理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の退職金と生涯年収を解説
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、心身機能の回復や維持、強化などを必要とする患者さま、利用者さまにとって、欠かせない存在です。少子高齢化が進むなか、今後も需要が高まる職業といわれており、働く施設によっては高い収入を得られるケースもあるでしょう。
そうしたなか、近年は老後2,000万円問題が取り沙汰されており、「いかに老後の資金を確保するか」に関心が集まっています。そのため、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のなかにも、「退職金」や「資産形成」について気になっている方が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士における退職金の相場や、退職金を増やす方法について詳しく解説します。「退職金に関する不安をなくしたい」「気持ちに余裕を持ちながら働きたい」という方は、ぜひ参考にしてください。
転職のプロがアドバイスします♪(完全無料)
目次
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士には退職金はある?
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が働く医療業界は、一般的な民間企業と比較して、退職金が支給される施設の割合が少ない傾向にあります。
また、退職金が支給される場合でも、その額は施設によって大きく異なります。なぜかといえば、施設によって退職金の計算方法がそもそも異なるからです。
そこでまずは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の退職金の相場と基本的な計算方法から説明しましょう。
退職金の相場
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の退職金相場を示す公的データがないため、東京都の「中小企業の賃金・退職金事情」をもとに、退職金の相場を紹介します。
学歴 | 勤続年数 (年) |
年齢 (歳) |
自己都合退職の 支給金額(円) |
会社都合退職の 支給金額(円) |
---|---|---|---|---|
高校卒 | 10 | 28 | 907,000 | 1,223,000 |
15 | 33 | 1,705,000 | 2,148,000 | |
20 | 38 | 2,729,000 | 3,284,000 | |
25 | 43 | 3,971,000 | 4,656,000 | |
30 | 48 | 5,325000 | 6,046,000 | |
定年 | ー | 9,940,000 | ||
高専・ 短大卒 |
10 | 30 | 987,000 | 1,269000 |
15 | 35 | 1,837,000 | 2,274,000 | |
20 | 40 | 2,924,000 | 3,465,000 | |
25 | 45 | 4,230,000 | 4,935,000 | |
30 | 50 | 5,658,000 | 6,459,000 | |
定年 | ー | 9,832,000 | ||
大学卒 | 10 | 32 | 1,121,000 | 1,498,000 |
15 | 37 | 2,129,000 | 2,658,000 | |
20 | 42 | 3,431,000 | 4,147,000 | |
25 | 47 | 4,906,000 | 5,782,000 | |
30 | 52 | 6,536,000 | 7,542,000 | |
定年 | ー | 10,918,000 |
(出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」/https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/chingin/r4/)
10年間勤務した場合のモデル退職金(自己都合退職)は、高校卒で907,000円、高専・短大卒987,000円、大学卒1,121,000円となっています。ただし、この数字はあくまで目安であり、職場の規定によって金額が変わる点に留意してください。
退職金の計算方法
退職金の計算方法には、定額制、基本給連動型、別テーブル制、ポイント制などがあり、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の退職金を計算する方法は、「基本給」「支給率(勤続年数によって変動)」「退職事由係数」から算出する基本給連動型が一般的です。
退職金の基本的な計算方法 |
---|
退職金=基本給×支給率(勤続年数により変動)×退職事由係数 |
退職事由係数とは、自己都合の場合に退職金額を減じるための係数です。割合は企業や施設によって異なりますが、6〜10割の間が一般的だとされています(定年退職・会社都合退職の場合は10割、自己都合退職の場合は8割など)。
下記では基本給・支給率・退職事由係数の異なるいくつかのケース別に、退職金の例を解説します。
○Aさんの場合:基本給23万円/4年勤務(支給率2)/退職事由係数0.8(自己都合)
理学療法士のAさんは、訪問介護ステーションで4年間勤務していました。退職時の基本給23万円、支給率2、退職事由係数0.8(自己都合)と仮定して計算すると、Aさんの退職金は、下記のように算出されます。
230,000円(基本給)×2(支給率)×0.8(退職事由係数)=368,000円
○Bさんの場合:基本給30万円/10年勤務(支給率8)/退職事由係数0.8(自己都合)
理学療法士のAさんは、訪問介護ステーションで10年間勤務していました。退職時の基本給30万円で、支給率8、退職事由係数0.8(自己都合)と仮定して計算すると、Bさんの退職金は、下記のように算出されます。
300,000円(基本給)×8(支給率)×0.8(退職事由係数)=1,920,000円
○Cさんの場合:基本給35万円/20年勤務(支給率10)/退職事由係数0.8(自己都合)
言語聴覚士のCさんは、訪問・通所の総合リハビリテーションで20年間勤務していました。退職時の基本給35万円で、支給率10、退職事由係数0.8(自己都合)と仮定して計算すると、Cさんの退職金は、下記のように算出されます。
350,000円(基本給)×10(支給率)×0.8(給付率)=2,800,000円
一般的な企業の退職金事情は?
