作業療法士ではなく理学療法士を選んだ理由の例をご紹介|OTとの違いも解説
公開日:2025.01.24
文:内藤 かいせい(理学療法士)
リハビリ職を目指すときに、作業療法士ではなく理学療法士を目指そうと思っている方もいるのではないでしょうか。
理学療法士と作業療法士は同じリハビリ職であるものの、その役割は異なります。ただ、どちらも魅力的な職種であるため、選択に悩む方も多いでしょう。
この記事では、作業療法士ではなく理学療法士を選択した理由の例をご紹介します。それぞれの違いについて知ることで、現在の悩みを解消するきっかけとなるでしょう。
目次
理学療法士・作業療法士の違い
理学療法士と作業療法士にはどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、それぞれの役割の違いについて解説します。
理学療法士は基本的動作の獲得を目指す職種
理学療法士は、基本的な動作の回復を目指すリハビリ職です。具体的には「座る・立つ・歩く」などの、日常生活に欠かせない基本動作の獲得や改善のために、リハビリを提供します。
リハビリの内容としては、おもに運動を中心とした「運動療法」や、熱や電気などの機器を用いた「物理療法」などです。
これらのリハビリによって身体機能の改善を目指し、自立した日常生活の実現を支援します。また、リハビリの効果を高めるために、患者さんごとの身体能力や生活環境を評価し、それぞれの目標に適したプランを作成します。
作業療法士は作業を通して機能改善を目指す職種
作業療法士は、日常生活におけるさまざまな「作業」を通じて、身体や精神の機能改善を目指すリハビリ職です。
ここでいう「作業」とは、以下のような日常生活に必要な幅広い活動を指します。
● 洗顔
● 料理
● 趣味活動
作業療法士の特徴は、これらの作業を治療の手段として用いることです。たとえば、調理活動を通じて手先の巧緻性を高めたり、趣味の園芸を通じて認知機能の維持を図ったりします。
作業療法士は身体機能だけでなく、精神面のケアも重視しています。精神科病院で働き、うつ病や統合失調症などの患者さんの社会復帰支援にも携わる作業療法士もいるでしょう。
このように、理学療法士と作業療法士は同じリハビリ職であるものの、それぞれ役割が異なるのです。
しかし、役割に明確な境界線はなく、場合によっては理学療法士も作業療法士と同じようなリハビリを提供することも珍しくありません。
作業療法士ではなく理学療法士を選んだ理由の例
作業療法士ではなく、理学療法士を選択する理由には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、理由の例について実体験も交えつつ解説します。
基本的な動作のケアに魅力を感じたから
理学療法士を選ぶ理由の1つに、基本的な動作のケアに魅力を感じたことがあげられます。
理学療法士は、患者さんの歩行や起き上がりなど、日常生活に欠かせない基本的な動作の改善や獲得を支援する職種です。
私たちが当たり前のように行っている基本的な動作ができなくなることは、計り知れない不便さや苦痛をともないます。
この基本動作にアプローチできる理学療法士は、患者さんにとって大きな変化をもたらす可能性があります。そのため、やりがいのある職業だと感じる方も多いでしょう。
ケガのリハビリで理学療法士にサポートしてもらったから
理学療法士を目指す方のなかには、ケガの経験がきっかけとなる方も少なくありません。とくに、スポーツでケガをしてリハビリを受けた方が、理学療法士を目指すケースは多いといえます。
たとえば、「部活中に膝の靭帯を損傷し、理学療法士によるリハビリを受けた経験から、興味を持ちはじめた」という方もいるでしょう。
スポーツ分野に興味があるから
スポーツ分野に興味があり、それをきっかけに理学療法士を目指す方もいます。理学療法士は医療機関だけでなく、スポーツ分野で活躍している方も多くいます。
たとえば、プロのスポーツチームに所属し、アスリートのコンディションをサポートしている理学療法士もいるでしょう。ジムやフィットネスクラブなどでも、理学療法士の活躍の場が広がっています。スポーツに関わりたい人にとって、理学療法士という職業は魅力的な選択肢といえます。
作業療法士についてよく知らなかったから
理学療法士を選んだ理由として、作業療法士についてよく知らなかったという方もいるでしょう。これは、作業療法士が理学療法士よりも人口が少ないことがあげられます。2020年の段階では、理学療法士の国家試験合格者の累計は「約18万人」とされています。一方で、作業療法士の有資格者は「約9万人」です。
このように、理学療法士は作業療法士の2倍以上の人数がいる計算となります。この人数の差は認知度にも大きく関わっており、一般的に「リハビリ=理学療法士」をイメージする方も多いのではないでしょうか。
このような認知度の差から、自作業療法士よりも理学療法士に自然と興味が向くことも珍しくありません。実際に、筆者もこのような理由で理学療法士を目指した経緯があります。
出典:日本理学療法士協会|統計情報
日本作業療法士協会|2019 年度 日本作業療法士協会会員統計資料
理学療法士・作業療法士になるのはどちらが難しい?
