COPDの症状やリハビリテーションについて
公開日:2022.11.04 更新日:2022.11.07
文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
COPDとは?
COPD(慢性閉塞性肺疾患:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、高齢の男性に多い慢性呼吸器疾患のひとつです。徐々に進行し、息切れや咳嗽、喀痰などの症状が認められます。有害物質が含まれる空気を吸うことで発症しますが、代表的な原因は喫煙で、別名「たばこ病」ともいわれ、たばこと関係の深い病気です。有害物質によって気管支や肺胞に炎症が起こります。気管の炎症により咳嗽や痰などが慢性的に認められるようになり、肺胞の炎症によりは肺胞の壁も破壊されていき、酸素の取り込みが障害されます。このように気管支と肺胞に問題があり、これらの状態の総称がCOPDです。
COPDの改善には、禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーション、セルフマネジメント、栄養指導などが大切です。
COPDの定義と病型
COPDは、「たばこ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与している。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある。」と定義されています(日本呼吸器学会、COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第5版 2018、メディカルレビュー社)
COPDの病型は、気腫性病変と末梢性病変がさまざまな割合で複合して作用するため、気腫型と非気腫型があり、その関与の割合は個人間で連続性に分布しています(表1)。COPDは慢性気管支炎や肺気腫と同義ではなく、COPDとは診断されない慢性気管支炎や肺気腫もあります。
表1 COPDの病型
COPDの管理と治療
COPDの患者は高齢者に多く、2017年の厚生労働省による患者調査の概況では、男性が約15万4千人、女性が約6万6千人と男性に多くなっています。2021年の人口動態統計では、COPDで死亡した人数は16,384人で、男性では死因の9位でした。一方で、2004年に報告されたNICE study(Fukuchi Y, et al.: COPD in Japan: the Nippon COPD Epidemiology study. Respirology 9: 458-465, 2004)の結果では、約530 万人がCOPDの患者と推定されており、診断や治療がされてない患者が多く存在するといわれています。
COPDが進行すると生命予後は悪化しますが、適切な時期に、適切な管理をおこなえば、予後の改善は十分に期待できます。
COPDの治療は、まず禁煙です。症状を緩和するための薬物療法として、気管支拡張薬、ステロイド薬、去痰薬、抗菌薬などが使用されます。
COPDが進行すると、息苦しさが強くなり、低酸素血症となり、日常生活も制限されるようなります。その場合には、在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy: HOT)が実施されます。また、呼吸練習や運動療法などの呼吸リハビリテーション、栄養指導もおこなわれます。薬物療法等がすでにおこなわれている状態で、呼吸困難が日常生活に支障をきたしている場合には、肺容量減量手術などの外科治療が有効な場合もあります。
《問題》COPD について正しいのはどれか。
【【理学療法士】第56回 午前93
COPD について正しいのはどれか。
<選択肢>
- 1. 肺癌を合併することは稀である。
- 2. 安静時エネルギー消費量が減少している。
- 3. 増悪時の補助換気療法は非侵襲的陽圧換気が用いられる。
- 4. 呼吸リハビリテーションを行っても抑うつ・不安の改善は得られない。
- 5. COPD assessment testは点数が高いほど QOL が高いことを示す。
解答と解説
正解:3
COPDの症状やリハビリテーションなどについて解説します。
(1)COPDの合併症・併存症
COPDの主な合併症は、喘息、肺癌、気腫合併肺線維症です。特に肺癌の合併リスクが高く、COPDに合併した肺癌では、治療が困難となることがあるため、早期発見が重要です。
喫煙や加齢に伴う併存症が多く認められ(表2)、予後やQOLの低下に影響します。
表2 COPDの主な併存症
(2)COPDの症状
COPDの主な症状には、呼吸に関する咳や痰など、体重減少や低栄養、低酸素血症に関連した症状などを認めます(表3)。特に、気流閉塞や肺過膨張による呼吸筋酸素消費の増加により、安静時エネルギー消費量は増加します。
表3 COPDの主な症状
(3)COPDの増悪期の管理
息切れの増加や、咳や痰の増加、胸部の不快感の増強などを生じて、安定期の治療の変更が必要となる状態が増悪期です。増悪の原因の多くは呼吸器感染症と大気汚染ですが、原因が特定できない場合もあります。増悪はQOLや呼吸機能を低下させ、生命予後も悪化させます。
薬物療法や酸素療法がおこなわれますが、それらによって呼吸状態が改善しない場合には、換気補助療法が適応となります。その際の第1選択がNPPV(非侵襲的陽圧換気:noninvasive intermittent positive pressure ventilation)です。気道確保が必要な場合には、IPPV(侵襲的陽圧換気:invasive positive pressure ventilation)が適応となります。
(4)呼吸リハビリテーション
筋力トレーニングなどの運動療法、呼吸練習、リラクセーション、ストレッチングなどの呼吸リハビリテーションがおこなわれます。その主な効果としては、呼吸に関連した効果、筋力や運動耐容能などの効果、ADLやQOLの改善などに加えて、不安や抑うつの改善も期待されます(表4)。
表4 呼吸リハビリテーションに期待される主な効果
(5)COPDに用いられる疾患特異的QOL質問票
St. George’s Respiratory Questionnaires (SRGRQ)、 Chronic Respiratory Disease Questionnaires (CRQ)、COPD Assessment Test (CAT)などが用いられています。
CATは、COPDの日常生活への影響を測定する評価で、咳症状、痰の有無、胸部絞扼感、息切れ、生活への影響、外出、睡眠、元気さの8項目で、各項目0-5点の合計点数が0-40点に分布し、点数が高いほど、QOLが低いことを示します。
COPDとは?
呼吸リハビリテーションの方法や有効性などについて、呼吸リハビリテーションに関するステートメントが公開されています(3学会合同呼吸リハビリテーションに関するステートメントワーキンググループ:呼吸リハビリテーションに関するステートメント、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 27(2):95-114、2018)。
その主な内容は、以下の通りです。
・呼吸リハビリテーションの概要、定義
・患者選択・評価
・運動療法とプログラム構成
・病気別の呼吸リハビリテーション
・病態別の呼吸リハビリテーション
・セルフマネジメント教育
・栄養療法
・身体活動性
・プログラム管理
病態別の呼吸リハビリテーションの項目で、COPDも取り上げられています。COPDに対する運動療法では、全身持久力、筋力トレーニング、吸気筋力トレーニングが推奨され、通常、開始から6~8週で効果が生じ、監視下のプログラムは週2回以上が推奨されています。
また、身体活動性の重要性も示されており、COPDにおいては、身体活動性が運動耐容能よりも生命予後との関係が深く、身体活動性の向上と維持が管理目標の重要な柱であると提言されています。これらを念頭に置き、臨床に活かしていくと良いでしょう。
[出典・参照]
一般社団法人日本呼吸器学会「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2018[第5版]」
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸理学療法学会,日本呼吸器学会「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」
臼田 滋
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。
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