正しい選択ができていますか? 誤嚥性肺炎予防にも良い摂食嚥下障害の訓練法
公開日:2017.11.17 更新日:2017.11.27
はじめまして、言語聴覚士の津村恒平と申します。
最近、某週刊誌にて誤嚥性肺炎の特集が組まれるなど、摂食嚥下障害に対する社会の注目度が高まっているように思います。実際、摂食嚥下障害の訓練を実施する施設やスタッフは増加しており、摂食嚥下障害の支援体制が充実することは大変良いことだと思います。
しかし、「△△の症状が見られる対象者に○○法を実施したのですが、あまり効果は認められませんでした」といった話を耳にすることがあります。詳細を確認すると、実施した訓練方法が原法と異なりオリジナルでやっていることや、そもそも実施しても効果が低いと考えられるような対象者に実施している場合があります。
対象者の状態に合った適切な訓練方法が選択されないと、リスクの増加や治療期間の延長など、対象者に不利益が生じます。
そこで、今回は「摂食嚥下障害の訓練方法」について解説していきたいと思います。
過去問題【言語聴覚士】
第16回 午前86
誤っている組合せはどれか。
- 1. 咽頭残留 - 頭部挙上訓練
- 2. 鼻腔への逆流 - 舌尖挙上訓練
- 3. 誤嚥物喀出訓練 - 随意的咳訓練
- 4. 嚥下反射惹起低下 - 冷圧刺激法
- 5. 喉頭蓋谷への残留 - 舌根後退運動
解答
正解:2
■解説

鼻腔への逆流が生じる原因として、嚥下時に軟口蓋をうまく持ち上げられない拳上(きょじょう)不全が挙げられます。よって、軟口蓋の拳上を改善させる訓練方法の選択が必要となりますが、「舌尖拳上運動」は最適でしょうか? 舌先拳上運動の改善に伴い、口腔内の食塊形成や送り込み動作の改善、口腔内圧の向上などが考えられますが、軟口蓋の拳上運動への直接的な影響は低いと考えられます。
それでは、軟口蓋の拳上運動の訓練方法としてどのようなものがあるかというと、選択肢の一つとして「ブローイング訓練」があります。この方法はコップに水を入れ、ストローで静かにできるだけ長くぶくぶくと泡立つように息を吹くことで、鼻咽腔閉鎖に関わる神経・筋群の活性化を目指すものです。
しかし、このブローイング訓練はもともと鼻咽腔閉鎖不全に伴う開鼻声や構音の歪みに対して実施されてきた経緯があり、発話以外の機能訓練には効果がないといった報告もあることを理解する必要があります。
その他の選択肢として「軟口蓋拳上装置(Palatal Lift Prosthesis:PLP)を用いた訓練」が挙げられます。この方法は、義歯床あるいは口蓋床の後方に付与した拳上子により物理的に軟口蓋を拳上させ、嚥下時の鼻咽腔閉鎖を図るものです。
以下、他の設問についても解説していきます。「咽頭残留-頭部拳上訓練」は、咽頭残留の原因が喉頭の拳上運動の低下に伴う、咽頭嚥下圧の低下や食道入口部の開大不全である場合は 有効と考えられます。
「誤嚥物喀出訓練-随意的咳訓練」は、誤嚥はもちろん生じない方が良いのですが、誤嚥が生じても誤嚥物が喀出できるように随意的な咳の訓練を実施することは有効と考えられます。
「嚥下反射惹起低下-冷圧刺激法」は、嚥下反射の惹起性を促進させる方法として「冷圧刺激(Thermal-tactile stimulation)」と「のどのアイスマッサージ」があります。両者は使用物品や刺激部位、刺激方法、対象者の適応条件が異なるので注意が必要です。
「喉頭蓋谷への残留-舌根後退運動」は、喉頭蓋谷の残留が舌根の後退運動の低下によって生じているのであれば有効と考えられます。
◆実務での生かし方
摂食嚥下障害の訓練を実施する際に注意すべきポイントがいくつかあります。
一つ目は「症状の把握および原因の理解」です。現れている症状が同じであっても、症状が生じている原因が異なる場合は訓練法も異なります。
2つ目は「各訓練法の理解」です。各訓練法の対象や目的、実施方法を正しく理解し、症状に最適な訓練方法を選択、実施することが重要です。
そして最後3つ目は「リスク管理」です。摂食嚥下障害の訓練は誤嚥や窒息のリスクに対する十分な対応が必要です。対象者の症状を正確に把握し、原因の理解や訓練方法が選択できても、対象者の心身の状態によっては訓練の実施を控えなくてはならない場合があります。よって、訓練実施前の情報収集は非常に重要です。その為には、多くの情報が収集できるように多職種との連携体制の構築も必要になります。
これまで摂食嚥下障害の訓練法について解説してきましたが、各訓練を実施する際の「姿勢」も非常に大切です。対象者によっては、嚥下時のポジショニングを調整することで誤嚥を軽減ないし防止することができます。嚥下障害が重度になるほど床面に対する体幹の角度を90度(垂直座位)よりもリクライニングさせ、床面から60度や30度などにした方が良い傾向があります。しかし、リクライニングさせることで逆に嚥下が悪化するケースもあり、対象者の摂食嚥下機能が最大限に発揮できるような最適な姿勢を設定した上で、摂食嚥下障害の訓練を実施するように心がけましょう。

津村 恒平(つむら こうへい)
2002年 言語聴覚士免許取得。回復期リハビリテーションならびに訪問リハビリテーションに従事。
一般社団法人 東京都言語聴覚士会 理事 地域生活支援局 局長
一般社団法人 日本言語聴覚士協会 医療保険部 部員
東京都言語聴覚士会
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
活動内容や入会のお問い合わせはこちらから。
http://st-toshikai.org/
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