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記憶障害の原因に応じたリハビリ方法とは?

公開日:2018.09.14 更新日:2018.12.14

はじめまして。東京都言語聴覚士会所属の新井慎です。大学卒業後、回復期病院を経て、現在は訪問看護ステーションに勤務しています。
今回取り上げる記憶障害について、皆さんは日常生活を送る上でどのような問題が生じると思いますか?

記憶障害によって、予定や約束、人の名前、服薬を忘れてしまう、何度も同じ話をしてしまう、などの問題が生じます。どの症状も日常生活や人とのコミュニケーションなどに影響を及ぼします。
言語聴覚士は、作業療法士や理学療法士、看護師らと協働し、患者さんを支援していきますが、その中で記憶障害の全体像(保持された・障害のある記憶領域、重症度など)を把握、かつ現実的に実施可能なオーダーメイドな訓練を立案していくことが求められます。
今回は記憶障害に対する訓練・指導について、皆さんと一緒に整理していきたいと思います。

過去問題【言語聴覚士】

第17回 午後 第63問

記憶障害に対する訓練・指導として適切でないのはどれか。

  1. 1.タイマー機能の活用
  2. 2.エラーレスラーニング(誤りなし学習)
  3. 3.環境調整
  4. 4.内的ストラテジーの利用
  5. 5.図形のマッチング

解答と解説

正解:5

■解説
記憶障害のリハビリテーションには、代償手段の活用や内的ストラテジーの活用、学習方法の改善、環境調整、心理面の援助などがあり、これらの方法を患者さんの特性に合わせて、柔軟に組み合わせて実施していきます。過去問題の選択肢をひとつずつ解説していきます。

「タイマー機能の活用」は、外的代償手段のひとつであり、適切な対処法です。記憶を補うために普段、私たちも何気なく携帯電話(スマートフォン)や時計のタイマー機能を利用している方も多いのではないでしょうか。他にも日記やメモ、カレンダー、手帳なども挙げられ、常に身につけていられる物を活用することをおすすめします。

エラーレスラーニング(誤りなし学習)は学習法のひとつであり、適切な対処法です。記憶障害の患者さんは健常者とは異なり、間違えれば間違えるほど、その誤りを修正できず、正答に辿り着かなくなってしまう傾向があります。そのため、最初から誤答が生じないように課題の条件・難易度を整え、必ず正解が得られるように学習改善することが効果的とされています。

環境調整も記憶障害の訓練・指導法のひとつであり、適切な対処法です。例えば、モノの置き場の一定化や、引き出しなどにラベリングを行い、中に何が保管されているか明確化します。作業を行う場合には、チェックリストや手順表、約束ごとを貼り紙などで掲示します。また、突然の予定変更に対応できない方の場合、なるべく予定変更は最小限に留めるといった対応も環境調整に含まれます。

内的ストラテジーは、記憶しやすくするために活用される記憶術のひとつであるため、これも適切な対処法です。この記憶術も私たちは自然と活用しながら、生活しているのではないでしょうか。例えば、内的ストラテジーのひとつである、「頭文字記憶術」は、買い物で買わなければならない品物「人参、じゃがいも、豆腐、豚肉、味噌」の頭文字を取って「にじとぶみ」の様に繋げるといった記憶術になります。

最後に図形のマッチングは、視覚認知障害へのリハビリテーションに利用されることが多く、他の設問に比べ、記憶障害のリハビリテーションとしては不適切と考えられます。

実務での活かし方

ここからは実際の症例を通じて、更に記憶障害のリハビリテーションについてみていきましょう。

記憶障害症例 病院での検査:WMS-RとRBMT
症例:T様、62歳、男性、スーパーの店長
くも膜下出血にてA急性期病院へ緊急搬送され、全身状態が落ち着いたためB回復期病院へ転院。転院時、身体機能は著明な麻痺は認められず、屋内はフリーハンド歩行自立レベル、ADLも自立レベル。

記憶の検査では、
●WMS-R(日本版ウェクスラー記憶検査):言語性記憶や視覚性記憶、注意/集中といった記憶の各側面を評価する評価法T
●RBMT(日本版リバーミード行動記憶検査):日常生活で必要とされる人名や顔、約束事を記憶して、タイミングよく再生できるか等を評価する。患者さんの日常生活上での記憶の問題点を抽出する検査

などを実施し、前向性健忘が認められました。自身の記憶については「(受傷後)少し物忘れになったが問題ないよ」と答える一方で、家族からは「数分前のことが思い出せない、自分の病室が分からず迷ってしまう」などの訴えがありました。

訓練の中では、徐々に自身の記憶障害について病識が得られだしたタイミングを見計らって、メモリーノート(外的補助手段)の導入訓練を開始しました。店長という仕事柄もあってか元々手帳を持ち歩く癖があり、スムーズに導入が行え、訓練や食堂へ向かう際は、自ら持参されるようになりました。メモリーノートの内容は、病棟生活の約束ごと(重要事項)や1日のスケジュール(リハビリの時間、入浴曜日などの特定の予定)、自身に関する情報(生年月日や住所、家族情報などについて)とし、ご本人にとって、メモリーノートがスケジュールを自己管理する上で必要不可欠なものと思えるように改良しました。

メモリーノートを使うリハビリは、参照→構成→記入の段階での実施かつエラーレスラーニング・環境調整を組み合わせて実施しました。また、担当作業療法士や理学療法士、看護師らともメモリーノート使用について情報共有し、援助方法を統一しました。最終的には、T様はメモリーノートを用いて病棟内生活が自立となり、復職を検討されるまでになりました。

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新井 慎

新井 慎(あらい しん)

東京都言語聴覚士会 理事 摂食嚥下障害部
2011年に目白大学保健医療学部卒業後に河北医療財団天本病院に入職し、現在は訪問看護ステーションで勤務。

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