外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害
公開日:2022.11.18 更新日:2022.11.28
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
本記事の概要
今回取り上げる過去問は「外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害」です。交通事故や転倒・転落などにより脳外傷を認めると、「文脈を踏まえた適切な話し方ができない」「相手の話の真意を把握できない」などの特徴がある「外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害」を認めことがあります。
実際の臨床場面では、外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害に対しどのように評価し、介入していくのでしょうか。今回は、実際の臨床場面における外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害への対応について紹介していきます。
《問題》外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害の特徴はどれか。
【言語聴覚士】第23回 第161問
外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害の特徴はどれか
<選択肢>
- a. 場面にふさわしい話題を選択できない
- b. ナラティブの基底(意味)構造の処理が保たれる
- c. 話し手と聞き手の役割を適切に交代できる
- d. 相手の発話意図や言外の意味を推論できない
- e. 注意障害や遂行機能が関与する
- 1. a,b,c
- 2. a,b,e
- 3. a,d,e
- 4. b,c,d
- 5. c,d,e
解答と解説
正解:3
b.の「基底構造」とは文章に表現される意味の構造を指し、文章の意味に加えて文と文のつながりを推論して得られる意味によって構成されます。外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害では、これらが困難になります。
また、外傷性脳損傷後のコミュニケーション障害においては、語用論的な問題が中心であるため、c.の「話し手と聞き手の役割を適切に交代できる」のような会話における役割交代が困難になることがあります。
したがって解答は、b.とc.をのぞいたになります。
実務での活かし方~外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害への対応~
それでは、実際の臨床では「外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害」について、どのように考え対応していくのか、解説していきましょう。
(1)外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害の症状
外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害の症状について押さえていきましょう。
コミュニケーションには注意、記憶、遂行機能、推論、ワーキングメモリー、発動性、抑制、感情、心の理論などの認知機能が関与します。外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害は、これらの認知機能の低下が背景にあると考えられています。
コミュニケーション障害の特徴は語用論的機能の障害が中心です。具体的には、部屋の温度が高いときに「暑いですね」と言えば「窓を開けましょう」のように応答するところを、「部屋が暑い」という字義通りの意味を受け取ってしまい、窓を開けてほしいという発話意図を理解できないことが挙げられます。また、会話場面においては、話し手と聞き手の役割交代が出来ない、内容の一貫性が乏しい、順序立てて話すことができない、話が冗長であるなどの特徴があります。
(2)外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害の評価と介入
それでは、実際の臨床では外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害に対して、どのように介入にしていくのでしょうか。評価と介入について解説していきます。
●評価
・机上検査
外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害に対しては、標準化された包括的な検査方法はありません。談話の評価をおこなうために、「標準失語症補助検査(SLTA-ST)」のまんがの説明課題や「WAB失語症検査」の情景画などを用いて評価をおこないます。また、推論を必要とする文章の理解や発話、物語の説明をおこないます。
外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害は、注意障害や遂行機能障害などの認知機能障害が背景にあることから、「標準注意検査法(CAT)」、「標準意欲評価法(CAS)」や「遂行機能症候群の行動評価(BADS)」などの評価を実施することが重要です。
・行動評価
会話場面でのやりとりから評価をおこなうことが重要です。また、症状の特性から病棟生活でのトラブルに発展することもあり、病棟スタッフなどの関連職種やご家族からコミュニケーションに関した情報収集をおこなうことも重要な評価の視点になります。
●介入
コミュニケーションへの介入として、会話訓練や談話課題を実施します。会話訓練では、自分の会話の問題点と適切な会話の進め方について話し合い、実際の会話において具体的に指導をしていきます。談話課題ではナラティブや手続きの説明において、発話意図に沿った命題の生成、推論による言外の意味の確認などをおこないます。
また、外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害は認知機能障害が背景にあることから、注意機能や遂行機能の改善に向けた課題を実施することも重要です。
まとめ
外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害について、実際の臨床場面での評価や介入を中心に解説しました。外傷性脳損傷後に生じるコミュニケーション障害は、機能障害が背景にあるため、これらの評価結果などと照らし合わせ問題点を整理し評価・介入をおこなうことが重要になります。
また、症状の特徴上、日常生活上のトラブルにもつながることがあります。机上での介入だけでなく、関連職種と連携し日常生活への介入をおこなっていくことが重要です。
[出典・参照]
藤田郁代ら.標準言語聴覚障害学 高次脳機能障害学.医学書院,2021

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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