言語聴覚士が知っておきたい失語症に合併する言語以外の症状
公開日:2023.05.17 更新日:2023.05.19
文:近藤 晴彦
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
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本記事の概要
今回取り上げる過去問のテーマは、「失語症に合併する言語以外の症状」です。失語症は、大脳の言語領域が何らかの疾患や外傷により損傷や病変をきたしたときに発症します。言語機能に関与する脳領域は左大脳半球のブローカ野やウェルニッケ野が知られていますが、近年ではこれらの古典的言語領域だけでなく、より多くの脳領域や神経ネットワークが関与することが明らかになっています。
そのため、失語症の症状が発生すると同時に、その損傷領域および神経ネットワークが関与する言語以外の症状が出現することがあります。どのような症状があるのかを解説していきます。
《問題》合併しにくい組み合わせはどれか。
【言語聴覚士】第22回 第157問
合併しにくい組み合わせはどれか。
<選択肢>
- a.ブローカ失語―右片麻痺
- b.超皮質性運動失語―発動性低下
- c.伝導失語―相貌失認
- d.ウェルニッケ失語―着衣失行
- e.全失語―右側の体性感覚障害
- 1. a,b
- 2. a,e
- 3. b,c
- 4. c,d
- 5. d,e
解答と解説
正解:4
失語症は、左半球の言語領域および神経ネットワークの損傷により出現します。失語症のタイプは損傷部位により異なり、合併する言語以外の症状も失語症のタイプによって違ってきます。今回の設問では、「a,b,e」はいずれも正しい組み合わせになります。
「c.伝導失語」は、左下頭頂葉から側頭葉にかけての病変であり、特に縁上回が重要視されています。合併する代表的な言語以外の症状には、感覚障害や観念運動失行があり、左頭頂葉に関連する症状が出現します。同じ選択肢にある「相貌失認」は、右後頭葉あるいは両側の後頭葉から側頭葉にかけての損傷部位であり、適切な組み合わせではありません。
「d.ウェルニッケ失語」は、左側頭葉(左上側頭回後半部、左側頭葉中下方や頭頂葉、左側頭葉上面の横側頭回)の病変です。合併する代表的な言語以外の症状に、病態失認や視野障害(右上四分盲、右同名半盲)があります。同じ選択肢にある「着衣失行」は右半球が損傷部位であり、適切な組み合わせではありません。
実務での活かし方~失語症に合併する症状と評価~
失語症に合併する言語以外の症状について解説していきます。今回は(1)失語症に合併する言語以外の症状 (2)失語症に合併する言語以外の症状の評価についてそれぞれ紹介します。
(1)失語症に合併する言語以外の症状
失語症は大脳の言語領域が何らかの疾患や外傷により損傷や病変をきたしたときに発症します。そのため、損傷部位により失語症のタイプおよび合併する言語以外の症状は異なります。さきほどの、国家試験の過去問の例がありますが、左大脳半球に合併する高次脳機能障害については、各教科書などに掲載されておりますので必ず押さえておきましょう。
(2)失語症に合併する言語以外の症状の評価
失語症に合併する言語以外の症状の有無や重症度は、失語症の予後に影響するため、適切に評価をおこなう必要があります。しかし、失語症は言語機能の低下を認めることから、言語性の高次脳検査は原則的に実施することはできません。そのため、失語症に合併する言語以外の症状の評価は、非言語性の高次脳検査や行動観察によりおこないます。会話や行動観察から認知機能を評価する方法として、「認知関連行動アセスメント(CBA)」があります。(森田,2016)
認知関連行動アセスメント(CBA)では、意識、感情、注意、記憶、判断の6項目について5段階(良好~最重度)で評価します。行動評価をおこなうことは、訓練目標の設定や関連職種との連携のためにも重要な視点となります。
まとめ
摂食嚥下訓練における評価とその対応について解説しました。言語聴覚士が摂食嚥下障害に介入する際には、問題点を明らかにし、それに対応した適切な介入をおこなうことが求められます。そのため、VF検査(嚥下造影検査)やVE検査(嚥下内視鏡検査)による評価が重要であり、医師をはじめとした関連職種との連携が欠かせません。
[出典・参照]
日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会. 訓練法のまとめ(2014 版).日本摂食嚥下リハ会誌,2014
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近藤 晴彦(こんどう はるひこ)
東京都言語聴覚士会 理事 広報局局長
国際医療福祉大学大学院 修士課程修了。
回復期リハビリテーション病院に勤務する言語聴覚士。
東京都言語聴覚士会
http://st-toshikai.org/
東京都におけるすべての言語聴覚士が本会に入会され、自己研鑽に励み、地域社会に貢献することを目指し、活動中。
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