理学療法士と作業療法士になる難易度は、ほとんど差はありません。どちらも国家資格であり、取得には国家試験に合格する必要があります。
2024年までの直近5年間の国家試験合格率について、以下の表にまとめました。
年度 | 理学療法士の合格率 | 作業療法士の合格率 |
---|---|---|
2024年度 | 89.2% | 84.1% |
2023年度 | 87.4% | 83.8% |
2022年度 | 79.6% | 80.5% |
2021年度 | 79.0% | 81.3% |
2020年度 | 86.0% | 87.3% |
このように、理学療法士も作業療法士も合格率はおおむね80%を前後しており、両者に大きな差がないことがわかるでしょう。そのため、合格率の違いによって理学療法士か作業療法士かを選択する必要はとくにありません。
出典:厚生労働省|第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省|第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省|第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省|第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省|第59回理学療法士国家試験及び第59回作業療法士国家試験の合格発表について
理学療法士・作業療法士の仕事はどちらが大変?
理学療法士と作業療法士のどちらが仕事が大変かどうかは、一概に比較はできません。これは、どちらもリハビリにおける重要な役割を担っている職種だからです。
学生の段階では、カリキュラムの内容に若干の違いはあるものの、基礎科目は共通しています。そのため、学生の大変さについても大きな差はないでしょう。
就職後の大変さに関しては、職種の違いよりも職場環境で大きく変わります。理学療法士だから、あるいは作業療法士だからという理由で仕事が大変になるわけではありません。
理学療法士・作業療法士に向いている人の特徴は?
理学療法士と作業療法士に向いている方の特徴としては、それぞれ以下のとおりです。
● 身体の構造や機能に強い関心がある
● スポーツや運動が好きで、身体を動かすことに抵抗がない
● 論理的思考ができ、問題解決能力が高い
● 忍耐強い
● チームワークを大切にしている
● 日常生活の細かな動作や作業に興味がある
● 創造性が高い
● 心理面にも配慮できる
● コミュニケーション能力が高い
● 多様な価値観を受け入れ、柔軟な対応ができる
このような特徴のある方は、理学療法士または作業療法士の素質があるといえます。
理学療法士になるまでの流れ
理学療法士になるには、どのような流れを経る必要があるのでしょうか。ここでは、具体的な流れについて解説します。
養成校に入学する
理学療法士になるには、まずは養成校に入学することからはじまります。養成校はおもに3年制と4年制に分かれており、大学や専門学校などがあります。3年制の養成校は4年制よりも1年早く理学療法士になれる一方で、カリキュラムが密で忙しくなりやすいのが特徴です。
4年制は、理学療法士の資格取得のタイミングが1年遅くなるものの、ゆっくりと勉強に打ち込めるメリットがあります。
また大学や専門学校はそれぞれ特徴が異なりますが、基本的なカリキュラムは同じです。養成校選びの際は、オープンキャンパスや説明会に参加して、実際の雰囲気や特色を確認することをおすすめします。
必要なカリキュラムを受ける
理学療法士の養成校では、幅広い知識と技術を習得するためのカリキュラムが用意されています。おもな科目は、以下の4つに分類されます。
● 専門基礎科目
● 専門科目
● 臨床実習
一般教養科目では幅広い教養を身につけ、専門基礎科目では、以下のような理学療法士に欠かせない基礎知識を学びます。
● 生理学
● 運動学
専門科目では理学療法の評価や治療技術など、実技が中心です。最終学年になると臨床実習が行われ、実際の医療現場で患者さんと接しながら、実践的な技術を身につけます。
国家試験に合格する
理学療法士として働くためには、国家試験に合格して資格を取得する必要があります。国家試験は毎年2月に開催され、内容はマークシートでの筆記試験です。
前述したように、理学療法士の国家試験合格率は80%前後を推移しています。そのため、しっかりと対策すれば合格は十分に可能です。
作業療法士ではなく理学療法士を選んだ理由を明確にしよう
作業療法士ではなく理学療法士を選ぶ理由は、さまざまです。なかには実際にリハビリを体験したり、仕事内容に魅力を感じたりすることがきっかけの場合もあるでしょう。
資格取得の難易度は理学療法士も作業療法士も大きな差はないので、自分にあった選択をすることが重要です。リハビリ職の違いを把握しつつ、ぜひ理学療法士を目指してみましょう。
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内藤 かいせい
理学療法士として回復期病院と訪問看護サービスに従事し、脳血管疾患や運動器疾患などの幅広い症例を経験する。リハビリで患者をサポートするとともに、全国規模の学会発表にも参加。 新しい業界にチャレンジしたいと決意し、2021年に独立する。現在はWebライターとして活動中。これまでの理学療法士の経験を活かして、医療や健康分野で多くの執筆・監修に携わっている。
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