次に、一般的な企業における退職金事情を解説します。
●退職給付制度がある企業の割合
退職者に対して支払われる退職金は、各企業が任意で設置している「退職給付制度」にもとづいています。退職給付制度の設置は法律上の義務ではないので、退職給付制度がない職場も存在します。
下の表は、退職給付制度がある企業の割合を企業規模別に表したデータです。
企業規模 | 退職給付制度がある企業の割合 |
---|---|
1,000人以上 | 92.3% |
300~999人 | 91.8% |
100~299人 | 84.9% |
30~99人 | 77.6% |
(出典:厚生労働省「3_退職給付(一時金・年金)制度」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaiyou03.pdf)
従業員数が多い企業では、退職給付制度が整備されている割合が高く、反対に従業員数が少ない企業は退職給付制度がない割合が高い傾向にあります。
対して、医療・福祉業界において退職給付制度がある企業の割合と制度形態の内訳は、下記の通りです。
産業の種類 | 退職給付制度がある企業の割合 | 退職給付制度がある企業における制度の形態 | ||
---|---|---|---|---|
退職一時金制度 のみ |
退職年金制度 のみ |
両制度併用 | ||
医療・福祉 | 87.3% | 88.6% | 3.8% | 7.6% |
(出典:厚生労働省「3_退職給付(一時金・年金)制度」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaiyou03.pdf)
医療・福祉業界で退職給付制度がない企業の割合は12.7%となっていました。制度の形態については、退職したときに退職金を一括で支払う「退職一時金制度」のみで運用している企業が多い傾向です。
●退職金受給に必要な最低勤続年数
退職金が受給できる勤続年数の条件は、企業によって異なります。下の表は、退職一時金受給に必要な最低勤続年数の割合を示したデータです。
最低勤続年数 | 自己都合退職の場合 | 会社都合退職の場合 |
---|---|---|
1年未満 | 2.5% | 9.3% |
1年 | 18.0% | 24.7% |
2年 | 11.2% | 9.1% |
3年 | 51.5% | 32.4% |
4年 | 1.6% | 1.3% |
5年以上 | 8.9% | 6.0% |
無回答 | 6.4% | 17.3% |
(出典:東京都産業労働局「表紙_中小企業の賃金・退職金事情.indd」/https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/r4chintyo_2-7.pdf)
退職理由が自己都合・会社都合のどちらであっても、退職一時金の受給に必要な最低勤続年数を「3年以上」としている企業が最も多くなっています。
●退職金算定基礎額の算出方法
退職金算定基礎額とは、退職金支給額の計算で基礎として扱われる金額のことです。退職金算定基礎額の算出方法には、下記のような種類がありますが、「退職時の基本給」を退職金算定の基礎として用いるのが一般的です。
- ・退職時の基本給
- ・退職時の基本給×一定率
- ・退職時の基本給+手当
- ・(退職時の基本給+手当)×一定率
(出典:東京都産業労働局「表紙_中小企業の賃金・退職金事情.indd」/https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/r4chintyo_2-7.pdf)
理学療法士の生涯年収
令和4年賃金構造基本統計調査のデータをもとに理学療法士の生涯年収を算出すると、約1億9,395万円となります。なお、この数値は平均年収額に45年(20歳から定年の65歳まで働く想定)を掛けて算出したものです。
平均年収 | 約431万円 |
---|---|
平均月収 | 約30.1万円 |
平均賞与 | 約69.8万円 |
(出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/index.html)
上記の平均月収には、資格手当・通勤手当・夜勤手当などの手当支給額が含まれるので、手当などを含まない「基本給」とイコールではありません。そのため、退職時の基本給は、上記の表で示している平均月収と異なる点に注意しましょう。
理学療法士の給料・年収や、実際の求人情報で提示されている基本給、手当支給額については、下記のページもぜひ参考にしてください。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が退職金を増やすには?
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のなかには、退職金を老後資金や投資に活用しようと考えている方も多いでしょう。
以下では、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が退職金を増やすための方法を2つ紹介します。
積み立て制度を利用する
退職金を増やす方法として、「資産運用」が挙げられます。投資初心者の方は、少額からの投資・運用ができる積み立て制度を利用するとよいでしょう。
退職後に備えた積み立て制度には、「つみたてNISA」や「確定拠出年金」などがあります。
-
●つみたてNISA
つみたてNISAとは、投資未経験者・初心者を支援するために創設された投資の非課税制度です。つみたてNISAの対象商品には信託期間が長期間の商品や、手数料が不要な商品が多く、主に長期・積み立て・分散での投資をサポートする内容となっています。つみたてNISAの運用で得た利益には課税されず、原則的に確定申告も不要です。
(出典:金融庁「つみたてNISAの概要」/https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/tsumitate/overview/index.html)
-
●確定拠出年金
確定拠出年金とは、払い込んだ掛金を加入者自身が運用し、運用結果にもとづいて給付額が決定される年金制度です。確定拠出年金には、事業主が掛金を拠出する「企業型年金(企業型DC)」と、個人が掛金を拠出する「個人型年金(iDeCo)」の2種類があります。確定拠出年金は、税制面での優遇措置が充実している点がメリットです。掛金全額が所得控除の対象となり、運用益は非課税となります。
(出典:厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/gaiyou.html)
基本給を上げる
先に紹介したように、基本給は退職金を算出する際の基礎となります。そのため、退職金を増やすためには、まず基本給を上げることが大切です。転職を考えていない場合は、新たな資格の取得やキャリアアップで昇給を目指しましょう。
一方、今以上の昇給が見込めない方の場合は、思い切って転職するのも1つの手段です。これまで培ってきた経験を武器に、自身のスキルが求められる職場を探してみてはいかがでしょうか。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士をはじめとする、コメディカル職専門の求人サイト「マイナビコメディカル」では、経験豊富なキャリアアドバイザーによる無料転職サポートを実施しております。転職を考えている方は、ぜひ一度マイナビコメディカルにご相談ください。
転職のプロと考えていきましょう!(完全無料)
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が生涯年収を上げるには?
