急性期リハにおける失語症への介入のポイント
公開日:2023.04.05 更新日:2023.04.07
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
今回の記事の概要
今回取り上げる過去問のテーマは、急性期リハにおける失語症への介入についてです。現在のリハビリテーションは、急性期、回復期、生活期に分類されることが多く、失語症のリハビリテーションについてもこの流れにしたがって実施されます。
失語症のリハビリテーションの目的は、「失語症者が自分らしい最善の生活を構築すること」。
これは急性期、回復期、生活期で共通していますが、それぞれの期において臨床の目的や訓練内容が異なることがあります。
今回は、急性期リハにおける失語症への介入のポイントについて解説していきます。
《問題》急性期の重度失語症患者への訓練・援助として優先度が低いのはどれか。
【言語聴覚士】第21回 第159問
急性期の重度失語症患者への訓練・援助として優先度が低いのはどれか。
<選択肢>
- 1. 転機先検討に向けた予後予測
- 2. コミュニケーション手段の確保
- 3. まとまった内容の正確な発話訓練
- 4. 関連職種との情報共有
- 5. 言語・コミュニケーション状態についての家族への情報提供
解答と解説
正解:3
急性期リハとは救急医療をおこなう病院で発症直後から提供されるリハビリテーションのことです。
急性期は病状が不安定であり、リスク管理に留意しながらリハビリテーションを実施します。急性期リハにおける失語症への介入では、予後の予測やコミュニケーション手段の確立をおこなうことが重要です。そのため、今回の設問では、「1,2,4,5」についてはどれも正しい記述になりますが、「3」については誤りになります。
実務での活かし方~急性期リハにおける失語症への介入~
急性期リハにおける失語症への介入のポイントについて、今回は以下の3つの観点から解説していきます。
(1)急性期リハにおける失語症の評価
急性期リハにおける失語症の評価で重要なことは、現在のコミュニケーション能力と使用できるコミュニケーション方法を理解し、意思伝達の方法を確立する手がかりを得ることにあります。
発症直後は全身状態が不安定で疲労しやすいため、ベッドサイドでスクリーニング検査や会話評価をおこない、実用的なコミュニケーション能力について評価することがあります。
この時期には意識障害を合併することが多く、正確に失語症のタイプや重症度を把握することは容易ではありません。また、意識障害が重度であれば摂食嚥下障害を認めることもあり、これらの評価や介入をおこなうことがあります。
また、予後を予測して、どのような生活を営むことが可能であるか評価することが重要です。近年の研究では、失語症の予後には、年齢、初期の失語症の重症度、失語タイプ、病巣の位置、病巣の大きさ、脳卒中の重症度、音韻機能、非言語機能などが予後に影響することが明らかになっています。
(2)急性期リハにおける失語症の訓練
急性期リハにおける失語症の訓練では、言語機能の回復、実用的コミュニケーションの向上、コミュニケーション環境の整備、心理的サポートなどついて介入します。
急性期は失語症の急激な回復が認められることが特徴であり、言語機能の変化について追跡していくことが重要です。しかし、前述したようにこの時期は意識障害を認め、耐久性が低く疲労しやすいため、課題の負荷を調節する必要があります。
急性期の失語症者は病識が薄く、心理的に不安的になりやすいため、心理的なサポートをおこなうことが重要です。
(3)関連職種・家族との関わり
急性期の失語症へのリハビリテーションでは、効率的にコミュニケーションがとれる方法を確立することが重要であると解説しました。失語症者が効率的にコミュニケーションをとるには、家族や医療スタッフなどがその方法を習得し、使用できるようになる必要があります。また、書字や描画など代償手段を使用するために物品をそろえるなど、環境調整をおこなうことが重要です。
家族に対しては、失語症や今後の見通しについて説明し、現在の状況を前向きに受け止めてもらえるよう支援する必要があります。
関連職種に対しては、さらなるリハビリテーションによって症状の改善が期待できる場合には、回復期リハビリテーション病棟へ転院できるよう、予後予測の結果を主治医やMSW(医療ソーシャルワーカー)と共有することが重要です。
まとめ
急性期リハにおける失語症への介入について解説しました。急性期では、リスク管理をおこないながら、実用的なコミュニケーション手段を確立し、予後の予測をおこなうことが重要です。また、急性期には失語症の急激な回復を認めるため、変化を追跡していくことも欠かせません。
「失語症者が自分らしい最善の生活を構築すること」を支援していくため、回復期、生活期のリハビリテーションへとつなげていくイメージを持つようにしましょう。
近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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