軽度失語症の訓練:評価や介入のポイントは?
公開日:2022.06.20
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
軽度失語症の方に対しては包括的な訓練が重要
今回取り上げる過去問は「軽度失語症の訓練」です。言語聴覚士の臨床では、SLTAなどの標準的な失語症検査では、ほとんど減点を認めないものの、「コミュニケーションについて問題がある」と訴える軽度失語症の方とお会いする機会があると思います。このような、軽度失語症の方に対しては、復職など本人のニーズを捉えた包括的な訓練を実施することが重要です。今回は、軽度失語症者への評価や介入のポイントについて解説していきます。
《問題》軽度失語症の訓練として適切でないのはどれか。
【言語聴覚士】第15回 第159問
軽度失語症の訓練として適切でないのはどれか。
<選択肢>
- 1. 談話の産生
- 2. ニュース文の聴理解
- 3. 会話の訓練
- 4. 構文の訓練
- 5. 高頻度語の読解
解答と解説
正解:5
選択肢1.~4.は、いずれも軽度失語症の方に行われる訓練です。
5.の高頻度語の読解の訓練は、失語症の症状が比較的重い方に対して実施することがありますが、軽度の失語症の方に実施することは、ほとんどありません。しかし、失語症に失読などの症状を合併する場合には実施することがあります。
実務での活かし方
軽度失語症の訓練について、今回は(1)言語機能障害への介入:機能訓練 (2)職場復帰への支援 (3)社会・心理的問題への支援の3つのポイントから解説していきます。
(1)言語機能障害への介入:機能訓練
言語機能障害への介入として、機能訓練を実施します。軽度失語症の訓練には、今回ピックアップした過去問のように、会話の訓練、構文の訓練、談話の産生訓練、ニュース文の聴理解訓練があります。その他にも、低頻度語の呼称訓練や、談話レベルの書字訓練などを実施することがあります。
訓練計画は、失語症の重症度に限らず、掘り下げ検査の結果をもとに立案します。そのため、軽度失語症の訓練計画においても、失語症語彙検査(TLPA)、新版失語症構文検査(R-STA)、標準失語用検査補助テスト(SLTA-ST)などの結果から、訓練計画を立て、訓練を実施していきます。
(2)職場復帰への支援
軽度失語症の方への介入では、訓練目標が「復職を目指す」というケースが少なくなく、職場復帰への支援を行うことがあります。その際、「疲労やストレスに対する対応」が重要なポイントになると考えます。
実際の臨床経験として、ご本人から、「相手の話を聞き逃さないように、言い間違えがないようにと常に思っているので、すごく疲れる」といったお話を伺うことがありました。軽度失語症の方は、日常コミュニケーションは十分成立するため、聞き手とすると一見、症状がないように感じます。しかし、ご本人としては、「間違えないように、失敗しないように」と極度の疲労やストレスを感じていることがあります。これらに対し、休憩時間を確保することなど環境調節や助言を行っていくことも重要です。
(3)社会・心理的問題への支援
軽度失語症の方に限らず、失語症の方は社会・心理的問題を抱えていると指摘されています。軽度失語症の方の場合、前述のように復職を目標とすることがあり、職場復帰あるいは再就職に際して、不安や葛藤を抱えていらっしゃることが多くあります。そのため、言語機能訓練のみならず、社会・心理的問題への支援が重要であると考えられています。
社会・心理的問題への支援では、会話場面などご本人からの不安などを傾聴し、その人らしい生活の再建に向けて支援を行います。そのため、言語聴覚士には本人の思いを傾聴し、自己決定へと導く対人支援技術が必要であると考えられています。
まとめ
軽度失語症の訓練のポイントについて3点に絞って解説しました。このような、包括的な介入の実践には、ICFの概念を用いた問題点の整理や介入が有効です(ICFについてはこちらの記事をご参照ください)。
言語機能訓練のみならず、復職など本人のニーズを捉えた支援を行うためにも、「クライアント中心の言語聴覚療法の実践」といった言語聴覚士の基本的な態度を忘れてはなりません。

近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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