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、老後の資金を考えるにあたっては、生涯年収(退職後も含めて、一生涯のあいだに手にするお金のこと)に目を向けることも大事です。
最後に、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が生涯年収を上げる方法を2つ解説しましょう。
独立・開業する
独立・開業は、専門的な技術・資格が求められる職種に向いている方法です。独立・開業すると事業で得た報酬をそのまま受け取れるので、うまく集客できれば生涯年収の向上につながるでしょう。
ただし、理学療法士・作業療法士は、資格名称を用いた開業ができない点に注意してください。
3 この法律で「理学療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。
4 この法律で「作業療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、作業療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、作業療法を行なうことを業とする者をいう。
(引用:e-Gov法令検索「理学療法士及び作業療法士法」/https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000137 引用日2023/11/15)
理学療法士・作業療法士は法律上、医師の指示の下で該当する療法を行う者と規定されており、独立・開業したとしても理学療法や作業療法を提供することができません。リハビリテーションの業務経験が役立つ介護業務や整体院、リラクゼーションサロンなどが事業の候補となるでしょう。
一方、言語聴覚士は、主な業務において医師の指示を仰ぐことが規定されていないため、「言語聴覚士」の名称を用いて独立・開業ができます。
この法律で「言語聴覚士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、言語聴覚士の名称を用いて、音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者についてその機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の援助を行うことを業とする者をいう。
(引用:e-Gov法令検索「言語聴覚士法」/https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=409AC0000000132_20220617_504AC0000000068 引用日2023/11/15)
専門的なスキルを磨く
専門的なスキルを磨き、スキルアップ・キャリアアップを実現することで、生涯年収アップにつなげる方法もあります。専門性を身につけるために、医療・介護の現場で評価が高い資格を取得するのもよいでしょう。
以下では、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の生涯年収アップに役立つ資格を3つ紹介します。
- ●認定理学療法士
理学療法士としての専門性を高め、質の高い理学療法を提供することを目的とした認定資格です。同様の認定資格に認定作業療法士・認定言語聴覚士があります。
- ●呼吸療法認定士
吸入療法や酸素療法など、呼吸に関する治療法の専門資格です。近年は高齢化の進行により呼吸療法の普及が求められており、需要が高まっています。なお、呼吸療法認定士は、理学療法士と作業療法士が取得可能な資格であり、言語聴覚士の方は取得できません。
- ●栄養サポートチーム専門療法士
栄養管理に関する専門的なスキルの証明ができる資格です。資格を取得することで、栄養状態が悪い患者さまに最適な栄養療法を提供する「栄養サポートチーム」の一員として活躍できます。
専門的なスキルを磨くことは、転職活動においても有利に働く可能性があります。興味のある方は挑戦してみてください。
まとめ
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の退職金は、一般的に「基本給」「支給率(勤続年数によって変動)」「退職事由係数」から算出されます。「将来に備えて、なるべく多くの退職金を受け取りたい」と考える方は、基本給が高めの職場を選ぶのがおすすめです。なお、現在の職場では基本給のアップが見込めないという場合は、思い切って転職を検討してみるのもよいでしょう。
マイナビコメディカルでは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が活躍できる全国の求人を豊富に掲載しています。キャリアアドバイザーによる非公開求人の紹介や履歴書・職務経歴書の添削サポートなども行っておりますので、転職を検討している理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の方は、ぜひマイナビコメディカルをご利用ください。
キャリアアドバイザーに転職相談する(完全無料)
職場探しをお手伝いします♪マイナビに相談する
※当記事は2023年11月時点の情報をもとに作成しています
監修者プロフィール
マイナビコメディカル編集部
リハ職・医療技術職・栄養士のみなさまの転職に役立つ情報を発信中!
履歴書や職務経歴書の書き方から、マイナビコメディカルサイト内での求人の探し方のコツや、転職時期ごとのアドバイス記事などを掲載。
転職前の情報収集から入職後のアフターフォローまで、転職活動の流れに添ってきめ細やかなフォローができる転職支援サービスを目指しています。