生活場面での問題解決など(認知機能面)にまで及び、それぞれの自立度を数値化して表すことができます。
FIMの採点に関しては、講習会に参加しFIM開発の背景や採点の原則を学び、それをもとに施設内で勉強会をおこない、一定の理解をもって臨むのが心強いですが、何度学んでも「必ずマニュアルに戻る」のが実情かもしれません。実際に採点する際は、「どの場面を採点するのか?(観察ポイント)」を抑えたうえ観察し、「なぜ●点としたのか(判断基準)」を明確にして、採点を完成させるのが良いと考えます。
作業療法士の国家試験では、以下のような問題が出題されています。
《問題》FIM の点数とADL評価の組合せで正しいのはどれか。
【作業療法士】第56回 午後 28
FIM の点数とADL評価の組合せで正しいのはどれか。
<選択肢>
- 1. 食事4点 - 自助具を介助者に装着してもらい自力で摂取する。
- 2. 清拭7点 - ループ付きタオルを使用して身体を洗う。
- 3. 歩行1点 - 1人の介助で15mまで歩行ができる。
- 4. トイレ動作3点 - 日中は自立しているが夜間は介助者が監視している。
- 5. 更衣(下衣)5点 - 短下肢装具の装着のみを手伝ってもらう。
解答と解説
正解:5
1.は、準備については介助してもらっているものの、採点対象となる摂食・嚥下については自立していることから6点と判断します。2.も同様に自助具を用いて自立しているため6点です、3.は、「50m」と「15m」の2段階基準のうち、15m(25%以上)を1人の介助で移動できるため2点、4は、日中は自立しているものの夜間は「監視」レベルのため、低い方の点数を採点するルールを採用し5点と採点するのが一般的です。
実務での活かし方
FIMでは、18の採点項目(13の運動項目・5の認知項目)に対し、7段階(1点〜7点)評価をおこないます。すべての項目で完全に自立している場合に126点、全介助の場合は18点となります。
このうち、作業療法の領域として理解しておきたい運動項目の採点基準は、以下の通りです。
●7点…「完全自立」
自助具や補装具を用いることなく完全に自分一人でおこなっている状態
●6点…「修正自立」
自分で自助具や補装具を準備・活用しておこなっていたり、安全確保や配慮が必要だったり、慎重さ(時間がかかる)を要する状態
●5点…「監視」
介助者による声かけ(促し)や自助具の装着介助、動作をはじめるまでの準備が必要ながらも、実際の動作は自分でできる状態。
●4点…「最少介助」
対象とする生活動作のうち、75%以上を自分でおこなっている状態。
●3点…「中等度介助」
対象とする生活動作のうち、50%以上、75%未満を自分でおこなっている状態。
●2点…「最大介助」
対象とする生活動作のうち、25%以上、50%未満を自分でおこなっている状態。
●1点…「全介助」
対象とする生活動作のうち、自分でおこなっている割合が25%未満の状態。
「自立度」を評価するのですから、「監視」のように介助者に道具を準備してもらっている様子は「介助(4点以下)」ではないか?と考えてしまうのですが、動作前の「自助具や補装具の準備」「見守り」にあたる場面については、動作の「介助(4点以下)」と解釈しないルールが適用されるため注意が必要です。4点以下となるのは、採点場面において介助者が「手で触れていたか?」「その負担量は?」を見て判断します。
FIMでは、「どこからどの場面」の動作を採点するか「定義」づけがされていますので、まずはその定義を確認することが肝要です。また、階段昇降や認知項目に関しては、動作項目とはまた異なった解釈や特別なルールが適用されるため、「定義」で何を採点するのか確認し、判断基準となるキーワードを把握したうえで採点に臨むことをおすすめします。
[出典・参照]
日常生活動作(ADL)の指標 FIMの概要 – 厚生労働省
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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