バーセルインデックスを用いたADL評価の注意ポイント
公開日:2023.05.19
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
バーセルインデックスとは
基本的な日常生活動作(ADL)の自立度を客観的に評価するために用いられるバーセルインデックス(Barthel Index:BI)は、私たちセラピストにとって最も身近な評価指標の一つです。バーセルインデックスでは、10項目のADL動作をそれぞれの自立度に応じて0点〜15点で採点します。
バーセルインデックスは、できるだけ簡単にADLの自立度を値(点数)として表す評価法として、1955年アメリカの理学療法士バーセル氏によって開発され、世界的に普及しています。バーセルインデックスによるADL自立度評価では、対象者の「できるADL」を評価。同じく客観的にADLの自立度を評価する機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:FIM)は、「普段からしているADL」を評価するのに対し、バーセルインデックスでは、訓練時も含め最もできる場面(対象者が発揮できる最も高い能力)が評価対象です。環境や時間帯によって対象者の動作能力が変化するケースでは、家族や介護者からの情報も参考に判断します。
作業療法士の国家試験では、バーセルインデックスについて以下のような問題が出題されています。
《問題》Barthel Indexの評価項目で車椅子とベッド間の移乗に含まれないのはどれか。
【作業療法士】第57回 午後 24
Barthel Indexの評価項目で車椅子とベッド間の移乗に含まれないのはどれか。
<選択肢>
- 1. ベッドに移動する。
- 2. ブレーキをかける。
- 3. フットサポートを上げる
- 4. 靴を脱ぐ。
- 5. 臥位になる。
解答と解説
正解:4
バーセルインデックスでは、評価対象となる10項目のADL動作(:食事・移動・整容・トイレ動作・入浴・階段昇降・着替え・排便コントロール・排尿コントロール)について、それぞれの採点基準が定められています。
車椅子とベッド間の移乗の場合、「車椅子をベッドに近づける、ブレーキをかける、フットサポートを持ち上げる、ベッドへ移る、臥位になる、再び起き上がりベッド上に座位をとる、車椅子に移る」の全てが安全に行える状態を自立と判断しますので「4.靴を脱ぐ」は評価対象外です。
【参考】バーセルインデックス(BI)の評価方法について
(厚生労働省作成のBI測定についての動画)
採点では、ADL動作項目によって最高点が異なるため注意しなければなりません。車椅子とベッド間の移乗では、ブレーキやフットサポートの操作を含み全て自立している状態を15点、軽度の部分介助または監視を要する状態を10点、座ることは可能であるがほぼ全介助の状態を5点、全介助または不可能な状態を0点と採点しますが、整容動作では「洗面・整髪・歯磨き・髭剃り(化粧:普段から行っている場合)」の全てが自立して行えている状態を自立:5点とし、部分的に介助が必要な状態であれば部分介助または不可能:0点となります。
【参考】厚生労働省「ADL維持向上等体制加算に係る評価書」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/iryo_shido/documents/07-2.doc
実務での活かし方
バーセルインデックスは、リハビリテーションの効果や経過を可視化するのに役立ちますが、これに留まらず対象者の生活機能を全体的に把握するための多角的な情報収集が欠かせません。特に多職種で評価結果を共有する際は、10項目全て自立し100点満点の結果だったとしても、場や環境によって意欲や能力の状態が変化することを念頭に連携を図るよう心がけましょう。
また、近年の介護報酬改定では、バーセルインデックスを用いた対象者のADL自立度評価がADL維持向上等体制加算の要件として加わり、事業所ごとのADL自立支援、あるいは心身機能の悪化予防への取り組みに対し一定のインセンティブによって還元されるようになっています。
セラピスト自身が対象者のADL自立度を評価するだけではなく、バーセルインデックスを用いてADLの自立度を評価したことがない職員に対して評価方法の講習会を実施したり、実際の評価場面に同席したりする等の対応が求められることもあるかもしれません。
セラピストとして、バーセルインデックスの知識や経験を深めておくことが求められます。

中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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