【失語症臨床】発話の流暢性評価はどう役立てる?
公開日:2023.06.23 更新日:2023.06.26
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
本記事の概要
今回取り上げる過去問のテーマは、失語症臨床における流暢性の評価です。
Boston学派によると、失語症のタイプは「流暢性失語」と「非流暢性失語」に分類され、前方病変では非流暢性失語、後方病変では流暢性失語が出現すると考えられています。
しかし、実際の臨床では流暢・非流暢に分類することが困難な症例に出会うことは珍しくありません。画像診断が発達した現代においては流暢/非流暢、前方病変/後方病変の二分法では分類できないといった批判があります。そこで今回は、失語症臨床における流暢性の評価について解説していきます。
《問題》流暢性失語でみられないのはどれか。
【言語聴覚士】第23回 第160問
流暢性失語でみられないのはどれか。
<選択肢>
- a.錯語
- b.喚語困難
- c.ぎこちない発音
- d.発話の長さの短縮
- e.文法的複雑さの制限
- 1. a,b,c
- 2. a,b,e
- 3. a,d,e
- 4. b,c,d
- 5. c,d,e
解答と解説
正解:5
Boston学派によると、失語症は「流暢性失語」と「非流暢性失語」に分類できるとしています。
非流暢性失語とは、発話量が少なく、発話が遅く努力性で、文が短くたどたどしい発話を特徴とする失語群。ブローカ失語や超皮質性運動失語がこれに該当します。
一方、流暢性失語とは発話量が減少せず、正常の長さの文を発し、構音も明瞭であるが錯語が多い流暢な発話を特徴とする失語群。ウェルニッケ失語や超皮質性感覚失語がこれに該当します。今回の設問では、「c,d,e」は非流暢性失語の特徴であり、流暢性失語ではみられませんので誤りになります。
実務での活かし方~失語症臨床における流暢性の評価~
失語症臨床における流暢性の評価について解説していきます。(1)Boston学派による流暢性の評価 (2)流暢性の評価に対する批判 (3)流暢性の評価の臨床的な意義について、それぞれ解説していきます。
(1)Boston学派による流暢性の評価
Boston学派による流暢性の評価では、流暢な発話の特徴として、以下のように挙げています。
1.発話量が豊富
2.構音・プロソディが正常
3.句の長さが長い
4.文法的に変化に富んだ文を発する
5.発話量や滑らかさに対して情報量が少ない傾向にある
一方で、非流暢な発話の特徴としては、以下のように挙げています。
1.発話量が少ない
2.努力性を伴う構音・プロソディの障害
3.文法的形態が乏しく語や短い句のみがみられる
4.少ない発話は情報のある言葉のみから構成される傾向にある
発話の流暢性の判定には、ボストン失語症診断検査の「話し言葉の特徴に関する評価プロフィール」が用いられます。この尺度は、1.メロディ 2.句の長さ 3.構音能力 4.文法的形態 5.会話中の錯語 6.喚語について、7段階で評価をしていきます。
(2)流暢性の評価に対する批判
立てることができるなど、臨床的意味合いも大きく、現在の臨床においても広く活用されています。しかし、画像診断が発達した現代においては、失語症を流暢・非流暢の二つに分類することへの批判があります。
理由は、前方病変により超皮質性感覚失語症をきたす症例が存在することや、「発語失行あり=非流暢失語」と評価することで、中心前回を含まない多くの前方病変による失語症が流暢性失語に分類されてしまうことによります。
また、流暢性の評価は複数の障害水準がひとつの尺度に影響を与える可能性があることも、指摘されています。例えば、流暢性評価の項目のひとつに「句の長さ」がありますが、句の長さには,音声学的病理と言語学的病理の両者が影響する可能性があります。このように、現代においては流暢性の評価に対して批判的な意見もみられています。
(3)流暢性評価の臨床的な意義
発話の流暢性の判定は、ボストン失語症診断検査の「話し言葉の特徴に関する評価プロフィール」の6項目について7段階で評価します。しかし、流暢・非流暢の評価には先述のような批判があります。
それでは、実際の臨床ではどのようにこの評価を活用していくのでしょうか。
流暢性の評価の臨床的な意義には、「流暢なのか非流暢なのか」について判定することを目的とするのではなく、各項目のコントラストや全体像を評価し、訓練の手がかりを得ることに意義があると考えられています。例えば、「発話量は乏しいにもかかわらず,構音の異常は認められない」例に対しては,喚語能力や文作成能力など,発語量が乏しい要因を探るための言語機能面への精査や介入が必要であると考えます。
まとめ
失語症臨床における流暢性の評価について解説しました。流暢性の評価は、発話症状から損傷部位を推定することができることや、失語症の下位分類に役立てることができることから古くから活用されていました。しかし、画像診断が発達した現在においては流暢性の評価に対する批判的な意見もあります。そのため、実際の臨床において流暢性の評価は「流暢か非流暢か」を判定することではなく、各項目のコントラストや全体像を評価し、訓練の手がかりを得ることに意義があると考えられています。
[出典・参照]
藤田郁代ら.標準言語聴覚障害学 失語症学 第3版.医学書院,2021
松田実.前方病巣による非流暢性失語.神経心理学 2018;34:29-37.
伊澤幸洋ら.訓練法を立案する立場からみた流暢性の諸問題. 神経心理学 2018;34:16-28.
高倉祐樹ら.失構音/発語失行 失構音の下位分類の精錬にむけて. 神経心理学 2018;34:38-44.

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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