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全身持久力トレーニングの中止基準~修正ボルグスケール・mMRC息切れスケールを表で解説~

公開日:2023.05.25 更新日:2023.09.13

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文:臼田 滋(理学療法士)
群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授

運動の効用とリスク

全身持久力トレーニング、いわゆる有酸素運動は、日常的に運動をおこなうことで、身体の代謝、体力、心理面などに多くの利益をもたらします。健常者や多くの患者さんが適応であり、習慣的に実施されています。一方で、状態が不安定な患者さんにとって、過度な運動はリスクになる場合も。安全に運動へ参加するためには、運動を始める前のスクリーニングや運動中のモニタリングなどが必要であり、運動の中止基準の理解が重要です。

筋痛や筋骨格系の傷害などの比較的軽いリスクの他、心臓突然死や心筋梗塞などのリスクが高まることが問題です。健康な若年者であっても、突然、激しい運動をおこなうことで、心筋梗塞などのリスクが、急性かつ一時的に高まります。心疾患などを有する患者や高齢者などは、運動によって心血管イベントの発生リスクがより高まります。

運動におけるリスク因子

一般的には、運動に参加する前にスクリーニングをおこない、リスクの高さを確認して、層別化をおこないます。そのリスクの程度によって、専門家による運動監視の必要性を判断します。
また、運動中に心拍数などのバイタルサインのモニタリングをおこない、ある状態になった場合には、運動を中止します。

リスクの層別化は、以下の3つに分類します。

・低リスク:表1のリスク因子が1個以下で無症状
・中等度リスク:表1のリスク因子が1個以上で無症状
・高リスク:心血管疾患、呼吸器疾患、代謝系疾患の診断で表2の症状が1個以上

低リスクの人は運動中の監視の必要がなく、中等度リスクおよび高リスクで病態が安定している人は運動専門家による監視が必要であり、高リスクの人は臨床的な監視が必要です。
(American College of Sports Medicine編:運動処方の指針 第8版、南江堂、2011より)

表1 主な動脈硬化性心血管疾患リスク因子
表1 主な動脈硬化性心血管疾患リスク因子

表2 心血管疾患、呼吸器疾患、代謝系疾患を疑う主な症状
表2 心血管疾患、呼吸器疾患、代謝系疾患を疑う主な症状

リハビリテーションの中止基準

これらは主に心血管疾患のリスクですが、より幅広く、全身状態の悪化を想定したリハビリテーションの中止基準も日本リハビリテーション医学会で示されています。
(日本リハビリテーション医学会編:リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン、医歯薬出版、2006より)

積極的なリハビリテーションを実施しない場合は、以下の通りです。
(1)安静時脈拍40/分以下または120/分以上
(2)安静時収縮期血圧70mmHg以下または200mmHg以上
(3)安静時拡張期血圧120mmHg以上
(4)労作性狭心症
(5)心房細動で著しい徐脈または頻脈
(6)心筋梗塞発症直後で循環動態が不良
(7)著しい不整脈
(8)安静時胸痛
(9)リハビリテーション実施前に動悸・息切れ・胸痛
(10)座位でめまい、冷や汗、嘔気等
(11)安静時体温38℃以上
(12)安静時酸素飽和度(SpO2)90%以下

途中でリハビリテーションを中止する場合は、以下の通りです。
(1)中等度以上の呼吸困難、めまい、嘔気、今日心痛、頭痛、強い疲労感等
(2)脈拍が140/分を超えた場合
(3)運動時収縮期血圧が40mmHg以上、または拡張期血圧が20mmHg以上上昇
(4)頻呼吸(30回/分以上)、息切れ
(5)不整脈が増加
(6)徐脈の出現
(7)意識状態の悪化

理学療法士国家試験の過去問題から、間質性肺炎患者における全身持久力トレーニングの中止すべき状態について、解説します。

《問題》全身持久力トレーニングを行う場合、トレーニングを中止すべき状態はどれか。

【理学療法士】第57回 午前18
65 歳の男性。間質性肺炎。労作時呼吸困難、咳を主訴に来院した。3年前から歩行時の呼吸困難が増悪した。1か月前から咳、労作時の呼吸困難の悪化を認め入院と なった。入院時、心電図は洞調律。血液検査では CRP 3.1 mg/dL(基準値:0.3 mg/dL 未満)、KL-6 790 U/mL(基準値 500 U/mL 未満)であった。
理学療法評価では、mMRC息切れスケールはグレード3。筋力はMMT上下肢4、6分間歩行テストは200mであった。

全身持久力トレーニングをおこなう場合、トレーニングを中止すべき状態はどれか。2つ選べ。
トレーニング前の所見は、血圧 120/65 mmHg、心拍数 85/分、呼吸数 19 回/分、 SpO2 96 %、修正Borg Scale 3であった。

表3
表3

解答と解説

正解:1と4

(1)間質性肺炎とは
肺は小さな袋である肺胞の集まりです。肺胞の壁に炎症や損傷が生じ、壁が繊維化(厚く、硬くなる)し、酸素を取り込みにくくなった状態が「間質性肺炎(interstitial pneumonia : IP)」です。「肺線維症」とも呼ばれます。ウイルス感染などの感染、関節リウマチなどの膠原病、放射線の被曝、抗がん剤などの薬剤性など様々な原因で発症しますが、明確な原因を特定できないものを「特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias: IIPs)」といいます。IIPsは臨床病型や組織のタイプにより、主要な6病型、稀な2病型および分類不能型に分類されます。

