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人工呼吸器の使用中に発生しやすい呼吸器合併症

公開日:2020.05.26 更新日:2023.03.14

呼吸は外界の酸素を体内に取り込んで、様々な組織へ酸素を供給し、組織の活動で生じた二酸化炭素を体外へ排出する過程です。
このような呼吸において、気道をふさぐ病気や肺の組織を損傷する病気、呼吸を制御する筋力を低下させる病気、呼吸を促す調節が抑制される病気などによって、血液中の酸素濃度が低くなることや、二酸化炭素濃度が高くなることがあり、この状態を呼吸不全といいます。
呼吸不全の場合、肺に出入りする空気の流れを補助する人工呼吸器を使用して呼吸を補助すると、状態が改善することがあります。人工呼吸器の主な目的は、以下です。
・肺のガス交換の異常を改善(酸素化の改善)
・肺の容量の増加(肺胞換気量の維持)
・呼吸仕事量の軽減

人工呼吸器には手動で換気を補助するバッグバルブマスク(いわゆるアンビューバッグ)もありますが、一般的には機械式人工呼吸器が使用されます。
機械と体との接続方法で、重症な患者が使用する人工呼吸器は、気管チューブ(気管内挿管)や気管切開カニューレを介して換気する侵襲的陽圧式人工呼吸器を使用します。在宅の睡眠時無呼吸症候群などの状態で使用する人工呼吸器は、マスクを介して換気する非侵襲的人工呼吸器になります。
人工呼吸器をどこで使用するかによっても異なりますが、一般的に多くの医療専門職がその管理に携わります。以下のように、多くの職種が連携して対応しています。

救急医・麻酔科医・集中治療医:気道確保や人工呼吸器の設定、疼痛管理などを担当
内科医:呼吸不全や原疾患などの治療を担当
耳鼻科医:気管切開などの管理を担当
看護師:人工呼吸器を使用している患者の日々のケアを担当
臨床工学技士:主に機器の点検整備を担当
理学療法士:痰の排出や人工呼吸器からの早期離脱などに関わる

人工呼吸器を使用することで、呼吸器だけではなく心臓、肝、腎、精神面など様々な合併症を生じてしまうことがあります。呼吸状態を改善し、人工呼吸器管理中の合併症を予防し、早期に人工呼吸器から離脱するためにはチーム医療が必須です。

過去問題【理学療法士】

第54回 午後 第46問
人工呼吸器管理中に生じる呼吸器合併症でみられやすいのはどれか。

  1. 1.胸水
  2. 2.肺炎
  3. 3.喘息
  4. 4.肺線維症
  5. 5.慢性閉塞性肺疾患

解答

正解:2

■解説
【人工呼吸器使用中のトラブル・合併症】

表1 人工呼吸器使用中の主なトラブル・合併症

人工呼吸により呼吸状態の改善が期待できる一方で、全身の様々な合併症が生じる可能性もあります。例えば、気管チューブや気管切開カニューレの気道確保、人工換気、陽圧換気、高濃度酸素投与などによる合併症があります。
また、挿管操作、吸引、体位変換などの医療者による治療、ケアによって生じる合併症もあります。症状としては、口腔、気道周辺の組織損傷や、呼吸器、循環器などの合併症、精神ストレスなどがあります。そのため、症状の改善に伴い、できるだけ早期に人工呼吸器からの離脱を図ることが必要です。

その中でも発生することの多い呼吸器合併症が、人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia: VAP)です。誤嚥や吸入などで菌が気管に流入することによって生じる感染症です。VAPを合併することで、死亡率が増加し、入院期間も延長するため、VAPの発生を予防することが重要です。

【人工呼吸器関連肺炎(VAP)】
VAPは、気管挿管による人工呼吸を開始して48時間以降に発生した肺炎のことです。日本の集中治療室における感染症の中で最も多く、2019年1月~6月の厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の集中治療室でのVAPの発生率は1,4例/1,000患者・日と、尿路感染症やカテーテル関連血流感染症の2倍以上です。

VAPを予防するための対策は手指衛生、機器のメンテナンス、処置の際の注意など様々ですが、これらの対策を同時に並行して行う必要があります。
その中でも、医療従事者の手洗い、手指消毒は基本です。また、誤嚥による感染を予防するために、口腔内・咽頭の清拭、カフ上部の吸引、ベッド上で上体を30度~45度起こした頭高位の選択などが大切です。そしてできるだけ早期に人工呼吸器から離脱し、経鼻胃管チューブなどを抜去することが重要です。

表2 人工呼吸器関連肺炎に対する主な対策

■実務での活かし方
新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019: COVID-19)に関する情報は日々更新されており、診断、治療、予防などに関する知見が様々な雑誌、メディアなどで報告されています。
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症が疑われる重症急性呼吸器感染症の臨床的マネージメントを2020年3月13日に公開しています。中等度、重症新型コロナウイルス感染症の管理、妊婦や乳児、母親のケア、高齢者のケアなどの15章で構成され、各章でやるべきこと、やるべきでないこと、考慮すべきことが示されています。

治療や予防についての医療情報を定期的に吟味して、エビデンスを公開している世界的な組織であるコクランは、新型コロナウイルス感染症のリソースを提供し、感染管理と予防方法、重症管理などの特集号を公開しています。重症管理に役立つエビデンスでは、人工呼吸器、人工呼吸器からの離脱、低酸素血症の管理、薬物療法などの7つトピックのエビデンスを要約しており、臨床上参考になります。

また、日本呼吸療法医学会と日本臨床工学技士会は、新型コロナウイルス感染症に使用する人工呼吸器の取り扱いに関するガイドで、感染対策、治療、保守に関連する注意事項がまとめられており、人工呼吸器の適切な活用と感染の防止対策に活用できます。

理学療法においては、世界理学療法士連盟(WCPT)が新型コロナウイルス感染症における理学療法管理の指針を作成し、日本語版急性期病院における新型コロナウイルス感染症の理学療法管理が公開されています。特に新型コロナウイルス感染症に対する呼吸理学療法や運動療法などの適応や推奨事項が示されており、個人用防護具の使用などの具体的な感染対策も紹介されています。

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臼田 滋

臼田 滋

群馬大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
群馬県理学療法士協会理事
理学療法士免許を取得後、大学病院で勤務し、理学療法養成校の教員となる。
小児から高齢者までの神経系理学療法が専門。

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