パーキンソン、筋萎縮性側索硬化症…疾患に合った作業療法を選択しよう
公開日:2018.05.18 更新日:2018.05.31
なぜこの作業を行うのか。この作業がどんな結果をもたらし、将来の生活にどうつながっていくのか。私たち作業療法士は、ご本人やご家族、関係するスタッフに対し、それらをわかりやすく伝える責務があります。このプロセスがしっかりと行われるか否かによって、対象者の意欲や健康状態を大きく左右するといっても過言ではありません。もっとも、患者中心の医療やインフォームド・コンセントが求められる昨今の医療・保健・福祉分野においては、作業療法士による治療的行為の根拠・結果の明示が常に求められます。
作業療法士国家試験では、疾患と作業種目の適切な組み合わせを問う選択問題が出題されます。もちろん臨床では、複数の疾患を持ち合わせているケースが少なくありません。そのため、体力や栄養状態、薬剤、生活背景などの影響を個別に配慮し、個々の状況にあわせて作業内容をアレンジする必要があります。疾患の特性や健康状態、リハビリテーションの目的に応じ、適切な作業を選択する行為は、作業療法士が最も得意とする技術の一つとして体得する必要があるでしょう。

過去問題【作業療法士】
第52回 午前31
疾患と作業種目の組合せで適切なのはどれか。
- 1. Parkinson病 ― 毛糸のかぎ針編み
- 2. 関節リウマチ ― タイルモザイク
- 3. 脊髄小脳変性症 ― 彫刻
- 4. 慢性閉塞性肺疾患 ― 木工
- 5. 筋萎縮性側索硬化症 ― パソコン操作
解答
正解:5
■解説
◆パーキンソン(Parkinson)病の特性と作業種目
筋固縮、振戦、動作緩慢・寡動、姿勢反射障害を主な兆候(パーキンソン病の4大兆候)とした運動障害を呈する錐体外路障害。「毛糸のかぎ針編み」といった長時間にわたり同じ姿勢(前屈位)を強いるような作業では、筋緊張が高まりやすいうえに、自らの力で安全・安楽な姿勢に修正することが困難なため不適切と考えられます。パーキンソン病は、時間の経過とともに慢性化し日常生活に全面的な介助が必要となるケースも少なくありません。そのため、近い将来予測される生活機能障害をイメージしながら、関節可動域、筋力などの身体機能の維持・改善、日常生活動作の指導、福祉機器・自助具の提案を行っていくことが大切です。パーキンソン病は、うつや自律神経障害を合併しやすい疾患のため、単に身体機能や動作レベルを診るだけではなく、易疲労性や意欲面への働きかけを意識する方も多いのではないでしょうか。作業療法場面では、座位や立位を適度に取り入れつつ、体幹を大きく使うリズミカルな要素をもった作業が効果的です。
◆関節リウマチの特性と作業種目
関節リウマチは、慢性的に持続する多発関節炎を特徴とする自己免疫疾患です。軟骨や骨の破壊により関節の変形をきたし、辛い痛みに襲われ、生活機能を著しく障害します。また、間質性肺炎や骨粗鬆症など関節以外の疾患を伴うことが多いのも特徴の一つ。作業療法場面では、関節に負担をかけない動作指導および自助具の考案を行うとともに、心身機能の維持・拡大を図ります。特に、変形をきたしやすい手指の関節に対しては、痛みや変形を助長させるような動作を避けつつ、巧緻性を維持・改善させることが肝要です。よって、強いつまみ動作や指先による押さえの保持を必要とする「タイルモザイク」は不適切な作業と考えられます。関節リウマチでは、指先に負担をかけやすい手工芸よりは、関節保護を目的とした装具や自助具の考案と日常生活動作指導が優先されるでしょう。
◆脊髄小脳変性症の特性と作業種目
脊髄小脳変性症は、小脳および脳幹、脊髄にかけて神経細胞が破壊あるいは消失する神経変性疾患の総称です。運動失調が主症状とされていますが、自律神経症状を呈するものなど、さまざまなタイプがあります。個人差はあるものの症状は徐々に進行し、最終的には歩行不可ないしは寝たきり状態になるため、自立可能な日常生活動作の安全性・効率性を高めるとともに、学習可能な日常生活動作の獲得を目指す必要があります。多くのケースで、安定かつ滑らかな反復動作が困難となるため、刃物を用いた彫刻は危険を伴う可能性が高くなります。
◆慢性閉塞性肺疾患の特性と作業種目
長期間にわたり有害ガスなどを吸入することで生じる肺の炎症疾患。損傷した肺胞は元に戻らないため、完治することなく息切れや咳、呼吸困難などの症状が慢性的に進行し日々の生活にさまざまな影響をもたらします。リハビリテーションでは、運動療法や身体活動などを通じ、呼吸困難の軽減や持久力の向上、ADL・QOLの改善を目指します。肺機能の状態にもよりますが、木工のような全身の筋力を用いエネルギーを過度に消耗させる作業活動は好ましくありません。また、木工作業に用いる接着剤や塗料などの強い臭いは、症状を悪化させる恐れもあるため注意が必要です。
◆筋萎縮性側索硬化症の特性と作業種目
上位・下位運動ニューロンの障害により、(眼球を除く)全身の随意筋の低下・萎縮が急速に進行する疾患です。晩年は、呼吸器不全に至るケースが多い疾患ですが、感覚や視力、聴力、精神活動が保たれるため、日常生活動作全般に援助が必要であり、かつコミュニケーション手段を確保することがADL・QOLの拡大につながる可能性が大きいといえるでしょう。パソコンは、意思疎通を図る重要ツール。今後は人工知能の発達とともに新しい機器が普及することが予測されます。
まとめ
以上のように、疾患の特性に合った作業を選択する際は、疾患の特性や近い将来に予測される生活機能障害に配慮するのはもちろんのこと、選択しようとする作業の内容(工程・道具・作業環境など)を提供した場合に生じるメリット・デメリットを列挙したうえ、対象者に対し適切な作業であるか検討することが大切です。作業療法が「療法」であるために、医学的な根拠を正しく説明できるよう基本に立ち返ったアプローチが望まれます。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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