「呼吸リハビリテーションと運動療法」令和2年度リハ講演会レポート
公開日:2021.03.12 更新日:2021.03.31
医療・介護関係者を対象に、東京都と東京都医師会により毎年実施されているリハビリテーション講演会。今年は新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開催となりました。
今回の講演テーマは「呼吸リハビリテーション」、講師を務めたのは複十字病院 呼吸ケアリハビリセンター付部長の千住秀明先生です。
テーマ「患者さんを地域で支えるための呼吸リハビリテーション」
講師:千住秀明先生
対象者:理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療社会従事者、介護従事者ほか
呼吸リハビリテーションの重要性や具体的な実施方法など、令和3年2月1日~14日の期間限定で動画配信された講演の内容をご紹介します。
令和2年度 リハビリテーション講演会「呼吸リハビリテーション」スライドより(以下同)
呼吸リハビリテーションの対象となる患者は多い
呼吸リハビリテーションとは?定義と運動療法
効率的な運動療法のためのコンディショニング
口すぼめ呼吸や腹式呼吸といった呼吸訓練
運動療法のポイントは頻度・強度・時間・種類
患者を地域で支える呼吸リハビリテーション
呼吸リハビリテーションの対象となる患者は非常に多い
近年、呼吸リハビリテーションの重要性が高まっている背景には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増加があります。国内にはCOPDの患者が約530万人いると推定されていますが、実際に病院でCOPDと診断された患者は約22万人。多くが未診断、治療前の状態です。
COPDの症状は、息切れや慢性的な咳と痰。労作時の呼吸困難が徐々に進行していくため、動かなくなりADLが低下し、寝たきりになってしまうこともあります。
国内における死亡者数が増加傾向にあるCOPD以外にも「呼吸器リハビリテーション料の対象となる患者は多い」、と千住先生はいいます。
例えば、肺炎、無気肺等の患者のほか、気管支喘息、気管支拡張症、間質性肺炎、術前・術後のケアが必要な肺腫瘍、胸部外傷、食道がん、胃がん、肝臓がん、咽・喉頭がんなど、多岐にわたります。
それにもかかわらず、首都圏で呼吸リハビリテーションを実施している施設は少ないのが現状です。その点を問題視している千住先生は、実施できる施設を増やし、さらに多くの患者に呼吸リハビリテーションを提供していく必要があると強調しました。
呼吸リハビリテーションとは?その定義と運動療法との関係
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会では、呼吸リハビリテーションを次のように定義しています。
呼吸器に関連した病気を持つ患者が、可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため、医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるように生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入。
つまり、患者が疾患とうまく付き合いながら、日常生活を送るサポートをするのが目標です。
これらはすでにエビデンスレベルのAランクに分類されているとのこと。その効果を得るためには運動療法が欠かせません。
効率的な運動療法を行うためのコンディショニング
コンディショニングとは、効率的な運動療法を行うために身体状態を調整し、運動中の呼吸困難をコントロールできるようにするもの。運動療法のマニュアルでは、重症の患者はコンディショニングに十分な時間をとることが推奨されていると千住先生は説明します。
最初にリラクゼーションエクササイズを行い、良肢位で呼吸介助すると、患者は「楽になった」と感じられるそうです。
コンディショニングの方法には3つあります。
1)フィジカルアプローチ
呼吸訓練と排痰法などを習得する身体へのアプローチです。
2)メンタルアプローチ
COPDの重症患者は約6割の方に不安感やうつ症状があるため、運動に対する不安感を取り除き、モチベーションを高めます。
3)薬物療法によるアプローチ
運動療法を始めるには、運動中の息切れを抑えるため正しく気管支拡張剤を吸入しておくことが大切です。吸入薬の課題は、個々の吸入薬で吸入方法が異なることが課題です。それぞれの吸入薬に応じた正しい吸入法(呼吸)を指導します。
そのため、複十字病院では患者へのセルフマネジメント教育の一環として、理学療法士が個々のデバイスに適応した呼吸のコントロール法や吸入動作の支援を行っています。
患者が吸入しやすい環境を整え、運動療法中の息切れ症状を軽減させることで、運動療法の効果を最大限に引き出すのが目的です。
口すぼめ呼吸や腹式呼吸で動作と組み合わせた呼吸訓練を
コンディショニングにおける呼吸訓練で代表的なのは、「口すぼめ呼吸」。呼気時に口をすぼめて呼気に抵抗をかける方法です。
これは患者ご自身ですでに実践している方も少なくないそうで、口すぼめ呼吸ができるようになったら、次は腹式呼吸を行います。
腹式呼吸は吸気時にお腹を持ち上げ、呼気時に引っ込める。はじめはあおむけで、胸の上に置いた手ができるだけ動かないように、横隔膜だけで呼吸をします。それができたら坐位、立位と姿勢を高くしていきます。
私たちは動くときに無意識に息を止めてしまいますが、動くときには腹部周囲筋が収縮するので、はき出す空気が増えるためたくさん息が吸えるようになります。動作に合わせた呼吸の典型的な例として、千住先生は歩行時の動作法を紹介されました。
<平地歩行が習得できれば、その3倍~4倍の酸素を消費する階段を上るときにも応用が可能>
運動療法のポイントは患者に合わせた頻度・強度・時間・種類を選ぶこと
呼吸と動作の組み合わせが上手にできるようになれば、いよいよ運動療法に入ります。重要なのは「患者に合った適切な頻度、強度、時間、種類を選ぶこと」だと千住先生はいいます。
「息切れせずにトイレに行くことができた」「階段を上れた」といったような成功体験を積み重ねることで、患者は運動療法に対する満足感を得られるそうです。その際、事前に息切れの対策を教えておくようにと千住先生は呼びかけます。
口すぼめ呼吸や腹式呼吸、ゆっくりした深い呼吸、呼吸の楽な体位をとることで、患者が自分自身でパニックコントロールできるように指導しましょう。
患者さんを地域で支えるために、呼吸リハビリテーションの実施を
講演ではさらにCOPDや非結核抗酸菌症の患者の症例を取りあげ、実践した呼吸リハビリテーション法や自己排痰の習得方法なども紹介されました。
呼吸リハビリテーションの目的は、患者が家族と共に住み慣れた地域社会の中で暮らしていくこと。そのためには地域社会の中に呼吸リハビリテーションサービスを提供できる医療機関や施設が必要です。
千住先生は「ぜひ多くの施設で呼吸リハビリテーションを実施してほしい」と話し、講演を締めくくりました。
テーマ「患者さんを地域で支えるための呼吸リハビリテーション」
講師:千住秀明先生
取材・文/ 安藤 梢
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