言語聴覚士はやめたほうがいい?やめとけと言われる理由とは
公開日:2021.04.02 更新日:2024.01.11
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
言語聴覚士は高度な専門性を必要とするコミュニケーション障害の専門職であり、やりがいのある仕事です。
実際に2021年に発表された「アメリカの職業ランキング(U.S. News Best Jobs of 2021 rankings)」において言語聴覚士(Speech-Language Pathologist)は7位にランクインしています。
しかし「仕事量に対して給料が見合わない」「想像していた仕事とは違う」「言語聴覚士はやめとけと言われた」などの理由で、『言語聴覚士をやめたほうがいいのではないか』と、悩んでいる方がいるのも事実でしょう。
実際に言語聴覚士の免許を有しながら臨床をしていない方もいますし、昨今の仕事のあり方が大きく変化していることもあり、辞めること自体は決して珍しいことではありません。
言語聴覚士を続けるのか、辞めるのか、どちらでもまずは自分自身の仕事についてよく考えてみましょう。迷ったら誰かに相談し、最後には自分で決断することが重要です。
今回は言語聴覚士の退職理由やその背景を整理し、「言語聴覚士を辞めた方がいいか悩んでいるときに、考えるべき2つのポイント」を紹介していきたいと思います。
目次
言語聴覚士はやめとけと言われる主な退職理由とは
それでは、言語聴覚士の退職理由にはどのような理由があるか見ていきましょう。
先行研究(※1)によると新人言語聴覚士の退職には、次の3つが要因になると指摘されています。
①やりがいや成長したいという欲求が満たされないこと
②配属希望が叶えられないこと
③特定の個人との関係
すなわち「希望する領域に配属されなかったこと」や、「先輩を含む教育システムが十分に機能していないこと」が退職理由になると考えられるのです。
そして同じ医療専門職である看護師の退職理由について先行研究(※2)を見てみると、新人看護師の退職理由には次の4つの要因があると指摘されています。
①リアリティショック
②職場内の人間関係
③勤務時間・指導体制
④心と身体の健康問題
「数年間の専門教育と訓練を受け、卒業後の実社会での実践準備ができたと考えていたにもかかわらず、実際に職場で仕事をした時に「まだ準備ができていない」と感じる新卒専門職者の現象や特定のショック反応を表す言葉である」と定義される。
言語聴覚士と看護師では業務内容や勤務形態が異なり、退職理由を一概に比較し検討することは困難です。しかし、ハラスメントなど職場内の人間関係が退職理由に含まれることは共通しています。
一方で、自身の能力に対する心理状況については異なるようです。
言語聴覚士では「もっと教えて欲しい」など自分の欲求が満たされない心理状況になりますが、看護師では「自分の能力ではとてもこの仕事は務まらない」など、臨床現場で求められる能力と自身の能力にギャップを感じてしまう心理状況になっています。
このように、言語聴覚士と看護師の退職理由にはハラスメントなどの人間関係といった共通点はありますが、言語聴覚士の退職理由には自身の能力に対する心理状況について「リアリティショックが含まれない」ということが特徴となります。
※1:祖父江由佳.若手言語聴覚士の早期転職に至るプロセス.言語聴覚研究 2019;16(4)
※2:内野恵子.本邦における新人看護師の離職についての文献研究.心身健康科学2015;11(1)
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言語聴覚士(ST)を辞めたいと思ったときに考えるべきこと
新卒言語聴覚士の就職先と入職後のギャップ
言語聴覚士の退職理由として「職場は希望する領域でもなく、先輩が指導してくれないから自分はできないのであって、臨床現場から求められる能力と自身の能力のギャップについてはさほど悩んでいない」という特徴であることがわかりました。
では、なぜこのようなすれ違いが起きるのか。言語聴覚士の就職先に関して、次の問題が指摘されています。
- 言語聴覚療法は、言語・聴覚・嚥下、高齢者・小児と多岐にわたるが就職先のほとんどが、高齢者が対象である病院であり、小児領域や聴覚領域の希望であっても叶わないことが多い
つまり「小児分野や聴覚分野に興味があって言語聴覚学科に入学したけれど、卒業時に希望する地域には成人領域の求人しかなかった。そのため、希望する領域での就職を諦めざるを得ない」ことが多くあるのではないでしょうか。
このように、新卒言語聴覚士の就職には「希望しない領域に就職せざるを得ない」といった特徴があると考えられます。
言語聴覚士を辞めたいと思った時に、考えたい2つのポイント
ここまで、言語聴覚士の退職理由の特徴を明らかにし、その要因について検討してきた結果、「辞めたい」と考える言語聴覚士のモデルケースが見えてきました。
・就職した職場が希望しない領域だった
・教育体制が整備されていないため、やりがいや成長したい欲求が満たされていない
・ただし、臨床現場で求められる能力と自身の能力にはギャップを感じてはいない
言語聴覚士としての適性に自信を失ったわけではなく、辞めたい原因が「自分が置かれている現状」にあるならば、それを変える方法はあります。
これを踏まえて、「言語聴覚士を辞めたほうがいいか悩んでいるときに考えたい2つのポイント」を紹介していきましょう。
①職場を変えることで悩みが解決できそうか?
希望と異なる領域に就職してしまった結果、辞めたいと悩んでいるのであれば、職場を変えてみることで悩みが解決することはないでしょうか?
先ほどの課題にも挙げられていたように小児領域や聴覚領域の就職は確かに少ない状況にありますが、全くないことはありません。
希望する領域の就職先があるか自分で調べてみたり、もう一度養成校の先生に連絡を取ってみるのも一つの方法だと考えられます。
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②興味があることをもう少し掘り下げて学んでみようと思えるか?
言語・聴覚・嚥下、高齢者・小児と多岐にわたる言語聴覚療法のうち、どれか少しでも興味を持っていることはないでしょうか。
言語聴覚療法の評価・診断・治療技術は日々進歩しています。そのため、言語聴覚士は生涯にわたり学んでいくこと、すなわち生涯学習が重要であると考えられています。
現在、少しでも興味を持っていることがあるならば、掘り下げて学んでいくと新たな興味の発見につながる可能性がありますし、なにより同じ領域に興味を持っている言語聴覚士など、新たな出会いに恵まれるはずです。
生涯学習の方法として、日本言語聴覚士協会の生涯学習講座を受講して「認定言語聴覚士」を目指すことや、大学院に進学してみることも一つの方法です。
また、高次脳機能障害領域における「臨床神経心理士」や、摂食嚥下領域における「日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士」など、関連学会における認定資格を目指すことを視野に入れてみてもいいかもしれません。
次のステップを成功させるために、辞めたい理由を振り返ろう
言語聴覚士の退職理由の特徴とその要因を明らかにし、退職したいと悩んだときに考える2つのことを紹介しました。
「結局、勉強しないといけないのか!」と感じた方もいると思いますが、言語聴覚士に限らず、どの業界においても社会人には「リカレント教育」といった学び直しの機会が必要であるといわれています。
リカレント教育では実践と学びが循環することを目的にしていますので、学習することは「教えてもらう」ではなく「学ぶ」ことになります。
言語聴覚士の皆さんに、臨床と学びが循環するようなセラピスト人生が広がっていくことをお祈りいたします。
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近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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