作業療法士が知っておきたい「義肢・装具」の基礎知識
公開日:2022.11.11
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
「両手の使用」はADL自立の基本
ADLの概念は、1940年代に米国の医師 G.G.Deaverと理学療法士のM.E.Brownが確立したものです。1945年に共著において、「可能な限りの両手の使用」をADL自立の定義に挙げました。このことからもわかるように、両手の使用は、私たちが日常生活を自立させるうえで最も大切な身体構造のひとつです。ものをつかんだり、操作したりするだけではなく、他者と交流する際の身振り・手振りやものの触り心地を感ずる役割など、生命を充実させるうえでも両手の存在は欠かせません。
義肢・装具には作業療法士の評価・介入が不可欠
上肢の切断(四肢の一部:骨格部が切離されたもの)・離断(関節部で切離されたもの)に対して処方される義肢・装具。個々の生活のなかで意味を持たせられるよう、作業療法士ならではの評価・介入が求められます。切断・離断の原因には、骨折や熱傷などの外傷だけではなく、末梢神経障害やがん、先天性疾患などさまざまな原因があるため、それぞれの疾患による心身への影響も加味したうえで、使いやすく快適に装着し続けられるよう、コーディネートする必要があるでしょう。
義肢・装具に関し作業療法士の国家試験では、以下のような問題が出題さています。
《問題》能動義手製作のために選択する肘継手として最も適切なのはどれか。
【作業療法士】第56回 午後 5
32歳の男性。左利き。交通事故により右上腕切断となった。断端長は10.0cmで、残存肢の上腕長は25.0cmであった。
能動義手製作のために選択する肘継手として最も適切なのはどれか。
<選択肢>
- 1. 軟性たわみ式継手
- 2. 倍動肘ヒンジ継手
- 3. 能動単軸肘ヒンジ継手
- 4. 遊動単軸肘ヒンジ継手
- 5. 能動単軸肘ブロック継手
解答と解説
正解:5
切断された上肢の形態および機能を補完することを目的とした義肢を「義手」と呼びます。問題文中の「継手」とは、義手の肩関節・肘関節・手関節などの関節機能の代替えとなる部品を指します。
義手の名称は切断の部位によって分けられます。この症例の場合、断端の長さは10cmであり、残存肢の長さに対する割合は40%(10/25×100)であるため、「上腕短断端」に分類されます。
上腕短断端には、コントロールケーブルを有する義手を選択することが多く、肘コントロールケーブルを能動的に操作することにより肘屈曲の固定と解除を意図的に繰り返すことができる「能動単軸肘ブロック継手」が多く用いられます。
「軟性たわみ式継手」は、ばねやコイル式になっており、自由に曲げ伸ばしができるもので、主に前腕義手に用いられます。
「倍動肘ヒンジ継手」は、前腕部とスプリットソケットを別に連結して断端の屈曲運動で継手運動が2倍になるもので、前腕極短断端や肘屈曲の制限がある場合に用いられます。
「能動単軸肘ヒンジ継手」は、コントロールケーブルを有する義手に多く用いられており、肘コントロールケーブルによって肘屈曲の固定と解除を行うことができるもの。上腕標準断端、肘関節離断に用いられます。
「遊動単軸肘ヒンジ継手」は、前腕義手に用いられます。
《切断レベルによる義手の分類》
断端長(肩峰~断端末端)/残存肢長×100(%)
0~30% | 「肩関節離断」 |
---|---|
30~50% | 「上腕短断端」 |
50~90% | 「上腕標準断端(長断端」 |
90~100% | 「肘関節離断」 |
「両手の使用」はADL自立の基本
実務での活かし方
作業療法では、こうした部品や構造に関する知識はもちろんのこと、どのような生活場面で義手を必要としているのかを把握し、対象者の生活に意味のあるものになるよう援助しなければなりません。場面によって能動義手ではなく装飾義手に切り替えるなど、義手に対する違和感や嫌悪感が生じないように働きかける必要があるでしょう。
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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