軽症の場合は無症状ですが、病状の進行に伴って代表的な症状である咳が認められます。痰を伴わない乾性咳嗽が特徴です。労作時の息切れも認められ、進行に伴い、安静時の呼吸困難も出現し、低酸素血症、呼吸不全に至ります。
病型により治療は異なり、反応も異なります。一般的には薬物療法とリハビリテーションがおこなわれます。呼吸不全となった症例に対しては、酸素療法や人工呼吸器の導入も必要となり、根治的な治療として肺移植が選択されることもあります。

(2)血液検査所見
CRP(C反応性蛋白:C-reactive protein)は、炎症反応や組織の破壊が生じているときに血中に現れる、急性期反応タンパクの一つです。マクロファージとT細胞からのIL-6の分泌によって肝臓や脂肪細胞から分泌されます。CRPの量は炎症反応の強さと相関するため、炎症反応の指標として用いられています。軽度な炎症では0.4から0.9、中等度の炎症で1.0から2.0、中等度以上の炎症で2.0から15.0、重篤な病態で15.0から20.0を示します。今回の過去問の症例は、中等度以上の炎症を示す検査結果です。

KL-6(シリアル化糖鎖抗原KL-6:Sialylated carbohydrate antigen KL-6、Krebs von den Lungen-6)は、 間質性肺炎に特異的な検査値で、間質性肺炎の診断目的で使用され、間質性肺炎の活動性の指標として活用されています。本症例では基準値を超えています。

(3)mMRC息切れスケール
息切れ・呼吸困難感の評価として、我が国ではHugh-Jones分類が使用されることが多かったですが、国外ではMRC息切れスケール(Medical Research Council dyspnea scale)が用いられることが多く、最近は国内でも一般的に用いられることが増えています。多くの修正版が報告されており、段階付けが異なる場合もあり、使用する際には注意が必要です。GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)2011日本語版に掲載されている修正版を表に示しました。

表4 息切れの重症度を判定するための修正MRC
表4 息切れの重症度を判定するための修正MRC

(4)修正ボルグスケール
Borg CR-10(Category-Ratio 10)スケールともいわれ、呼吸困難の主観的な程度を定量的に評価する際に使用されます。一般に、呼吸循環機能のトレーニング効果や血中乳酸蓄積閾値は修正Borg Scaleの4~5で現れるとされていますが、非監視下での運動では、一般に3~4での強度がより安全で効果的とされています。併せて酸素飽和度(SpO2)を測定することが、より安全です。また、下肢の疲労等の訴えを反映することも多いため、評価する際には、どの部分の主観的な大変さなのかを確認する必要があります。

表5 修正ボルグスケール
表5 修正Borg Scale

(5)呼吸器疾患安定期における運動療法の中止基準
一般的な中止基準を表に示しました。 (日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、他、編:呼吸リハビリテーションマニュアル ー運動療法ー 第2版、照林社、2012より)
修正Borg Scaleが7以上となった場合や、めまい、動悸などの症状が出現したら、直ちに運動を中止します。運動に関わる下肢の筋疲労などはある程度出現しても、臨床的に判断し、大きな問題がなければ、運動を継続します。
また、運動により心拍数や呼吸数、血圧はある程度増加することが通常ですが、特に心拍数や血圧が明らかに低下した場合には、運動を中止します。心拍数が過度に増加した場合も危険であり、心拍数が年齢別最大心拍数の85%を超えた場合には、運動を中止します。本症例の男性は65歳ですので、年齢別最大心拍数の85%は131.8です。

表6 呼吸器疾患安定期における運動療法の中止基準
表6 呼吸器疾患安定期における運動療法の中止基準

実務での活かし方

失行はいろいろな種類があり、症状も複雑で、その現象を理解しにくい面がありますが、同様に、介入についても難渋することが少なくありません。脳卒中の場合、症状としては一時的で、経過とともに軽快することもあり多くの呼吸器疾患の患者は運動療法の適応となります。
標準的な治療による症状が安定し、運動中の危険が増大するような合併症、併存疾患を認める場合には、運動療法の適応になりません。
主な運動療法の禁忌は、
・不安定狭心症、発症から間もない心筋梗塞などの心疾患
・コントロールされていない高血圧
・急性全身性疾患や発熱
・重篤な肝、腎機能障害
・運動の妨げとなる重篤な整形外科疾患
などであり、個別的に主治医と適応、禁忌についての確認が必要です。

運動療法プログラムは、ウォームアップ、主運動、クールダウンで構成され、主運動は主に全身持久力トレーニングと筋力トレーニングです。
全身持久力トレーニングは、下肢と上肢を使用する運動があり、下肢の運動は必須とし、症例の状態によって上肢の運動も加えることがあります。
運動時間は5分程度から開始し、徐々に時間を延長して20分以上はおこないます。頻度は、連日または週3回以上が望ましく、6~8週間以上の継続が求められます。

下肢の運動の主な種類は、平地歩行、自転車エルゴメーター、トレッドミルなどです。階段昇降や踏み台昇降などもおこなわれることがありますが、下肢の筋力トレーニングの要素を含むため、負荷が過剰となる可能性があり、注意が必要です。
監視下での運動は、施設へ通う必要がありますが、非監視下で運動が可能な場合には、自宅での運動の継続も推奨できます。
ただし、運動前後や運動中のバイタルサインのモニタリングが必要であり、特にパルスオキシメーターは安価で購入できます。自宅にも用意してもらうようにしましょう。

[出典・参照]
American College of Sports Medicine編:運動処方の指針 第8版、南江堂、2011
日本リハビリテーション医学会編:リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン、医歯薬出版、2006
GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)2011日本語版
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会、他、編:呼吸リハビリテーションマニュアル ー運動療法ー 第2版、照林社、2012

 

臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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