「レビー小体型認知症」の作業療法のポイント
公開日:2023.09.01 更新日:2023.09.13
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
「認知症」の種類と特徴
大脳と脳幹の神経細胞脱落とレビー小体の出現を特徴とする「レビー小体型認知症」。発症初期における記憶障害は比較的軽いものの、注意障害をはじめとした認知機能障害や幻覚・幻視、パーキンソニズムや睡眠行動障害などさまざまな問題が、対象者やその家族の心身と日常生活に負担を与えます。
認知症を引き起こす原因となる疾患は、以下の3つに大別されます。
(1)何らかの原因により脳の神経細胞が徐々に失われる神経変性疾患(アルツハイマー型認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症)
(2)脳梗塞や脳出血をはじめとした脳血管障害
(3)その他の疾患(内分泌・代謝性中毒性疾患、感染症、外傷性脳損傷など)
1つの疾患が原因となって認知症を発症するケースもあれば、時間の経過とともに別の行動特性が明らかになることによって、別の疾患が原因とわかるケースもしばしばです。
原因によって対象者の中核的な症状や経過もそれぞれ異なります。認知症のなかで最も多いアルツハイマー型認知症では、発症早期の段階から記名力障害や見当識障害がゆっくりと現れますが、前頭側頭型認知症では行動の脱抑制(感情のおもむくまま我が道を行く)、意欲の低下、思いやりや共感の欠如、常同行動等が現れるとされています。
作業療法士の国家試験では、認知症の中核的な症状に関して以下のような問いが出題されています。
《問題》レビー小体型認知症の患者にみられる特徴はどれか
【作業療法士】第57回 午前 17
68歳の男性。半年前から睡眠中に奇声をあげたり、気分が沈みがちになることがあった。次第に物忘れや立ちくらみ、手の震えが出現した。最近、「玄関に小人が立っている」と言うことが増えたため、家族に付き添われて精神科病院に入院し、作業療法が開始された。
この患者にみられる特徴はどれか。2つ選べ。
- 1. 動きが緩慢になる。
- 2. 症状が変動しやすい。
- 3. 毎食のメニューにこだわる。
- 4. 周囲に対し一方的な要求をする。
- 5. 環境からの刺激を受けても集中できる。
解答と解説
正解:1.2
問題文中の男性は、認知症のなかでもレビー小体型認知症であると考えられます。
レビー小体型認知症では、具体的ではっきりとした内容の幻視の訴え、パーキンソンニズムが見られるほか、注意や覚醒度に日内変動が見られたり、レム睡眠行動障害と呼ばれる睡眠障害が見られたりします。
選択肢1〜5のうち、レビー小体型認知症に見られるのは、1.の「動きが緩慢になる」(パーキンソンニズム)と、2.の「症状が変動しやすい」(日内変動)です。
3.の「毎食のメニューにこだわる」(常同行動)、4.の「周囲に対し一方的な要求をする」(脱抑制:我が道をゆく)は、いずれも前頭側頭型認知症に現れやすい症状です。
5.の「環境から刺激を受けても集中できる」(過集中)は、ASDやADHDなどの神経発達症、うつ病、統合失調症、強迫性障害などの精神疾患に見られ、一見、集中力があって良いとみられながらも本人にはその自覚はありません。周囲に合わせて次の行動に切り替えができず、ミスを繰り返しがちになります。
実務での活かし方 ~認知症患者への介入ポイント~
認知症では、原因によって中核的な症状が異なるだけではなく、対象者の生活歴や現在の生活環境によって多様な心理・行動上の問題(BPSD)が現れることがあります。
たとえばアルツハイマー型認知症では、記憶力や見当識の障害などが中核症状として挙げられます。しかし、もの盗られ妄想や徘徊など、日常生活に支障をきたすBPSDは誰にでも生じるわけではなく、その多くは中核症状がもたらす不安や心細さなど、心因的な問題から生じています。BPSDだけを改善しようとしても根本的な解決には至りません。
認知症の対象者への作業療法では、原因に関わらず、対象者の生活環境や家族関係、生い立ちやこれまでの人生など、長い時間の流れを鳥瞰的にとらえることが求められます。背景にどのような誤解や不安があるのかを考えることが、より良い生活環境を整える糸口となるはずです。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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